13 / 65
13
しおりを挟む使用人や母親が悲鳴をあげて、父親が何事かと駆けつけるとぐったりと倒れているルシアが倒れていて、そんな姿を見てみんなは最悪なことが頭をよぎったようだ。血が流れ始めていたことも大きかった。
「すぐに医者を呼べ!」
「ルシア!」
「寄せ! 今は動かすな」
「でも、頭から血が出ているわ」
「そこを圧迫止血するんだ」
父親が、母親にそんな話をしていた。執事が、医者を呼びに行かせている間、姉の婚約者のバルトロメはというと……。
「……あー、その、間が悪いようなので、私は、これで失礼することにします」
「「は?」」
バルトロメの言葉に両親だけでなくて、使用人たちも信じられない者を見る目を向けた。
その目は、こいつ、何を言ってるんだ?同じ人間なのか?という目を向けていた。
だが、そんなバルトロメのように空気が全く読めないことを言う者が、もう一人いた。
「バルトロメ様。そんな、来たばかりではありませんか」
バレリアは妹が階段から落ちたというのに何もなかったかのようにしていた。落ちて来るところも、ばっちり近くで見ていたはずだが、顔色1つ変えずにいた。それこそ、欠片の心配もしていなかった。ただバルトロメが帰ると聞いて残念がり、帰せまいとして必死になっていた。
だが、バルトロメはここに自慢話をするために来たようなもので、それを聞いてくれないとわかった今、ここに長居する理由が彼にはない。
それよりも、面倒くさいことになる前にさっさと他所に行く方が楽しいだろうと思ってすらいた。
「こんな状況だ。私がいても邪魔だろ? 私は医者でもないしな」
確かに医者ではないだろうが、今のこの状況下でさっさと帰りたがるバルトロメに両親も、使用人たちも眉を顰めずにはいられなかった。
だが、そんな彼を理解したのは婚約者となったバレリアだけだった、
「それなら、出かけましょうよ。私も、医者でもないですから。いても何かできるわけでもないですし」
そんなことを平気で言う二人に両親が激怒したのは、すぐだった。そんな呑気というか。場違いなことを言うのを聞いて、彼ら以外は腹を立てていた。
「元はと言えば、あなたがルシアを部屋まで付き添おうとしたメイドに大した用事でもないのに呼び止めたのがいけないのよ!」
「そんなことないわ。仮病だと思ったのよ。それに大した用事だなんて酷いわ。バルトロメ様にいただいたお土産の紅茶を淹れさせようとしただけじゃない。彼女は、使用人の中でも上手いんだから、頼んで何が悪いのよ。そんな言い方するなんて、お母様こそ、バルトロメ様に失礼だわ。どんなに良いお土産を貰っても、台無しにされたら、幻滅するに決まってるじゃない」
母親の言葉にバレリアは、そんなことを平然と言ったのだ。
まさにその言葉に幻滅しているのは、バレリアとバルトロメ以外だ。
まともなようなことを言っているが、その内容がおかしいことに彼らだけが気づいていなかった。
それを聞いて父親もバレリアを責め立てたが、それを擁護したのは、バルトロメだった。
「仮病だと思ったのなら、仕方がないですよ。それに私の土産を優先するのは当たり前じゃないですか。婚約者なんですから」
「っ、」
そんなことを言う二人に両親は、ここに居るだけで邪魔になると思い、出て行けと言ったのも、すぐだった。
二人は言葉通りに出て行くことにしたようだ。そんな二人になんて構っていられないとばかりにルシアを見た。
「ルシア。しっかりするのよ。母が、ついていますよ」
「私もいるぞ。ルシア、頑張れ!」
ぐったりするルシアの手を母は握り続け、父も必死に声をかけ続けた。
他の使用人たちも、必死になってルシア様と呼んでいたが、その声でルシアが目を覚ますことはなかった。
バレリアたちは、何事もなかったように本当に普通に侯爵家を出た。それを見ていた者はありえないとばかりにするばかりだった。
いくら何でも実の妹が階段から落ちるのを目の当たりにしておいて、平然とでかけられる神経を持つバレリアを理解できる者は一人もいなかった。
それにバルトロメもだ。でかけたがるバレリアを止めるでもなく、一緒になって普通に出かけたのだから、ありえないことだらけでしかなかった。
片方だけでも厄介すぎるのに。そんな二人が婚約したのだ。もはや、同じ考え方をする人物が婚約者となったことで、更に厄介さに磨きがかかることになるとは誰も思うまい。
こんな相乗効果を期待したわけではやかったが、明らかに悪い方にまっしぐらなことは間違いないだろう。
12
お気に入りに追加
120
あなたにおすすめの小説

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。
婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした
アルト
ファンタジー
今から七年前。
婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。
そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。
そして現在。
『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。
彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
もう私、好きなようにさせていただきますね? 〜とりあえず、元婚約者はコテンパン〜
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
ファンタジー
「婚約破棄ですね、はいどうぞ」
婚約者から、婚約破棄を言い渡されたので、そういう対応を致しました。
もう面倒だし、食い下がる事も辞めたのですが、まぁ家族が許してくれたから全ては大団円ですね。
……え? いまさら何ですか? 殿下。
そんな虫のいいお話に、まさか私が「はい分かりました」と頷くとは思っていませんよね?
もう私の、使い潰されるだけの生活からは解放されたのです。
だって私はもう貴方の婚約者ではありませんから。
これはそうやって、自らが得た自由の為に戦う令嬢の物語。
※本作はそれぞれ違うタイプのざまぁをお届けする、『野菜の夏休みざまぁ』作品、4作の内の1作です。
他作品は検索画面で『野菜の夏休みざまぁ』と打つとヒット致します。
公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌
招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」
毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。
彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。
そして…。
婚約破棄されましたが、帝国皇女なので元婚約者は投獄します
けんゆう
ファンタジー
「お前のような下級貴族の養女など、もう不要だ!」
五年間、婚約者として尽くしてきたフィリップに、冷たく告げられたソフィア。
他の貴族たちからも嘲笑と罵倒を浴び、社交界から追放されかける。
だが、彼らは知らなかった――。
ソフィアは、ただの下級貴族の養女ではない。
そんな彼女の元に届いたのは、隣国からお兄様が、貿易利権を手土産にやってくる知らせ。
「フィリップ様、あなたが何を捨てたのかーー思い知らせて差し上げますわ!」
逆襲を決意し、華麗に着飾ってパーティーに乗り込んだソフィア。
「妹を侮辱しただと? 極刑にすべきはお前たちだ!」
ブチギレるお兄様。
貴族たちは青ざめ、王国は崩壊寸前!?
「ざまぁ」どころか 国家存亡の危機 に!?
果たしてソフィアはお兄様の暴走を止め、自由な未来を手に入れられるか?
「私の未来は、私が決めます!」
皇女の誇りをかけた逆転劇、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる