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しおりを挟むとある国で毎年、害獣と呼ばれる凶暴な生き物の討伐の命令が騎士団になされている国があった。
それさえなければ、国はこの世界のどの国よりも、素晴らしいと国民は誰もが自国を自慢に思っていた。だが、年々酷くなっている被害に戦々恐々として怯える国民は多くいた。それこそ、被害が逆に少なくなり始めている隣国へ移住を考える者も出始めていた。
国民への被害をくい止めるために騎士団が動くことになった。それは、もはや毎年の恒例のようになっているが、どこの騎士団が討伐にでるかは、ローテーションとなっていた。
隣の国では、そんな被害がないらしく、毎年害獣がはびこって大変なことになるこの国のことを隣国の王族も国民も心配しているように装いながら、そんな目に合うようなことをしている罰だと揶揄して長年馬鹿にしているような状況となっていた。
そんなことを言われるほど、明らかな差が出始めたのも、ここ数年のことだった。こんなに明らかな差が出てしまうほどの罰当たりなことをした者がいたのかも知れないと思う者もいるくらい、騎士団が毎年奮闘しても、その差は開く一方だった。
今年の前半の間、討伐命令がなされたら出動する騎士団の団長をしているエドガー・セギュールという男がいた。燃えるような紅い髪を持ち、敵に対して情け容赦をかけることの全くない男だが、愛妻家として有名で、若くして恋愛結婚して、年頃の娘と息子がおり、家族をこの上なく愛していた。
彼にとって、任されている騎士団は、第二の家族だった。数年置きに回ってくる騎士にとって一番過酷な任務に思うことは色々あった。
その討伐の任務で同期の殆どが除隊して、亡くなっているのだ。そんな中で、今だ団長として彼は指揮をしていて、この騎士団は運がいいと思われているところもあった。運ではなく、戦闘狂が紛れているだけなのだが。
「緊張することはいいことだが、緊張しすぎるな。訓練を思い出して連携して動けば大丈夫だ」
「は、はい」
入ったばかりの騎士たちだけでなくて、毎年恒例となっている討伐命令がついに所属しているところに回ってきたことにみんなピリピリしていた。
みんな、この討伐のために辛い訓練をしているのだ。その分、給金もいい。それに釣られるのも、毎年どこかの騎士団に配属されるが、そういう奴を見極めて指導するのも、一苦労だった。そうでなければ、他の騎士たちの命が危うくなる。そんな奴の不順な動機のせいで、犠牲者など出したくはない。そんな生ぬるいものではないのだ。
今年は、討伐にあたる年だからと新人の教育も、いつもより念入りに行われていた。エドガーも、気にかけていて、何かとコミュニケーションを図っていたが、知れば知るほどいい奴らが配属されたと思っていた。それこそ、勘違いした思考はしていなかったはずだ。新人たちは害獣の恐ろしさを知っていた。
もっとも、いくら訓練していても対峙したら、その恐ろしさが生ぬるかったと思い知ることになるだろうが。
「今年も、この時期がきちまったな」
「そうですね」
エドガーは、副団長のテオドール・アルトワとそんなやり取りをしていた。ピリピリするのも無理はなかった。どんなに訓練していても、あの害獣によって騎士の何人かが怪我を負わされ、命を落としてきたかわからないのだから。
今年の前半は、自分の任されている騎士団の番だが、除隊者を出さずに終わりたい。難しいだろうが、それは毎回エドガーが願ってやまないことだった。己の任されている騎士団の騎士たちを五体満足のまま、家族のもとに愛する人のもとに帰してやりたい。戦場では、そんなこと思わないが、害獣討伐の任務で一生をあの害獣のせいで台無しになんてなってほしくはなかった。
去年は、エドガーが若い頃から一番仲の良かった同期を送ることになった。討伐数がそれなりに多い強者だったが、彼は自分の騎士団に入ったばかりのヘマで、それを庇って死んだのだ。そいつは、己が討伐数では一番だと思っていたが、エドガーが一番は別にいると言うことを伝えたことはなかった。
同期が、死んだのだ。大したことないと手柄をあげようとして、一人で討伐しようとしていた馬鹿な新人を守って、呆気なく最期を迎えることになったのだ。
彼はエドガーと違って、最近結婚したばかりだった。子供も生まれることを心待ちにもしていた。それなのに……。そんなことを思うとやるせない気持ちと怒りが込み上げてきてならなかった。それでも、彼の選んだ女性は泣き崩れることなく、夫を見送っていた。あれが、自分の妻だったら……。葬儀に参列しながら、泣きたくなってしまった。助けられた若い騎士は、害獣の恐ろしさだけでなくて、助けられて生き残ったことで色んな人から言われることになり、騎士を続ける自信がなくなったとさっさと辞めてしまったようだ。それこそ、自分の軽率さでこんなことになったと思ってはいないようだ。そんなゴタゴタがあって、その騎士団は大変なことになっているようだ。
エドガーは、それを知っているからこそ、より一層慎重になっていた。自分の任されている騎士団たちをそんな風に死なせるものかと思っていた。
たとえ、自分の率いる騎士団にとんでもない戦闘狂がいるとしても、その人物にばかり頼ってはいられない。
その戦闘狂こそが、害獣討伐数は群を抜いて一番なことをエドガーは知っていた。報告も、国王陛下にはきちんとしているが、何分本人はそれを自慢に思っていないこともあり、褒美うんねんにも興味がなさすぎて、それを貰うくらいなら目立つようなことはしたくないと言うような男のため、褒美代わりに除外されているのだ。
それこそ、自分の率いる騎士団にいることでエドガーは非常に心強いものがあった。
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