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しおりを挟む私、髙村心陽には双子の姉がいる。名前は心音。双子だが、私たちは似ていない。容姿も、性格も、好みも。似ていない。似たくない。似てほしくない。
そう思ってしまうほど、私は姉が好きではない。好きだったこともない。
私は、私のままで姉だからと真似ようと思うことはなかった。全くなかった方が良かったのかも知れないが、たまに姉にも良いところがあるのだ。本当にごくたまにしかないし、いつも良いところではなかったが。
むしろ、姉でなければ良かったとばかり思うことしかしない人だったが、そうなるように育てたのはパパと父方の祖父母だ。性格が、そっちの家系に似ていたとしても、わがままを許し続けてしまったことで成長してから戻そうとしても無理なことを彼らは身を持って知ることになるのだが、それでも上手くいかないことは他人事のようにするところがあるせいで、姉は大変な目に合い続けることになったようだが、それもこれも自業自得でしかないと私は思っている。
姉の初恋は、幼稚園の時だった。羽田野龍介という同い年の男の子と仲良くなり、その子ではなくて、その子のお兄さんに恋をしたのだ。
私は龍介に一目惚れしていた。彼を幼稚園で見た瞬間に恋をした。つまりは、これが私の初恋相手であり、姉よりも私の方が先に恋をしていたわけだ。
姉よりも先にということが、私は何よりも嬉しかったのを覚えている。別に常日頃、姉に勝ちたいと思っていたわけでもないが、恋を知ったのが先なことが優越感に変わることはなかったが。
好きになった男の子は格好いいというより、幼稚園で同じ年というのもあって、その頃の龍介は物凄く可愛かった。たまに女の子のはずの私よりも可愛い時があるほどに。可愛らしい男の子だった。別に着ているものが女の子っぽいわけでもないのだが、その辺が不思議でならなかった。
その男の子の一回り以上違うお兄さんの名前は、洸平さん。彼は、とても格好いい高校生だった。そんな彼に姉は、恋をしたのだ。
見た目が格好いいのだから、好きになるのはわからなくはない。でも、一回り以上も違うのだ。その辺のところが姉にわかっていないようだった。
まぁ、幼稚園児でそんな深く考えて初恋する子供なんて早々いないのかも知れないが、私はこんなことを思ってしまった。
将来、龍介はこのお兄さんのように格好よくなるに違いない。むしろ、お兄さんを超える気さえする。
そう、将来絶対に格好よくなるからこそ、好きになったのだから、私も姉のことを言えないのかも知れないが、そのことを誰かに言ったことはない。
言ったことないまま、私はそれを忘れていくことになる。私の直感が、そんなふうに思わせたのだ。姉は単純で将来のことなど考えずに洸平さんを見るなり、その格好良さに一目惚れしたのだ。
それは、心音だけではなくて、幼稚園の女の子たちのほとんどが彼に恋した気がしなくもない。それほどまでに素敵な人だったのだから、モテないはずもなかった。
「ねぇ、龍介くん。きょうは、おにぃさん、くるの?」
「……しらない」
色んな女の子に声をかけられて、洸平さんが来るのかと聞かれるたび、龍介は嫌そうにするようにしていた。あまりにも嫌そうにして、答えたと言うようになるのも早かった。一回しか答えないようにしたことで、女の子たちはローテーションで誰が龍介に聞くかを決めるようになっていた。
「龍介くん」
「……何?」
「えっと、あそぼ?」
「え?」
「だめ?」
「ううん! いいよ!」
どうやら、女の子はみんな兄が目的だと思っていたようだが、私は違うとわかったらしく、私を見つけて駆けて来るまでにそんなに時間はかからなかった。
それこそ、可愛い男の子と遊んでいるだけで、彼のお兄さんのことは全く聞かないことで、龍介はウキウキしていたようだ。
他の女の子たちは、私が洸平さん狙いではないとわかって安心したようだが、龍介のことを好きになったことまでは気づかなかったようだ。
そのため、私が龍介と仲良くしていても何か言ってくる女の子はいなくなった。逆に女の子っぽい龍介を馬鹿にした男の子たちの方が多かったが、そういった面々を私はまるっと無視することにした。
相手にするだけ馬鹿みたいだと言うと龍介も同じように思ったようで、無視することにしたことでちょっかいかけて来なくなったかと言えば、逆にかまってほしかったのか煩かった。
「あそんでるの。じゃまするなら、あっちにいって」
「っ、」
「それとも、いっしょにあそぶ?」
「え?」
「じゃましないなら、あそんでもいいよ」
「あそぶ!」
「なら、やくそくして。なかよくするって」
「うん!」
そんなこんなで、友達が増えることになり、男の子の友達が増えると龍介がムッとして、女の子の友達が増えると私がムッとしたが、仲良くするようになった。
そこに心音はいなかった。姉は、男の子と遊んでいた。女の子と仲良くする気は全くないようだった。
それでも、姉と仲良くしたい男の子はいたようだ。わがままを聞いてくれる男の子たちをはべらして、好き勝手をしていた。
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