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しおりを挟むマカリオス国にエウフェシアがようやくたどり着くことになったのは、クリストフォロスが着いてからかなり経ってからだった。
命を狙われ、エウフェシアの身体の負担を気にしながらの移動は気の抜けないものだったが、護衛する者も、彼女つきのメイドもやりきった。でも、それで終わりではなかった。
やっと婚約者がマカリオス国に着いた日から、クリストフォロスの日課が増えることになった。
「知らせは?」
「まだ、来ておりません」
「……」
クリストフォロスは、エウフェシアがたどり着いてから日に何度も、側に居る者にエウフェシアのことを聞いた。マカリオス国にたどり着く頃には、クリストフォロスとしてエウフェシアは目を覚ましているのではないかと思っていたが、そうはならなかったのだ。
「無理をさせすぎた」
「恐れながら、殿下。移動させなければ、エウフェシア様を殺そうとする者たちに狙われて、護衛たちでは守りきれはしなかった。仕方がありませんでした」
「そうだとしても、死なずにたどり着いても目を覚まさないままでは意味なんてない」
「……」
王族付きの医者は、エウフェシアの傷は癒えているが目覚めることなく眠っているのは、試練の影響も関係しているようだと見ていた。
それに誰も彼も、エウフェシアのことを殺せば、再び婚約者候補が選ばれて、試練が始まると期待している令嬢ばかりで、エウフェシアの命を狙い続けていることも報告されていて、クリストフォロスはそれに頭を悩ませていたが、その酷さが増していくことに拍車がかかっていることに恐ろしさしか感じなかった。
そのことが、クリストフォロスの両親の耳にも入っていた。
「あの試練は、私も辛かったわ。私は、数回死ぬことになった。誰も味方してくれず、たった1人で戦うしかなかった。それを気が遠くなるほど続けていたなんて……」
「……」
クリストフォロスの母であり、マカリオス国の王妃は息子や他からエウフェシアの話を聞いて、何とも言えない顔をしていた。思い出しただけでも辛いのか、泣きそうにまでなっていた。
選ばれた者は、永久の幸せを掴む。マカリオス国の住人となれば、ただの人間のような短命では終わることはなくなる。そのため、そう言われるようになっていた。
クリストフォロスのような王族は特に長く生きることになり、その伴侶となったものも同等に長寿となることが約束されている。それだけ、特別な存在なのだ。
だが、エウフェシアは婚約者となっている状態のままだった。国鳥に名前を与えたのを認められようとも、まだクリストフォロスの妻ではない。眠り続けたままでは、何もできないのだ。
マカリオス国の王太子と結婚を済ませていれば、こんな風に眠り続けて目覚めないなんてことはありえない。滅多なことでは風邪も引かなくなる。
クリストフォロスは、丈夫な身体を持って生まれたこともあり、眠り続ける婚約者に成す術もない状態に陥るのは生まれて初めての経験で、もどかしくて仕方がなかった。
「国鳥が、こんなに立派に育つ手助けをしてくれる令嬢だ。そなたの妃になるに相応しいが、目覚めてくれないままでは何もしてやれないのが、もどかしくてたまらないな」
「……」
「クリストフォロス。公務は、最低限なことだけにしていればいい。婚約者の側にいてやれ」
「ですが、私は側に居ても何もしてやれることがないんです」
「そんなことはないわ。手を握って声をかけてあげて。私も、嫁いで来るまではただの人間だった。怪我もしたら数日は治るまでかかったし、風邪で寝込むこともよくあった。そういう時に家族が側にいてくれた。今も、それを忘れたことはないわ。ありがたい存在だったわ。心細い思いをしている時に側にいてくれるのは、嬉しいものよ」
「……声をかけるとは、何をしたらよいのでしょうか?」
「彼女の好きなことは、知っている?」
「……」
王妃の助言に応えたクリストフォロスは、そこからヒントを得るようにしてできることは何でもやろうと即実行に移したのは、両親との食事を終えてからすぐだった。
エウフェシアに1日も早く目を覚ましてほしかった。目が覚めた彼女と語らって、お互いを理解して両親のような夫婦となって、寿命が来るまで末永く幸せに暮らす。それを夢見ていた。
いや、夢見ずとも、クリストフォロスはそうなると信じていた。全てはエウフェシアが目を覚ましさえすれば、そうなるのに時間はかからないとまで思っていた。
でも、それが物凄く甘い考えだったことを身を以て知ることになる日が来るとは思っていなかった。
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