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ブリジットのいない生活は、マルジョリーが具合を悪くして休んでいる時と長期休暇にしばらく会わないとか以外では、1日に何回も学園で幼なじみを見たし、聞きたくないことを聞かされて相手にさせられたりもした。

そうでないこともあったが、大概は同じような内容ばかりだった。周りが婚約するたび、影でボロクソに言うのだ。そんな幼なじみから解放されることになったのも、留学したからだ。

彼女は好きに言わせておけば、次のところに行くとは言え、それを毎日聞かされるのは辛かった。何か言いたくても、言うと精神的にやられるのだ。そのため、誰もターゲットにされたくなくて、ブリジットの好きにさせていた。それで、幼なじみは完全に誤解していくことになったようだが、それを留学先でもやってくれるとは思いもしなかった。

更に留学前にマルジョリーを悩ませていたのは、婚約者のことだけではなかった。ブリジットと同じように彼女のことを悪く言っている令嬢が多かったことだ。

それが、学園では普通になっていて、マルジョリーは全く楽しくなかった。ブリジットの姿が見えると聞こえない距離感をわかって、別の話題で盛り上がっていようとも彼女のことを馬鹿にし始めるのだ。

そもそも、自分たちもブリジットと同じことをしているという自覚がないせいだ。マルジョリーは、悪口なんて言いたくなくて参加しなかったが、1人で過ごすよりみんなといる方が多かったが、楽しいお喋りは少なくなっていることに次第に1人でいた方が気が楽になり始めたのも、学園に入って1年過ぎた辺りだったろうか。

それは、マルジョリーだけではなくなっていき、、悪口大会が始まると何も言わないでやり過ごす令嬢たちが次第に別に集まるようになったのも、自然とだった。

他愛もない話をして、飽きないとは誰も言わなかった。それこそ、ブリジットのしていることにも、そんなブリジットのことをよく思っていない連中と同じになりたくなかっただけだ。

そこから、マルジョリーは婚約破棄することになって一変して、トントン拍子に幼なじみと留学することになったのだ。いい笑顔で見送った令嬢たちより、心配そうに見送った令嬢たちが本物の友達だと思って留学をした。

そんなことを根に持ちながら、マルジョリーは留学先で幼なじみのやることなすことに他人のふりをするのに必死になっていた。

ブリジットがあからさまな男漁りに来た令嬢だとバレてしまったのだ。……バレないわけがないのだが、本人はバレていないと思っているようだ。いや、幼なじみの中で、どう位置づけられているかはマルジョリーでもわからない。


「あなた、彼女の幼なじみなのよね?」
「えぇ、でも、幼なじみなだけで、友達じゃないわ」
「そうでしょうね。あんなのが友達だなんて言えないわよね」
「……」


ブリジットのことをあれこれ言いたくなくて、関わりたくないと距離を置いて、留学していることを楽しむことにしたが、それでも幼なじみはそんなマルジョリーにお構いなしにいつもと変わることはなかった。

そのせいか、何やら留学している者を観察しているような視線をよく感じて、その辺が嫌だなと思いつつ、マルジョリーは逆に見た目が冴えない風にしている人たちが多いのに気づいて首を傾げていた。

幼なじみがいる間は、いい男たちは冴えない風を装うのか。留学生たちと会わないようにしていたようだと気づいたのも、ブリジットが留学を切り上げてからだった。

そういうのは、ブリジットのように大概短期で切り上げてしまうため、わざわざ長期留学に切り替えたマルジョリーは、男漁りで来たわけではないと思われたようだ。

それによって、幼なじみが留学したがった理由もよくわかったのも、彼女が戻ってからだった、
確かにここは、イケメンが多かった。……まぁ、若干、勘違いしているのも多くいる気がしてならなかったが。ルシス国よりは、イケメンが多いかもしれない。……どうにも見た目だけにしかマルジョリーには見えなかった。

でも、マルジョリーたちのような留学生はみんな男漁りに来たと思っていて、そうでないとわかってすり寄って来るのは、逆に女漁りしているようなものだとなぜ思わないのかが、不思議でならなかった。自分たちがしていることはいいという辺りが、幼なじみにそっくりに見えてならなかった。


