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王太子は、弟がアンゼリカに好かれているのを見ていた。密かに想いを寄せていた令嬢のことを王太子はずっと見ていた。

王太子と違っていて顔の良さから、色んな令嬢から頼りにされ、毎日のように色んな令嬢たちからお菓子をもらっているのも見ていた。


「いいな」


そんな風に王子のことを見ていることがよくあった王太子を周りは……。


「また、変なところにいるわね」
「しっ、聞こえると厄介よ」


王太子のことを変な奴だと思って見ていたが、声を掛ける者が現れることはなかった。彼の側近たちも、弟のやることなすことが気になっているようだから、あの悪癖をやめさせようとしているのかと思っていた。

でも、そうではなかったのだ。


「……殿下は、見ているだけみたいだな」
「そうだな」
「あれが、この国の王太子なのか」
「なんか、側近していく気力がなくなるよな」


王太子が、どうにかするのだろうと期待していたものたちが、がっかりする中で、アンゼリカだけでなく、他の令嬢のお菓子も食べずに捨てていたのも王太子を見ていた者たちは、たまに見ていた。

それからは、王太子のことをそのままにした。どうにかするのではなくて、見ているだけなことに腹が立って仕方がなかったのだ。そんなのを見ているより、側近として王太子がすべき仕事をできるところまでやることにした。

そうとも知らず、王太子が一番驚いたのは、一番お気に入りの令嬢のはずのレジーナからもらったものすら、開けもせずに捨てたことだ。

だが、婚約した令嬢が一番お菓子作りが駄目らしいから、それは分からなくはなかった。


「お前は、弟がもらったものを捨てているのを見ていたそうだな」
「はい」


父である国王に呼ばれて頷きながら答えた。今日は、婚約したい令嬢ができたと告げるために時間を作ってもらっていた。


「あいつは婚約破棄することになった。学園を卒業したら、王族を離れる」


それを聞いて、王太子は首を傾げた。婚約破棄はするだろうとは思ったが、なぜ王族を離れることになるのだろうかと思ったのだ。


「なぜ、見ているだけで何もしなかった?」
「え?」


国王の横に座る王妃も、今まで見たことないほど冷めた目をしていることに王太子はようやく気づいた。

だが、何をそんなに怒っているのかがわからなかった。何せ捨ててばかりいたのは、弟であって自分ではないのだ。

それが、捨てているのを知りながら、その場で怒ることなくずっと放置していたことを責め立てられることになったのだ。

そのせいで、この国の令嬢たちから総スカンを食らうはめになり、婚約者も他所の国からさがすしかなくなった。誰も、こんな王太子のところに嫁ぎたくないと思っていることを初めて知った。

王子のように王族を離れることにならなかったのは、他に王子がいなかったからだ。だが、他の姉妹たちには、母と同じ目を向けられるようになった。学園でも、そうだった。

王太子は、アンゼリカだけには誤解されたままでいたくないと思って必死にアンゼリカを探したが、再び会うことはなかった。

そんなことがあった王太子の側近たちが一斉に辞めたりして、それどころではなくなった王太子は、やるべき執務をこなすために動くしかなくなったのも、この辺りからだった。

この国始まって以来の無能な王太子と揶揄されたようだが、本人がそれを知ることはなかった。

ただ、他所の国から嫁いできた王太子妃がハズレを引いたと嘆く姿をよく見かけた。


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