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しおりを挟むルシアの生まれた国の名前は、クラベル国という名前だった。周りの国々が目立つような国ばかりの中で、何か変わったことはあるかというと周りにこれだけは自慢できるというものが特にない国だったりする。
この国では12歳から18歳まで貴族も平民も学園に入って学ぶことが義務付けられていた。
隣国のディアンサという国では、その年齢に達する前であろうとも受験をして合格すれば入学することが許されて、他国の者であろうとも合格すれば、その学園できちんと学ぶことができるほど、教育に関してはとても熱心だった。
大概は入学許可が降りる年齢まで、あと数ヶ月の人たちが前倒しにして入る者が多かったようだ。
そんな風に受け入れるようになって、他国からもディアンサに留学する生徒が増え始めたのを知ったことで、クラベル国でも12歳の年齢に満たなくとも、家庭教師の推薦があれば自国の受験をすることができるようになったのだが、それも最近のことだった。
この国では前倒しで入学するためにわざわざ勉強を頑張ろうとする者は、非常に珍しいことだった。そんな試験をわざわざ受けずとも、年齢になれば必ず入るために受けなければならないのだ。そんな面倒くさいことをしてまで早期で学園に入ろうとは思わなかったのは、早く入っても18歳になるまで、クラベル国では学園を卒業できないせいだろう。
隣国のディアンサでは、学力にあった学年で勉強することができていた。単位さえきちんと取れれば、18歳に満たずとも卒業までもできるような充実したサポートがあったが、早く入れるように真似ただけで、それに見合った卒業ができるようにはクラベル国では対応がされていなかったのだ。何というか。留学生がやたらと増えたことを知って、いい部分のみを取り入れたようにしながら、全体を見て導入したわけでもなかったせいで、受験を受ける側が混乱するかと言えば、混乱する以前の問題が発生していたりする。みんな、勉強に関してはやらずに済むならやりたくない若者しか、この国にはいないのだ。学園に入ってからも、基本さえできていれば、酷い点数にはならないような試験しかないため、よほど頭がよくない限りは留年することもなく、それなりの成績で卒業して大概が、しばらくして婚約者と結婚するのだ。
そんな国で、古い風習がずっと残っているものもあった。学園の卒業パーティーで必ず婚約者とダンスを踊るというものだ。
昔なら、この世界のどこの国でも学園に通っている間に婚約することが当たり前となっていた。婚約者の居ない状態で卒業することほど恥ずかしいことはないとまで言われていた。
だが、時代の流れと共に古臭いと言われるようになり、クラベル国以外ではそんなことにとらわれることなく、ダンスパーティーは婚約者の同伴を必ずすることはしなくなっていた。親族や先生方とも踊るなどとなっていて、婚約者のいる人だろうとも、世話になったことに感謝して踊ったりもするのだ。
そのため、必ず婚約者と同伴しなければ恥をかくなんてことはなくなっていた。何なら、その卒業パーティーで、告白して婚約する者も現れ始めていて、別のイベントが発生し始めてもいた。大いに盛り上がっていたが、クラベル国ではそんな楽しみ方を学園で許されることはなかった。
それだけが、根強く残ることになったきっかけも、王族やら身分の高い者が卒業パーティーで婚約破棄をしたがったからのようだ。
クラベル国の卒業パーティーで問題を起こしたら、一生ものの大恥となっていたが、それでも数年おきに問題を起こす生徒が必ず現れて、その時に卒業する面々は、いい迷惑を被っていたようだ。
そして、そんなことになったりするというのに学園の卒業パーティーで、婚約者がいない状態で参加するのは、物凄い恥だとされているのだ。
そのため学園に通う生徒の誰もが卒業まで1年をきる頃になると焦ることになる者もたまにいた。大概は、そんなことになる前に入学して、1、2年ほどで婚約者が決まることが多かった。どんな人物なのかを学園に入っている生徒が見定めて、両親もその相手について根回しをして決まる感じが一般的となっていた。
それを過ぎると段々と焦り出すのだが、それでも1年をきる前には選り好みさえしていなければ見つかっていた。残る生徒は、選り好みをし過ぎたか。選り好みされて残ったかにわかれることになる。
他の国では、そんな古臭い風習に未だに囚われているのかと思う者が多くなっているが、クラベル国ではそれが両親が子供が大人になる最後の贈り物のようにされていた。
その贈り物ができない両親は、親として不十分だと判断されることにも繋がっていて、どんなにできの悪い子供だとしても、婚約者の一人も見つけられずに卒業パーティーを迎えさせることはあってはならないこととされていた。
まぁ、中にはギリギリになって婚約者がどうしても気に入らないと婚約を破棄する者もいたが、その場合も次に婚約する相手がきちんといることで、破棄となってから慌てふためくような者はいなかった。
そんなことが当たり前となってしまっていて、他所の国で今どき、まだそんなことをやっているのかと呆れられて、馬鹿にされていることも知らず、いや知っていても、他所の国の人といる時は、そうだと賛同して自国の風習を馬鹿にしていても、それをボイコットしようとする者は未だに現れたことがいなかった。
卒業パーティーが目前になると周りが出るつもりだと言われ、婚約者からも念押しされ、恥をかかせるようなことをするなと両親にも言われれば、大人しく卒業パーティーに婚約者と出るしかなかったのもあり、それがクラベル国でだけ残り続けていた。
そして、他の国のいいところを真似して、上辺だけを真似てするせいで、入学するのに年齢が満たない者の受験も、受けたいと言う者が現れても真剣に取り合おうとすることもなかった。それで痛い目を見ることになるまでは、中々変わることがないのも、この国の特徴となっていたりする。
そんな国となっているところで、侯爵家に生まれた次女のルシアは数ヶ月前に7歳となったばかりだった。
彼女は、自分が生まれた国の特徴を詳しく知らずにいた。この年代の子供は、クラベル国では各自の家で家庭教師に勉強を見てもらうことが殆どだった。ルシアも、例に漏れず他の貴族と同様に根を詰めることなく好きに過ごしていた。
だが、他所の国ではクラベル国は幼少期の大事な時期に悠長にし過ぎているせいで、せっかくの才能を台無しにしていると思われてもいる。
それにようやく、気づいて焦りだしているかといえば、そうでもないようだ。教育に熱心ではないこの国にも頭の良い子供が現れることになったのだが、その生徒の扱いも中々に酷いものがあった。
侯爵家では婚約者の問題を抱える娘と学園に早期入学したくて受験をした息子がいたのだが、幼いルシアにとって姉と兄が関わっていることも何も知らないでいた。
自国のことどころか。今日、これから侯爵家で起こることも知らされずにいた。ルシアはその話題に触れることなく、朝から母親に構ってもらえて至福の時を過ごしていた。
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