「マルジョリー嬢。困ったことがあったら、何でも言ってくれ」
「なら、今、困ってます」
「?」
「なので、話しかけないでもらえますか?」
「は?」
「今、おっしゃってたでしょ? こうやって声をかけられて困っているのをやめてほしいと言っているだけです」
「っ、」


格好いいのを冴えなくわざわざ見せるような連中は、ずっとこそこそしていたのにブリジットがいなくなった途端にすり寄って来るのにいい笑顔で、マルジョリーがそう言った。すると怒らせたようだ。まぁ、怒るとは思っていたが、最初が肝心だと思って笑顔で話したのにそんなことないと言えない程度だったようだ。

すると見かねたのか。他の令嬢がこう言ってくれた。


「毎回言ってるじゃない。あなたたちがやってるのは、異性目当ての留学生たちと何ら変わらないって」
「何だと!?」


男子生徒は更に激怒した。すると他の女子生徒たちも白けた目を向けていた。


「恥ずかしいから、やめてよね」
「本当にそうね。それこそ、こそこそ逃げ惑っていた姿を見てる分、いざって時にそうするんだって思って幻滅しているのにも気づいてないんでしょ?」
「みんな見られているのがわからない時点で終わってるわよ」
「っ!?」
「……」


マルジョリーは、そんな男性陣をその後、まるっと無視した。

それに腹を立てて同じように無視をした 男子生徒たちをこれまで幻滅して見ているだけだった女子生徒たちも無視を始めて大変なことになったが、はっきりものを言うマルジョリーは、そういう令嬢に好かれた。

そんな中で、留学生が長期でいる生徒しかいなくなっても、ずっとダサい格好をしている子息がいた。彼は、留学先の人たちにも見た目にこだわらなさすぎて、これまでも色々言われていたようだが、マルジョリーはそんな彼と話すことが楽しかった。


「ねぇ」
「何かしら?」
「あなた、あぁ言うのが好みなの?」
「……」


これまで、仲良くなった令嬢たちとは違う女子生徒が突然話しかけて来たかと言えば、そんなことを聞かれた。ブリジットがいなくなっても、どこにでもこういう令嬢
はいるようだと思った瞬間だった。

残念ながら、ボロクソに言うのはブリジットの方が凄かった。長年、それに付き合って来たマルジョリーは、その令嬢に負けることはなかった。……変な鍛えられ方をしたものだ。

勘違いしてやり過ごしていたイケメンたちは見た目だけで、中身がいまいちみたいになっているが、そんな子息を好む令嬢がマルジョリーのことをこれ見よがしに馬鹿にしに来たのだ。

そんな暇人にマルジョリーが、なぜ遠慮しなくてはならないのか。全開でボロクソに言ってやった。半泣きになっていた。


「ふはっ」
「?」


笑っていたのは、その子息だった。何がおかしいのかとマルジョリーは首を傾げた。


「マルジョリー嬢は、凄いな」
「……褒めてます?」
「あぁ、褒めてる。私のことで、そんなに言い返してくれた令嬢は初めてだ」
「まだ言い足りませんけど?」
「っ、付き合ってられないわ!」
「それは、こちらの台詞です」


その後、何故かマルジョリーは彼に気に入られてしまったようで、あっという間にその子息と婚約することになった。そんなことになるとは思いもしなかったが……。

まぁ、その話は後でするとして、マルジョリーは久しぶりに留学から戻ってやって来た学園で、本当の友達を探そうとしていた。悪口を言うのに忙しくしているのとは違い、留学する時に幼なじみと一緒なのを心配してくれた方だ。

そんなことを懐かしく思っていると……。


「いい加減に認めたら?」
「いきなりなんですか?」
「はっ、白々しい。そんなんだから、愛想尽かされるのよ」
「……」


久々に学園に来たマルジョリーは、どうやら幼なじみより厄介そうなのに遭遇してしまったと思って見知らぬ令嬢を見て、リアクションに困っていた。


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