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ロディオンも、相思相愛なのに婚約破棄になるなんておかしいと言い、今の婚約者となったアンゼリカを責め立てた。

2人共、両親に色々言われて怒られたようだが、それは2人が悪いせいなのだが、ロディオンとエリザヴェータは自分たちのせいだとは思わなかったのだ。


「何で、婚約していると言ってくれなかったんだ!」
「……」


次の日、ロディオンはアンゼリカを見つけるなり、そんなことを言ってきて、それに呆れ果ててしまった。

そんなことを2人っきりで言うのではなくて、周りに人がいるのもお構いなしで、そんなことを言うのだ。バカ丸出しなことを言っていることの自覚もないようだ。

婚約破棄だけでなくて、婚約していたことにも気づいていなかった間抜けだと気づいた周りがひそひそと話しているのが聞こえる中で、アンゼリカはため息をつきたくなってしまった。


「そんなこと言われても、破棄の話をされて、婚約の話をされたはずですよね? 逆に何で気づかないんですか?」


思わず、そう返してしまった。それが聞こえた周りから吹き出す声やら笑いを堪える者がいた。


「っ、煩い! お前のせいだぞ!」
「……」


何が何でもアンゼリカのせいにしたいようだ。

そこにエリザヴェータもやって来て、同じようにアンゼリカは責められることになった。


「そうよ! あなたのせいよ!」
「……」


エリザヴェータも、一緒になってアンゼリカに怒鳴り散らされることになって、それにうんざりしてしまった。どこまで、同じなのだろうか。

アンゼリカが婚約したままでいたのも、たかがお菓子だと思っていたというのに。この2人は、アンゼリカが黙っていたせいだと言いたいのだ。

破棄になった理由も、まるでわかっていないのだ。


「アンゼリカに当たり散らすなんて、お門違いもいいところだわ」
「そうよ。私たちが、散々言ったのに」


令嬢たちは、アンゼリカを庇うように色々言ってくれた。

それにロディオンたちは眉を顰めた。前までなぜ、そんなことを言われるのかと思っていたが、今は理由がわかって、同じことを言えば流石にありえないと悔しそうにしていた。


「アンゼリカ嬢のせいにするなんて、信じられないな」
「本当だな。自分たちがいいように解釈していただけじゃないか」
「確かにお似合いだよな。頭のできが、そっくりだ」
「「っ、」」


子息たちは、そんな風に言って、それが聞こえた面々の多くが笑った。でも、アンゼリカは笑う気にはなれなかった。

それにロディオンとエリザヴェータは、聞こえて顔を赤くしていたが、アンゼリカは追い立てる気にはなれなかった。


「と、とにかく、お前との婚約は破棄する!」
「……」
「そして、エリザヴェータと婚約する!」


ロディオンの言葉をアンゼリカは、好きにすればいいと思っただけだった。

そもそも、2人の両親が引き離されたのだ。その原因のお菓子さえ食べさせないようにすればいいだけだが、それをやめることは難しいだろう。

だが、アンゼリカの知ったことではなかった。そもそも、自棄を起こしたアンゼリカが了承しなければ、この婚約なんて成立していなかったのだ。

あんな風に失恋していなければ、あんな本音を聞いていなければ、馬鹿みたいに美味しくない毎回捨てられることになるお菓子作りに精を出していたに違いない。

でも、アンゼリカは人間には不向きがあるとことを悟った。もう、自分に向いていないことを頑張ることをやめた。

チラッと視界に前まで好きだったはずの人が見えた。彼は、この国の王子だ。見た目が他の子息よりも素敵に見えるだけで、中身は伴わない最低男だ。

そう思うと素敵に見えていたはずなのに残念な王子にしか見えなくなっているから不思議だ。

そんな相手を見て、再び悲しい気分になることはなかった。彼の横には、どうやら本命だったらしい令嬢がいた。その人物をアンゼリカはよく知っている。アンゼリカの幼なじみのレジーナ・ネイガウスだ。

2人が婚約したと知っても、アンゼリカの気持ちがこれ以上傷つくことはなかった。傷つくどころか。お似合いなのではないかと思ってしまったくらいだ。


「アンゼリカ。気にしちゃ駄目よ」
「そうだぞ。あいつらに何を言われても気にすることない」
「ありがとう」


でも、ロディオンたちのことがあって、みんなアンゼリカに優しくなっていた。

変な目立ち方をしてしまったが、そのおかげで気にかけてもらえることになった。


「アンゼリカ。大変だったな」
「……」


労うようにサラリと話しかけて来た人物に無表情になった。


「でも、あなたも大変ね。お菓子作りが下手だから、婚約者に選ばれたのに。こんな形で傷物になるなんて、どばっちりもいいところよね」
「……」


アンゼリカが好きだった王子とその婚約者になった幼なじみの令嬢にそんなことを言われて、イラッとしてしまった。

わざわざ、お菓子作りが下手くそなどと言わなくてもいいはずなのにそんなことを言ったのだ。美味しくないお菓子を作って渡したことをレジーナに話したのだろう。

それを聞いて、あぁ、もっと最悪な王子だったのかと更にがっかりするだけだった。それにレジーナのお菓子も、アンゼリカに負けず劣らずなのだ。それに関してレジーナには自覚がまるでない。

アンゼリカは自覚しつつ、大丈夫そうなのをあげていたが、それすら美味しくないとゴミに捨てられていた。レジーナよりはマシなレベルのはずだが、王子として利用価値があるのが、幼なじみの方だったのだろう。

それを耳にした周りは……。


「ちょっと、あれ何?」
「酷いこと言うな」
「というか、あの令嬢のお菓子も壊滅的よね?」
「そのはずだけど。あれ、自分も同じ目にあったかも知れないって自覚ないわよね?」
「あの子、自覚ないもの」


アンゼリカに優しい面々は、そんな2人の話し方に信じられないと眉を顰めていた。

特にレジーナのことでは、色々言われていた。そもそも彼女の自覚のなさのせいで、周りの令嬢を怒らせてばかりいて、友達と言える令嬢がそもそもいない。

王子も、あんな性格のため、友達と呼べる者は大していない。そういう2人が婚約したのだ。それこそ、お似合いでしかない。


「なら、君も気をつけた方がいい。君の婚約者は、口に合わない貰い物はゴミに捨てる男だ」
「なっ、そんなことは」


王子は、していないと言えずに顔色を悪くさせた。


「ないとは言えないはずだ。お前が、貰い物を美味しくないと捨てているのを見たことがある。この目で、何度もな」
「っ、」


それを暴露したのは、王太子だった。弟のやることを何かと把握しているため、そんなことしていないと王子は咄嗟に言えなかったようだ。


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