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卒業が近くなり、婚約者がいないと何かと面倒というか。恥をかくことになるのだ。

だから、お互いの両親は子供のためにと婚約させたのではなかろうか。

それを我慢ならないと破棄をしたいと感情的に言い始めたのだ。バレリアの中のその辺の段取りがきちんとしているようには見えない。

両親も、今更だと言わんばかりの顔をしていたから、有名だったのだろう。

そうなってから、アドルフィトはわざとこう言った。散々、姉に迷惑をかけられてきたこともあるのかも知れない。


(まぁ、この機会に言いたくもなるのもわからなくもないけれど)


ルシアは、そんなことを思っていた。

両親も、止める気がないようだ。はっきりさせたいのかも知れない。


「みんな知ってることなのに。婚約者の姉さんが知らなかったなんて思いもしなかった」
「はぁ!? 馬鹿にした物言いをしないでよ!」
「仕方がないだろ。馬鹿すぎるんだから」
「っ、お父様!」


姉弟の喧嘩が始まって、分が悪いとわかったのか。姉は父を呼んだ。

だが、呼ばれたところで父が姉の味方をすることはなかった。


「あー、婚約破棄だったな。だが、本当にいいのか?」
「いいに決まってるわ! こんなにコケにされているとは思わなかったわ。大体、知っていたなら、先にそう言ってよ! そんなのと婚約していたなんて、だからね。みんなが、私から離れていったのはそのせいね。あの婚約者のせいなんじゃない!」


(全部じゃないわよ。お姉様だって原因をたくさん持ってるわ。それを何も思いつかないみたいに言えるなんて、あの頭の中は私たちとは違う別のものがつまってそうだわ)


ルシアは、そんなことを思って姉を見ていた。

両親や兄も、ルシアにそっくりな顔をしていた。


「そうか。そこまで言うなら破棄にしよう」
「ありがとう! お父様なら、わかってくれると思っていたわ!」
「破棄したいと言ったのは、お前だからな。このあとで、ぐだぐだと蒸し返すことは許さないからな。話は以上だ。さっさと戻れ」
「え? 戻れって、何よ?」
「お前の婚約は、まだ破棄にはなっていないんだ。あちらに戻れと言っている」
「そんな、あんなところに戻れなんて酷いわ」


そう言って、また泣き真似をするバレリアにげんなりしてしまった。


「バレリア。破棄にするとお父様が言っているのだから、あと少しのことじゃない。破棄になるまでは、婚約しているのよ」
「でも、破棄になるんだからいいじゃない」


バレリアは、あの家に戻りたくないとごねまくっていた。

両親も、アドルフィトも、破棄が正式に決まるまではと言いながらも、できることなら戻って来てほしくないと言うのをオブラートに包み込んでいた。これ以上、本音で話したところで面倒くさいと思ったのだろう。

どうにかして、バレリアをあちらに戻らせようとしているのは明らかだった。


「それこそ、そこまで頑張って花嫁修業をぎりぎりまで頑張っていたとわかれば、次の婚約者を探すのに少しは役に立つかも知れないわよ?」
「っ、そ、そうね」


母親の言葉に目を輝かせてバレリアは次のために仕方がなさそうに出て行った。


(……わかりやすい人よね)


ルシアは、そんな姉を何とも言えない顔で見送った。

多分、こんな話を聞いていてもルシアには全く理解できないことだと思っていて、バレリアがルシアに何か言うこともしなかったのはありがたかった。


「よかったんですか?」
「本人がいいと言うんだから、いいんだろ」
「卒業間近なこと、忘れてたりしませんよね?」
「……どうだろうな」


アドルフィトと父の会話に母は、げんなりした顔をしていた。

それこそ、バレリアがあれから、再三に渡って破棄を早くしてくれとせっつくように言って来たようで、どうにかしてもたせようもしたのも気づくことなく、仕方なく父は正式に婚約が破棄されるように動いたようだ。


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