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しおりを挟むシェフたちは、エドガーがまとめている騎士団の厨房で、じっと監視している老婦人に萎縮しながら料理をしていた。騎士たちも集まると更に酷かった。まだ、一日目なのに朝と昼だけで、シェフたちの精神力は疲弊していた。
マリーヌも、宮廷のキッチンで、こんな思いをしていたのかも知れない。自分たちは、数人でやっているが、彼女は一人でやっていたのだ。それこそ、追い出すように夜中に作業させるまでになったのだが、彼女は不平不満など一言も言わなかったのだ。
それどころか、昼間は宮廷のメイドの失敗をフォローして頑張っていたのだ。それも料理長に聞いて、シェフたちは驚いていた。
あのメイド長が、大層気に入ったほどの娘なのだとか。メイドとしても優秀で、何より心優しいのだろう。知り合いでもない若いメイドに手を貸していたのだ。他のメイドたちは、見て見ぬふりをして、自分たちの仕事をこなして何もしようとしなかったというのに。
それこそ、手伝ったところで、フォローしきれないと思って、一緒に怒られるなんてしたくなかったのだろう。それどころか、その若いメイドが、それで追い出されて喜ぶ者もいたかも知れない。
どうも、それは嫌がらせの類だったようだし……。
まぁ、それはメイドの方の問題だ。
シェフたちは、自分たちのしてきたことを思い返して反省していた。
「酷いことしたんだよな」
「そうだな。それを謝るだけなら簡単だが、態度で示す場を与えられたんだ。3日間、私たちはローテーションでやれるが、彼女は一人っきりで成し遂げたんだ。音を上げるなよ」
シェフたちは、それぞれ頷いた。それこそ、料理だけでいいと言われても、掃除や洗濯もこなしていた。自分たちの仕事じゃないと文句も言わず頑張っていたが、老婦人と騎士たち……特に副団長の殺気にシェフたちは胃に穴が開きそうになっていた。
「副団長様?」
「っ、マリーヌさん」
「こんなところにいらっしゃるなんて、お腹空いてるんですか? 何かお作りしましょうか?」
テオドールは、マリーヌを見て嬉しそうにしつつ、明後日まで休みのはずたと思い出していたが、当たり障りのないことを言って誤魔化していた。
「団長のところにお茶を持って行こうかと思いまして」
「でしたら、準備しますね。お二人分で大丈夫ですか?」
「いえ、私がやります。マリーヌさんは、休んでいてください」
そんなやり取りを目撃したシェフたちは、女嫌いで有名なテオドールがマリーヌを気にかけていることに驚きつつ、先程までの殺気が無くなったことに感謝していた。
「一日、休めましたから、大丈夫です」
テオドールが、それでも心配だからと言うのを見かねて、老婦人がシェフに声をかけた。
三人分のお茶とお菓子を用意しろと言うのだ。シェフは、不思議そうにしながらも、老婦人を怒らせまいとすぐさま用意した。
「マリーヌや、これ持って、団長たちとお茶しといで」
「え?」
三人分用意されたそれに副団長は、老婦人を見た。
「三人で、お茶をして休憩でもすればいいさ。若い子とお茶しながら、休めるなんて贅沢だろ?」
テオドールは、目を輝かせて頷いた。
「マリーヌさん、せっかくですから、お茶にしましょう」
「えっ、でも……」
「団長も、詳しい話を聞きたがっていましたよ」
「あ、そっか。話をするって言ってましたよね。そうでした」
マリーヌは、ならばとお茶を持とうとしたが、テオドールがそれを持つ方が早かった。
「持ちます。行きましょう」
「あ、でも……」
それは、自分の仕事だと言いたがったが、テオドールは聞くより早く歩いていた。
「マリーヌや。ここは、大丈夫だよ。ゆっくりしといで」
そんなことを言われて、マリーヌは困惑しながら、老婦人とシェフたちを見て、何とも言えない顔をして、テオドールの後を追いかけて行った。
「見たか?」
「あぁ、あの女嫌いで有名な副団長がな」
「マリーヌちゃんには、感謝しかないな」
「そうだな。美味いもん作らないとな」
マリーヌの手料理を食べたがっている騎士たちに少しでも美味しいと思ってもらえるようにとシェフは、渾身の料理を作ることにした。
老婦人は、やれやれとシェフたちを見ながら、マリーヌが働きたいと騒ぎ立てそうだと思って、エドガーが新しい仕事を与えてくれることを願っていた。
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