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私の名前は、望月ハルカ。高校生となり、女子校に通っている。中学までは共学で、別に男性が苦手なわけではない。たまたま駅から近く、不思議な構造をした高校の建物と私の学力とも丁度いいところだったという理由で、ここにしただけだ。

それこそ、周りにビルが建っていて、体育の授業で水泳がないのは入ってから知ったことだ。廊下が何故か外にある雨風や雪が降ると大変な目にも合うような学校だ。奇妙にも、階段は無数にあり、廊下に出なくとも教室まで行けるような構造になっていたりもする。


(建てた時の流行りだって見学の時に聞いたけど、流行りなら他の学校でも同じ構造のところがあるはずなのに。ここだけってことは、流行りではなかったよね。絶対に)


小学校時代から一緒な友達もたくさんいたのは、ハルカと同じ理由ではない。この女子校の制服は2パターンあって、可愛い系とカッコいい系とがあったからだ。


(流行りの反映で成功したのは、制服だよね。この学校)


そんなことを学校に通い始める前にハルカは思ってしまったほどだ。

もっとも、ハルカは物心ついてから、毎日のように不思議なことに遭遇している。この学校では、他では決して見られない不思議なこともよくあった。



それこそ、よく言われていたのは……。


「ハルカは、目ざといよね」


家族や幼なじみ、小学生からの友達の“目ざとい”は、殆どがいい意味だ。

でも、それ以外の友人や私をよく知らない人の“目ざとい”には、色んな意味が含まれていて、そこから離れて行く者も多くいる。離れて行くなら、まだしも、忠告のつもりでアドバイスしてくれる者や悪口を私だけでなく、幼なじみや友達に言う者も居る。本人に言ってくれればいいのだが、至るところで悪口やら、近づくのを止めさせようとする人も現れたりしていて、最近、考えさせられることが多い。

何とも、距離感は難しいものだと成長すればするほど思ってしまう。何より、女子しか居ない空間は、共学よりも凄まじいものがあることも思い知ることになった。


趣味は、散歩と読書。あとは、観察すること。

日常を観察していると面白いことや驚くことが、瞬間、瞬間にいつも、どこかで必ず起こっている。それを目撃しているだけに過ぎないのだが、それを見つけることが、ハルカは好きなのだ。



その日も、ハルカは近所を気の向くままに散歩していた。季節を楽しみながら、流れ行く雲を見ながら、ふと空気が違うところを発見した。

そこで出会ったのは、猫溜まりのようなところで、猫たちが野生をなくして、お昼寝しているところだった。


(凄い場所を見つけてしまった!)


猫のパラダイスが、ここに広がって……、いや、落ちていた。

思い思いにのんびりして、寛ぎきっている猫たちを見て、ハルカも自然と笑顔になっていた。

ハルカの家族には、猫アレルギーがある者もいるため、家で猫を飼うことはできない。

逆に犬が、ハルカは苦手で……と家族の誰かが好きな動物を誰かが苦手やアレルギーで飼えない状態にあることもあり、家では動物を全く飼わないことに決まっている。

それでも、心が荒んでいたり、落ちこんでいたりする時に好きな動物を見たくなり、そういう時にこういう平和な風景を思い出すだけでも、ハルカはまた頑張ろうという気になれていた。


(素敵なところを今日は、見つけられたな)


「ただいま~」
「お帰り。待ってたのよ」
「?」


帰宅して、母にそんなことを言われて、ハルカはきょとんとしてしまった。


「ほら、早く買い物したの頂戴。お夕飯に間に合わなくなっちゃうわ」
「あ、忘れてた」
「ハルカったら」
「ごめん! すぐ買って来る」


買い物を頼まれて出たのに買うのをすっかり忘れたハルカ。その手にはしっかりと何を買えばいいかのメモを持っていた。すれ違うように兄が帰宅して来て、駆け出そうとしたハルカを止めて、手に持っているメモを回収した。


「いいよ。俺が行くから」
「でも……」
「来てるぞ」
「え?」


兄に促されて見た方向には、幼なじみの日向コウキが立っていた。兄と同じ高校に通っていて、家も近所でお互いの両親が昔からの知り合いなのもあり、コウキの両親が不在がちなこともあり、夕飯を食べて行くほど仲がいい。

気まずげにハルカは、視線をさまよわせるも、コウキは慣れたもので、買い物を頼まれたのに散歩に夢中になって戻って来た程度では、馬鹿にしたりはしない。

そう、馬鹿にされたりはしないが、恥ずかしさはなくなるものではない。


「なんか、いいことあったのか?」
「……うん」


お見通しとなったコウキは、話しながらも慣れたようにハルカの家に上がって、母に挨拶していた。

程なくして、ハルカが買い忘れたのを兄が買って来てくれ、しばらくして夕飯が完成したのだった。


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