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しおりを挟む見たものをそのまま伝えようとして、エウフェシアは家で姉に伝えようとしたが、忙しいアルテミシアを中々掴まえられずにいた。
(こんな時に限ってつかまえられないなんて、どこかで会って時間を作ってもらうしかないか)
そんなことを考えて、学園の中で話したいことがあるからと都合をつけてもらおうと探し回っていて、ようやく姉を見つけたと思ったら、数日前に見た光景が、そこに広がっているとは思いもしなかった。
(え? お姉様とヘシュキオス様……?)
王太子と姉の親友のイオアンナ・フォトプロスのようにエウフェシアの婚約者とアルテミシアが、2人っきりで密会しているのを見つけてしまったのだ。
でも、想い合っているのが伝わって来るほどに言葉にせずにただ見つめているだけの王太子たちとこの時の姉とヘシュキオスは違っていた。
そんな秘めた想いなど欠片もなかった。あったのは、別のものだった。
「本当に最悪だわ。あんな何もできないようなのが、実の妹だなんて。私の妹が。あんなのだなんて、あり得ない」
(っ!?)
姉は、まるで別人のようにヘシュキオスに愚痴っていた。いつも周りに何か言われて落ち込んでいるエウフェシアに優しい言葉をかけてくれていた優しいアルテミシアは、そこにはいなかった。いたのは、全く知らない人だった。
とても美しい顔をしているはずなのに愛想笑いもなく、心底妹のことを嫌っていて、どれだけ迷惑しているかと言わんばかりの顔をしていた。ヘシュキオスに苛々をぶつけるかのようにこれまでエウフェシアが聞いたこともない愚痴を語っていた。
(あれは、誰?)
妹にとって、まるで知らない人がそこにいた。姉でも、アルテミシアという完璧な令嬢でもない人が、そこにはいた。
エウフェシアは、数日前に見たものを悪夢だと思い込もうとしていた。で、そんなもの悪夢ではなかった。本当の悪夢はこっちだと思ったのは、すぐだった。
秘めた気持ちを口にせずに見つめ合っているだけの光景など、悪夢なんかでは全然なかった。あれは、エウフェシアの心が締め付けられることはあれど、悪い夢なんかではなかった。もちろん、いい夢ではないが、それでも想い合う気持ちは本物だった。
本当の悪夢は、ここから見えるものだったことにエウフェシアは気づいてしまった。見てすぐに受け入れるなんてできない光景でも、聞きたくない言葉が終わることはなかった。
「あなたも、大変よね。何か失敗するたび、フォローしなきゃいけないんだもの」
アルテミシアは、ヘシュキオスにそんなことを言った。するとその通りだと言わんばかりの顔を彼は見せた。
「全くです。でも、あなたの義理の弟になれるんですから、それを思えば、どうってことはありませんよ。こんなに美しい義姉ができるんです。友人は、こぞって羨ましがってますよ」
ヘシュキオスの言葉に満更でもない顔をしていた。そんな顔をするアルテミシアも初めてだった。いつもは謙遜して、満更ではないなんて顔をしたことは一度もなかった。少なくともエウフェシアは見たことがなかった。
(あんな顔もできたのね。あれが本性なら、普段から腹の中でどんなことを思っていたのかがわかるわ)
エウフェシアは、いつの間にか、物凄く残念なものを見る目をしていた。そんな目を姉に向けたことはなかった。
「王太子が羨ましい。あなたのようなこの世でもっとも美しい令嬢を妻にできるんですから」「私も、そう思うわ。あなたは、ちゃんと私をわかってくれてるのね」
「当たり前です」
そんなやり取りを耳にしたエウフェシアは、その日、どうやって帰宅したかを覚えていない。
(あれが、お姉様の本性。あれが、私のお姉様。あんなのが、私の完璧なお姉様。あんなのを私は自慢に思っていた。あんなのの妹であることに縋っていたなんて……)
数日前までに何度か目撃することになった光景は、記憶が抜けるほどの衝撃ではなかった。それほどまでにエウフェシアは、見たものをすぐに理解も、納得もできなかった。
両親に色々言われて、優しいいつもの姉となったアルテミシアは、医者を呼ぼうとまで言ってくれたところで、エウフェシアは現実に舞い戻った。
「少し疲れたようです。早めに休むことにします」
「大丈夫なの? お医者様を呼んだ方が……」
「休めば大丈夫」
「そう?」
にっこりとエウフェシアは姉に微笑んで、何事もなかったように部屋に戻った。
両親は、いつも以上に気もそぞらな末娘に愚痴愚痴と言っていたが、エウフェシアはそれを無視した。アルテミシアは気遣うようにしているのに白けた目を向けそうになるのを抑えるのが大変だった。
(本音は、ヘシュキオス様に語っていたことよね。お姉様、親友と王太子が密会しているの知ってるのかしら? あちらは、言葉にせずに見つめ合っていただけで、想いに溢れていて、こちらが胸を締め付けられるものがあったけれど。……お姉様たちのは全く違っていたわ。完璧なはずのお姉様が、あんなことを言う人だったなんて、信じたくないわ。あれが、私のお姉様の素だなんて思いたくもない)
そんな者のために頑張って妹であろうとしていたのかと思うと自分が惨めに思えて仕方がなかった。
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