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「そんなにループすることは聞いたことがない」
「……」


(どういうこと??)


クリストフォロスにループについての話をされているはずなのにエウフェシアは、わけがわからない顔しかできなかった。

試練というものは、あぁいうものだと思っていたのに。それが違うと言われたのだ。違うと王太子からも、その周りの人たちからも、知らないとなり、エウフェシアは……。


(私だけって、どういうこと?)


これまでの誰も経験したことがないとわかって、エウフェシアは沸々と湧き上がる感情があった。叫び出したくなるのを抑えるのが大変だった。

だって、散々な目にあったのだ。それが、試練だと思っていた。なのに違うと言われてしまっては、エウフェシアは今の気持ちを誰にぶつけていいのかがわからなくなってしまった。


(そういう試練だと思っていたのに。そういうものではなかったなんて、どうして? どうして、私だけがあんな目にあったの?)


その疑問をクリストフォロスにぶつけたくなったが、彼は更に続けた。


「それに処刑されたり、ましてや姉に撲殺されるなんて、そんなの……」


聞いたこともないとクリストフォロスは続けようとしたが、遮るように花鶏がエウフェシアにすり寄った。


「ぴぃ」
「花鶏」
「エウフェシア」


花鶏がエウフェシアの頬にすり寄って甘えるようでいて、慰めるような行動にエウフェシアは、叫びだしそうになる感情を抑え込んで、鳥に微笑んでいた。

でも、心の中は穏やかなままではいられなかった。目の前のクリストフォロスを王太子だというのも忘れて、問い正したくなってしまった。


「優しいのね。でも、大丈夫よ。あれは、現実じゃない。あなたが、元気なら、私のことなんて、どうでもいい。どうでもいいのよ」
「……」


(そう。花鶏が、元気に成長するのに必要だったのよ。無駄なことなんてなかった。あれは、無駄なんかじゃない。必要なことだった)


花鶏の頭を優しく撫でた。婚約者に選ばれるために命を削っていたのには、エウフェシアは納得できないところがあったが、この鳥のためだったなら命は惜しくないと思う気持ちが、本心だった。

でも、そう思いたい気持ちも強かった。そうでなければ、エウフェシアは木っ端微塵に砕けて立ち直れそうもなかった。


「君は、そういう女性なんだな。国鳥が、君を選ぶのは無理もない」
「?」


クリストフォロスは、愛おしい者を見る目をしていた。執事や騎士も、エウフェシアに対してそれまでとは違う目で見始めたのも、このことがあってからだった。

なぜ、そんなに変わるのかがエウフェシアにはわからなかったが、マカリオス国の住人は国鳥を大事にしていて、国鳥から思われる人間ほど価値がある者はいないのだが、そのことをエウフェシアは知りもしなかった。

エウフェシアは、己のことで手一杯だったのだ。試練のことで、納得いく答えではなかろうとも、エウフェシアは必死にそれに縋ろうとしていたことにこの時の誰も理解していなかったし、わかっていなかった、

既にエウフェシアは、試練の場で限界をとっくに超えて壊れる寸前だったことに。この時、本人も気づいてはいなかった。


「バシレイオス、トリュフォン。エウフェシアを1秒でも早く国に連れて帰る。異論はないな?」
「「ありません」」
「エウフェシア。明日、早朝に出立する」
「え? でも、支度が……」


まだ、半月はかかりそうだといっていたのにエウフェシアは続けることはできなかった。


「荷物は、後で運ばせる」
「……」


クリストフォロスが、急に帰国するのを急がせた理由を知ることはなかった。

もっとも、急かした理由の中にエウフェシアの身の安全のためではなかった。ただ、マカリオス国の王太子妃に相応しい人物を自国に連れて帰りたいがために他ならなかった。

そのため、エウフェシアの身の安全を確保するのに穴ができることになってしまったのだとすれば、この判断が正しいものだったのかはわからない。

でも、クリストフォロスたちはエウフェシアこそ、マカリオス国に相応しい妃になる令嬢だと思っていたが、そう思わない者たちの方が圧倒的に多いことにまで気づいてはいなかった。


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