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「ルシア嬢は、とても聡明なようだ」
「そうですね。すぐ上のお兄さんに似たのね」
「そういえば、最年少で留学することになったとか。いやはや、ルシア嬢の成長が楽しみですな」


バルトロメの両親は、そんな風にルシアのことを最初は褒めちぎってくれていた。更には、出来の良い息子のアドルフィトのことも、同様に褒めちぎったのだ。


(両親は、まともそうね)


ルシアは失礼にも、そんな印象を持った。

バルトロメは、そんな両親にムスッとしていた。無理やり連れて来られて謝罪させられて不満を隠しもしないだけでなくて、自分よりも優秀な子息の話題に我慢ならないかのように見えて仕方がなかった。

何で謝罪しなきゃならないのかと言わんばかりの態度に彼の両親は気づいているだろうにそれを咎めもしないのだ。


(何だか雲行きが悪くなってきたわね)


それこそ、この親にして、この息子ありと言えた。これも、パフォーマンスにすぎないのだろう。きちんと謝罪して見舞いの品を弾んだのだから、他所に何を言われても終わったことだと流すつもりもありそうだ。

そんな格上の家の面々にルシアの両親は、最低限な応対をしたかっただろうが、それなりの大人な対応をしていた。その辺は流石としかいえない。

ルシアとしては……。


(そんなこといいから、もう帰ってくれないかな。今、ご飯食べた後で物凄く眠いのよね)


何やら自慢話を始めたことに興味をなくしていた。まだ、痛々しい包帯だらけのルシアは、愛想笑いを浮かべながら、そんなことを思っていた。7歳なのだから、許されるとばかりにしていたが、相手には伝わらなかったようだ。

こういうところも、バルトロメが両親によく似ているところのようだ。

ぺらぺらと聞いてもいないことを言い続け、いつの間にやら聞いてもいないのにバルトロメの弟の話に移っていた。どうやら、そちらの息子の方が自慢なようだ。


(お兄様のことを褒めつつ、自分たちの息子の自慢をこんな時にまで聞かせたいって、どうなんだろ?)


ルシアは、うとうとしながら、そんなことを思っていた。

ルシアの両親は聞いてもいないことをぺらぺらと話す二人にまた始まったかという顔をしていたが、ルシアはそれを見てはいなかった。

それを見ていれば、これまでも散々迷惑に思っていたのだろうなと思っていたことだろう。

それでも、厄介な娘と婚約してくれたのだからと邪険に扱うこともできなくなり、強く言えずにこらえるしかなかったようだ。

だが、相手の両親はそんなことお構いなしに更に自慢するから、雲行きが怪しくなっていた。バルトロメよりも歳が離れていて、そのために先に生まれたバルトロメを跡継ぎにしてしまっていることを後悔し始めているかのように言うのだ。それが、あからさまで気になって仕方がなかった。

だからといって、そんな話をここでされても返答に困るだけだ。何よりバレリアの嫁ぎ先になるはずが、そうでなくなるのは非常に困る。そこは同意できないところだ。


(お姉様が跡継ぎではないところに嫁ぐとなると物凄く大変なことになるのでは?)


ルシアは、ふとそこに行き着いて眠気もどこかに吹き飛ぶことになった。


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