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心音がやらかすたび、パパたちはママのせいにし始めていたようだが、私がいい子に育っていることもあり、自分たちの育て方が悪いことを認めることはなかった。

2人は私たちが中学生に入るタイミングで、正式に離婚をした。そして、すぐにパパは再婚をした。

その年に再婚相手が子供を産んだ。男の子だったらしく、前ほどあちらの祖父母は心音をちやほやしていないようだ。

そのせいで、中学生の頃の心音は問題ばかりを起こしていたようだが、それを再婚相手の方にほぼ丸投げしているようだ。

そんなことをしているパパに私が懐くことはなかった。


「心陽も、高校生か」
「……」
「早いもんだな」
「……」


パパには数カ月に一回、私は会っていた。離婚しても、再婚しても私のパパなことに変わらないからだ。

そもそも早いも何もない。双子の片割れが、パパといるのだから。しみじみと言うこともないはずだ。

演技っぽいというか。白々しいんだよね。

もっとも、私のことより心音を信じたような人ということもあり、大したことを話そうとしてもいなかった。

ちなみにママとも心音は会ってるようだが、お小遣いほしさに会っていたらしく、もらえないとわかってからはほしいものがないと会おうとしていないようだ。

私は逆にお小遣いをくれようとするのを全力で拒否している。パパからもらえば、ママが心音に渡さなければ不公平になってしまう。そうなれば、心音の思う壺だ。


「心音は、小遣いもらえないと話もまともに聞いてくれないんだ」
「……なら、高校生になるんだから、バイトしろって、言えばいいよ。私も、そうするし」
「バイトするのか?」
「するよ。勉強もきっちりやるって条件で、ママがいいって言ってくれたから」
「そうか。心陽は、本当にしっかりしてるな」


それに比べてと言わんばかりのパパの相手は疲れてしまった。比べられても困る。

再婚したことで、新しい奥さんと心音の間で板挟みになっているように見えているが、前と何ら変わっていないパパが面倒ごとを片付けようと率先してやっているとは思えなかった。

あちらの祖父母も、男の孫の方を可愛がっているようで、今までのようにわがままを聞いてもらえないことと高校も制服の可愛さだけで選んで、お金もかかるところを選んだことで、心音への不満がいつもより酷かった。


「心陽」
「ママ」
「よぉ、久しぶり」
「久しぶり。じゃあ、時間だから」
「夕飯、どうだ?」
「悪いけど、これから先約があるから」


パパは、夕飯に誘うことが増えていた。何かと時間を決められているのに引き延ばそうとしていて、ママが毎回時間きっちりに迎えに来てくれるほど、しつこくなっていた。

こういうところが、心音より姑息だと思えてならない。


「あ、良典さん」
「やぁ、心陽ちゃん。制服で来てたんだな」
「うん。パパに制服着てるとこ見たいって言われたから」


パパは、ママとやって来た三田村良典さんにポカーンとした顔をしたが、すぐにムッとした顔をしたのに気づかないふりをした。

ママが付き合っている人と紹介され、色々と言っていたが、再婚することに私は反対していなかった。

頼りないパパに比べて、良典さんはしっかりしていた。比べる相手を間違えている感が半端ないほどあるが。


「再婚するのか?」
「するわ」
「心陽は、どうするんだ?」
「どうって? 心陽は、あなたより、彼に懐いているわよ」
「は? そんなわけあるわけが……」


ちらっと見ると先程まで、つまらなそうにしてばかりいた娘が楽しそうにしているのを見て絶句していた。


「焼き肉? 制服で、行くのやだな」
「なら、入学祝いに服を買ってあげるよ。それに着替えて行こう」
「それも、嫌だよ。お祝いが、肉の匂いに染まるなんて」
「でも、入学祝いって、肉だろ?」
「は? お肉一択って、ないでしょ」


私は、半眼になってしまった。どうにも、良典さんは体育会系なのだ。ずっと、運動部だったらしい。ガタイが未だにいいのも、トレーニングを怠らないからだ。


「それ、男の子なら喜ぶところだと思うけど、私はおしゃれなのがいいな」
「おしゃれなのか。そうか。えっと、じゃあ」
「それとヘルシーなのね。ママ、ダイエット中」
「心陽」


すると余計なことを言うなと言わんばかりにママが私を呼んだ。私は聞こえないふりをした。


「あ、お寿司は?」
「寿司か。いいな」
「回らない方の」
「え……?」
「心陽!」
「入学祝いだよ?」
「駄目よ。それは、大学入学にしときなさい」
「え?」
「ゴチになりま~す」
「あれ?」


私の言葉に良典さんは、何とも言えない顔をしてから笑っていた。


「良典さん。回るからって気をつけてね。この子、容赦なく食べるわよ」
「えっ?」
「ママ!」
「本当のことでしょ?」


そんな風な会話をしているのを見てパパは、怖い顔をしていた。

あの顔は心音がよくしていた。不満がある時の顔だ。心音なら暴れているところだろうが、パパはしなかった。

それを見て私は、まだマシって言えるのかは微妙だと思ってしまった。

それこそ、自分は浮気して離婚して、すぐに結婚
した癖にと内心で思ったが、口にすることはなかった。

とにかく、ママが幸せなのは許せないように見えてならなかった。そんなパパを益々嫌いになっていった私が、忙しいことを理由にパパに会うこともほぼなくなっていった。


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