上 下
40 / 40

40

しおりを挟む

そんな風に前世で、散々なようで本人はそれなりに素晴らしい人生の最後を迎えて、失敗したなんて欠片も思わずにエウフェシアは数百年後に生まれ変わった。

生まれ変わった彼女の名前は、デリア・カラマンリス。前世のエウフェシアと同じ容姿をしていて、彼女を覚えている者は瓜二つなデリアに驚かずにはいられなかっただろうが、それに驚く人に会うことはなかった。普通の人間にとっては、生まれ変わった彼女を見ても、生まれ変わっているなんて思う者はいなかったのだ。

それに気づいたのは、普通の人間ではなかった。


「エウフェシア……?」
「?」


クリストフォロスは、そっくりなデリアを見て思わず、その名を数百年振りに言葉にしていた。

だが、デリアは前世の名前も、クリストフォロスのことも全く覚えていないせいで不思議そうにしながら、自分のことではないと移動したのも、すぐだった。

クリストフォロスはエウフェシアと婚約を解消してから、何人かと婚約をしたが上手くいくことはなかった。

エウフェシアが亡くなってからは、婚約することもせずにいた。見かねた周りに色々言われたが、それでも婚約することを拒み続けたことで、王太子を従弟に譲ることになり、王宮から離れてクリストフォロスはひっそりと暮らすようになっていた。普通の人間の中で、ひっそりと生きていても長寿をやめられるわけではないため、おかしいと思われる前に移動し続けることになったが、それでもマカリオス国に住むより、普通の人間の中で暮らしていたかった。

そんな中で、エウフェシアにそっくりな娘を見つけたのは、偶然だった。再び、巡り会えたことにクリストフォロスはようやく生きる希望を見出せた気がした。

そんなことを思う相手がいることにも気づくことなく、語り継がれる悪女のエウフェシアと呼ばれたことにデリアは、こんなことを思っていた。


(そんなに悪女っぽく見えたのかな? やだな。選ばれた者は永久の幸せを掴むはずだったのにそれを廃止させるような悪女と同じ名前を付ける人なんて、未だに居るの? そんな名前つけられたら、大変な目に合いそう)


デリアは、前世の自分のことだと気づくことなく、そんなことを思っていた。名前のせいで気の毒な目に合いそうだとまで思っていた。

それこそ、永久の幸せを与えられる人物が先程の男性だったことも知らなかった。


(でも、美丈夫で素敵な人だったな。なんか、人間離れして見えたな。あんな人いるのね)


そんなことを思う程度で、お付き合いしたいとかまで考えることはなかった。

もっとも、マカリオス国の出身うんねんのことを知っていても、永久の幸せにデリアはあまり興味はなかった。

見た目も素敵だと思っていても、せっかくのチャンスだからとぐいぐいいくなんてこともせずに目の保養になったことをラッキーと思う程度でしかなかった。

前世から、その辺のことは変わりはなかったが、そこから何かとクリストフォロスと遭遇することになった。

それについても、デリアはこんな風に思った。


(なんか、やたらと会うな)


見目麗しい男性から熱烈なアプローチをされるとは思いもしなかったデリアは、そもそも偶然会っていると思っていて、デリアに会うために必死になっているなんて気づきもしていなかった。


「へ? 結婚??」
「そうだ。結婚を前提に付き合ってほしい」
「は? え?」


あまりにも、アプローチに気づかなすぎることに痺れを切らしたようで、言葉にされて慌てふためいたのは、デリアの方だった。

それこそ、前世でデリアが色々やらかした結果だと言うことを知らないまま、デリアはクリストフォロスに押されまくって返事を保留にしている間に外堀を綺麗に埋められてしまい、結婚するしかなくなっていた。


(なんか、結局、付き合うことに返事しないまま、結婚することに返事しちゃったな)


結婚してからは、周りもびっくりするくらい元気で、可愛いままのおばあちゃんと格好いいままのおじいちゃんとなって、幸せいっぱいの人生を送ることになるとは思いもしなかった。


(なんか、歳を取らないな)


そんな2人は、結婚してすぐにとても言葉で表せない鳥を飼っていた。デリアは、またしても醜い雛を拾うことになり、虫嫌いなのにあれやこれやと必死に世話を焼いて育て上げるのをクリストフォロスは、泣きそうになりながら見ていた。


「どうしたの?」
「いや、虫嫌いなのに凄いと思ってたんだ」


クリストフォロスは、自分に頼めば済むのにとデリアに言うも、彼女は……。


「私が拾ったのよ。世話ができない時は、お願いするかも知れないけど、それ以外は私がやるべきことだわ。そうでなければ、可哀想だからって覚悟もないのに命を拾えないもの」
「……そうか」
「でも、虫を食べてくれないのよね。クリストフォロスさん、鳥って何を好むか知ってる?」
「あー、花とかかな」
「花?」


デリアは、そんなことがあるのかと言わんばかりの顔をしたが、雛が食べてくれるかもと花を色々と取って来て並べた。それを食べるとわかってからは、生傷が絶えないのにクリストフォロスは眉を顰めずにはいられなかった。

それは、前世でエウフェシアが受けた試練を見ているようで、クリストフォロスは胸を締め付けられ思いがしてならなかったが、デリアは全く覚えていないせいで同じことをしていても苦ではなさそうにしていた。

それどころか、楽しげにしてさえいた。そんなデリアを見て、クリストフォロスは今度は絶対に自分が幸せにするという想いが募り、誰が見ても明らかなほど溺愛してやまない日々を送ることに努力を惜しむことをことはなかった。

2人の血縁者が呆れるほど、仲睦まじくしている姿しか見かけることはなかった。

デリアの笑顔が曇ることは、滅多になかった。



しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...