上 下
7 / 10

しおりを挟む

王子は、とばっちりもいいところでレジーナや兄に暴露されて、婚約を破棄することになり、更には学園を卒業したら王族ですらいられないことになった。


「くそっ、どうして私がこんな目にあわなければならないんだ」


それもこれも、アンゼリカのせいだと元婚約者と同じく思っていた。顔がいいため、困った顔をすれば、令嬢が近づいて来て声をかけてくれていたが、お菓子を捨てているとみんなの耳に入ってしまってからは、そんなこともなくなった。


「信じられないわね」
「本当よね」


令嬢たちは、王子を見るなり、ヒソヒソと話して白い目を向けた。誰1人として駆け寄って心配する者はいない。あの日から、がらっと日常が変わってしまった。

こんな風に陰口を叩かれることなど、生まれて初めてのことだった。

王子は、それに何とも言えない顔をした。こんな目にあわなければならない理由など、バレたせいとしか思っていなかった。

そう、バレさえしなければ、それでいいと思っていた。中身まで腐っていることに本人が気づくことはなかった。


「顔がいいのを利用しすぎだな」
「前は、率先して困ってる令嬢に声かけてたんだよな。それで、お礼のお菓子もらってが、それをしてなきゃ、そもそも捨てる必要なかったんだよな」
「あれ、お菓子目当てっていうより、いい格好したかっただけなんじゃないか?」


子息たちは、あることないこと話して王子を見ていた。元より、顔が無駄にいいため、令嬢たちの話題を独占していたような王子だ。顔だけで中身が、伴わなくてもよかったのだ。

それが地に落ちたとあって楽しそうにしていたが、それもすぐに話題にのぼらなくなった。


「それより、アンゼリカが心配だな」
「兄貴や父さんが、携帯食が食べられなくなって仕事の効率が元に戻って疲れた顔して帰って来るんだよな」
「そうみたいだな。母と姉が、同じように作っているみたいだが、いまいちらしい」


アンゼリカが携帯食を頼まれた分を定期的に送っていたが、それを今回のことで一切やめた。そのせいで、あっちこっちで支障をきたしていた。

ロディオンとエリザヴェータの母親は、それまで知らなかったが今回のことで、お茶会でも責め立てられることになった。

レジーナの母親は、そうなったのは娘のせいだと謝罪していたこともあり、ロディオンたちの母親のようにはされていなかった。

アンゼリカが、幼なじみの母親からはきちんと謝罪されて許していると聞いたことが大きかったようだ。


「アンゼリカが許しているならって、お母様やお姉様も許していたわ」
「うちもよ。それにあの令嬢のお母様とは思えないくらい、素敵な夫人だものね」
「そうそう。お兄様も、素敵だしね」


そんな話を王子は耳にして、これだと思った。アンゼリカは、元々自分に気があったようだし、機嫌を直してもらって婚約者になれれば、今回の騒動も水に流してもらえて、王族のままでいられるかも知れない。

そう思って、アンゼリカを探し回っても王子が会うことは叶わなかった。

そんなことを頑張るくらいなら、今までしたことを謝罪して回った方が高感度が上がったと思うが、一発逆転を狙い続けた王子にそんなことを思いつく余裕はなかったようだ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結/短編】いつか分かってもらえる、などと、思わないでくださいね?

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
宮廷の夜会で婚約者候補から外されたアルフェニア。不勉強で怠惰な第三王子のジークフリードの冷たい言葉にも彼女は微動だにせず、冷静に反論を展開する。

【完結】え? いえ殿下、それは私ではないのですが。本当ですよ…?

にがりの少なかった豆腐
恋愛
毎年、年末の王城のホールで行われる夜会 この場は、出会いや一部の貴族の婚約を発表する場として使われている夜会で、今年も去年と同じように何事もなく終えられると思ったのですけれど、今年はどうやら違うようです ふんわり設定です。 ※この作品は過去に公開していた作品を加筆・修正した物です。

婚約者に嫌われた伯爵令嬢は努力を怠らなかった

有川カナデ
恋愛
オリヴィア・ブレイジャー伯爵令嬢は、未来の公爵夫人を夢見て日々努力を重ねていた。その努力の方向が若干捻れていた頃、最愛の婚約者の口から拒絶の言葉を聞く。 何もかもが無駄だったと嘆く彼女の前に現れた、平民のルーカス。彼の助言のもと、彼女は変わる決意をする。 諸々ご都合主義、気軽に読んでください。数話で完結予定です。

巻き戻される運命 ~私は王太子妃になり誰かに突き落とされ死んだ、そうしたら何故か三歳の子どもに戻っていた~

アキナヌカ
恋愛
私(わたくし)レティ・アマンド・アルメニアはこの国の第一王子と結婚した、でも彼は私のことを愛さずに仕事だけを押しつけた。そうして私は形だけの王太子妃になり、やがて側室の誰かにバルコニーから突き落とされて死んだ。でも、気がついたら私は三歳の子どもに戻っていた。

性悪な友人に嘘を吹き込まれ、イケメン婚約者と婚約破棄することになりました。

ほったげな
恋愛
私は伯爵令息のマクシムと婚約した。しかし、性悪な友人のユリアが婚約者に私にいじめられたという嘘を言い、婚約破棄に……。

どう見ても貴方はもう一人の幼馴染が好きなので別れてください

ルイス
恋愛
レレイとアルカは伯爵令嬢であり幼馴染だった。同じく伯爵令息のクローヴィスも幼馴染だ。 やがてレレイとクローヴィスが婚約し幸せを手に入れるはずだったが…… クローヴィスは理想の婚約者に憧れを抱いており、何かともう一人の幼馴染のアルカと、婚約者になったはずのレレイを比べるのだった。 さらにはアルカの方を優先していくなど、明らかにおかしな事態になっていく。 どう見てもクローヴィスはアルカの方が好きになっている……そう感じたレレイは、彼との婚約解消を申し出た。 婚約解消は無事に果たされ悲しみを持ちながらもレレイは前へ進んでいくことを決心した。 その後、国一番の美男子で性格、剣術も最高とされる公爵令息に求婚されることになり……彼女は別の幸せの一歩を刻んでいく。 しかし、クローヴィスが急にレレイを溺愛してくるのだった。アルカとの仲も上手く行かなかったようで、真実の愛とか言っているけれど……怪しさ満点だ。ひたすらに女々しいクローヴィス……レレイは冷たい視線を送るのだった。 「あなたとはもう終わったんですよ? いつまでも、キスが出来ると思っていませんか?」

君を自由にしたくて婚約破棄したのに

佐崎咲
恋愛
「婚約を解消しよう」  幼い頃に決められた婚約者であるルーシー=ファロウにそう告げると、何故か彼女はショックを受けたように身体をこわばらせ、顔面が蒼白になった。  でもそれは一瞬のことだった。 「わかりました。では両親には私の方から伝えておきます」  なんでもないようにすぐにそう言って彼女はくるりと背を向けた。  その顔はいつもの淡々としたものだった。  だけどその一瞬見せたその顔が頭から離れなかった。  彼女は自由になりたがっている。そう思ったから苦汁の決断をしたのに。 ============ 注意)ほぼコメディです。 軽い気持ちで読んでいただければと思います。 ※無断転載・複写はお断りいたします。

公爵令嬢の婚約解消宣言

宵闇 月
恋愛
拗らせ王太子と婚約者の公爵令嬢のお話。

処理中です...