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しおりを挟むそんなある日のことだ。
龍介のお兄さんが、龍介を迎えに来たのだ。近くで見ると本当に格好よかったのは認める。
認めるが……。
じっと私が洸平さんを見ていると……。
「心陽ちゃん、みちゃだめ」
「……」
幼稚園の女の子たちが、キャーキャー騒ぐ中で、龍介に目を塞がれていた。
その手に思うところがあった。嫌な予感がしてならない。気のせいであってほしいことがあった。
「龍介くん。て、あらった?」
「あ……」
土遊びをしていたのをすっかり忘れた龍介は、顔が汚れたことにムスッとした私にひたすら謝っていた。
その間、洸平さんは待っていることになった。弟がやらかしたことで心配そうにしていたが、私はそれどころではない。
一回り以上違うことで、姉は相手からどう見えているかまでは考えてもいないようだ。まぁ、姉だけではない。他の女の子たちもそうだ。
双子だけど、二卵性双生児で見た目から全く似ていないこともあり、幼稚園でモテていたのも姉だった。いや、モテているというか。好意を寄せている子を上手く使っているように見えてならなかった。
そんな姉が、先手必勝とばかりに思いの丈をぶちまけたのだ。他の女の子たちより先にしなくてはと思っていたのかも知れない。
「しゅきです!」
彼を見るなり思わず、心音は洸平さんに告白した。一目惚れして、二度目に会った時に思いの丈をぶちまけたのだ。
いきなり、告白する姉に私は驚いてしまった。
お互い幼稚園児だったが、本気なことは見てわかった。わかりたくなかったが、二卵性だろうとも心音が何をしたがっているかが手に取るようにわかってしまっていた。いや、姉でなくとも、私は他の子供たちだろうと何をしようとしているかが大体わかってしまっていたが。
逆に姉が私の気持ちを汲み取るのは難しいようだ。そもそも、人の気持ちを汲み取ることが苦手な人でもあった。双子に関係なく、誰かの気持ちを汲み取れないのだ。
それなのに可愛いというだけで、モテるのだ。私としては理解できないし、したくもないことでしかなかった。
可愛いことは、得である。それは認める。心音のことではなくて、龍介がいい例だ。本人は不服そうだが。
いきなり、そんなこと言って困らせるだけだろうに。そもそも、ちゃんと言えてないのに自慢気にしていた。
私は、心音を呆れた顔をして見ていた。その顔は残念なものを見る顔をしていたはずだ。
ついさっき、顔を土で汚された時以上に凄い顔をしていたはずだ。
「ん? えっと、君は……」
「心音ちゃん」
「あぁ、龍介のお友達か」
「ちがう」
「え? 違うの??」
「こっちが、心陽ちゃん。ぼくの……」
「ちょっと待って。龍介、ちゃんと謝ったの? 弟が、ごめんね? 目に入らなかった?」
「へいき」
龍介が、私を紹介してくれていたが、お兄さんはそれどころではなかったようだ。
私の顔を土で汚したのを見ていたようで、謝られてしまったのだ。あまりに必死に謝られたが、私はそれどころではなかった。
心音のこと友達じゃないと言うとは思わなかったな。私は、なんて言おうとしたんだろう? 友達じゃない心音の双子の妹とか……?
私は何やらやさぐれた思考をしていた。土で汚れた手で目隠しされた恨みもないわけではなかったが、その間に兄弟で何やら話していたようだが、双子の姉妹の耳に入らなかった。
姉は、ずっと洸平さんを見て目をハートにしていた。そして、告白の返事を待っているように私には見えてならなかった。
この間、見たテレビと同じことをしていることに私はピンと来てしまった。それこそ、そんなことに気づかなくとも全く困ることはなかったのだが。
期待に満ちた顔をして心音は、洸平さんからの返事待ちもしていたのだ。
あの頃、そんな番組をテレビでやっていたのだ。昔やっていたことを振り返っていたようで、私はそれが何をしているのかが何となくわかっていたが、姉はわからずに両親にすぐさま聞いていた。
「え? あー、いや、心音ちゃんには、まだ早いかな」
「むぅ~」
パパは、そう言って教えてくれず、心音はママを見て尋ねていた。こうなると姉は中々にしつこい。教えてくれるまで引き下がる気は微塵もない。
もっとも、教えてもらっても全部を全部理解できるかと言うと難しいだろう。私より姉だと思って知ったかぶりをするのは、いつものことだ。
たった数分しか違わないというのに面倒な人だと思うようになったのは、いつからだったろうか。
ママのお腹の中にいる時から、そんな思いをしていた気がしてならない。
そうなると私の姉への気持ちは筋金入りな気がしてならない。それを直す気はないが。直らないのは間違いないと思う。
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