上 下
8 / 40

しおりを挟む

エウフェシアは婚約者のことで、ここまでなのかと思ったことで腸が煮えくり返りような思いをしたが、それだけで終わらなかった。

それ以上にショッキングなことが起こるとは思いもしなかった。一番あり得ないと思っていた人に裏切られていたのだ。

どれだけ頑張っているかをきちんと理解して認めてくれていると思っていた人に上辺だけ取り繕ったことを言われていただけで、本当は全く認めてもらえていなくて、それどころか。馬鹿にされていることを知ったのは、本当に偶然だった。

エウフェシアの心の拠り所は、僅かしかなかったと思っていたのにその僅かも、存在していなかったのだ。エウフェシアには、そもそも何も頼る相手など居なかったことを思い知ることになったのだ。

そのことに気づく前に完璧な人と誰もが言っていた人の婚約者も、同じく完璧な人だとみんなが思っていたことが、完璧であってもただの男であって、少なくともエウフェシアの期待しているような人とは違っていたことを知ることになったのは偶然だった。

完璧な人たちと2人が揃うと羨ましがられて、羨望の的になる人たちが、噂や見た目通りではなかったのを目撃することになったのだ。


(さっき見たのは、夢よ)


学園で、エウフェシアは色々と言われることに疲れてしまっていた。更に疲れることになったのが、婚約者の一言だった。あまりに疲れてしまって現実逃避をしたくなった。逃げる場所なんて、探したのはいつ振りだったかをエウフェシアは忘れていたほど、久しぶりのことだった。

誰も、寄り付かないようなところにエウフェシアはとりあえず避難しようとした。そんなことをしても、好き勝手に話されていることに変わりはないのだが、耳にしたくなくて隠れようとしたのは無意識だった。

そんな時に見つけた場所だった。


(こんなところがあったなんて、人も寄り付かないし、いいところを見つけたわ)


そんなことを思って最初は喜んだ。

でも、他にもそこが穴場だと知っている人がいたことに気づかなかった。まぁ、よくよく考えればエウフェシアだけしか知らないなんてあり得なかったのだが、この時のエウフェシアは気づかずに浮かれていた。

それから、しばらくして、そこに人がいるのを目撃することになった。


(え?)


向こうも、同じように気づいていなかったようだ。そういう穴場を利用している者がいるということに。そのせいで、エウフェシアはばっちりと目撃してしまうことになった。

相手が警戒していたら、こんなにすんなりと秘密を知ることはできなかっただろう。エウフェシアとしては、知らないままの方がよかった。

それを見たエウフェシアは、最初とんでもない悪夢を見たのだと思った。エウフェシアは、無意識にそんな風に自分に言い聞かせた。


(現実なわけない)


そうであってほしかったことが大きかったせいで、ずっと悪夢だと刷り込むというか、思い込むように無理やりにでもなろうとした。かなり無理があったが、それでもできるのなら見なかった時に戻りたいとすら思った。

姉の婚約者である王太子が、アルテミシアの親友の令嬢と密会をしているのをエウフェシアは目撃してしまったのだ。2人っきりで、ひっそりと会うなんて、あってはならないはずなのに人知れず会う2人は、どう見ても想い合っているようにエウフェシアには見えてならなかった。


(こんなところに2人っきりでいるなんて……)


最初は、信じられない裏切り行為をしていると思って怒りが沸き起こってしまった。でも、それだけでは済まされなかったのだ。

いつも見てる王太子が、あんなに柔らかに微笑んでいたのだ。愛しい者を見る目を向けているのが、姉の親友だったのだ。アルテミシアが親友だと言っている相手なことにもエウフェシアは怒りを覚えた。

更には、相手もまた婚約者がいるというのに一緒にいられるだけで幸せだと言わんばかりにしている光景にエウフェシアは、訳がわからなくなっていた。

それから、何度か目撃するうちに2人の間の雰囲気に胸を打たれるようになった。


(あんな表情をするほど、なのよね)


姉が一番の親友だとエウフェシアに常日頃から言っていた相手だった。ずっと親友と呼べる相手がいる姉が、エウフェシアは羨ましかった。自分には友達と言える令嬢すらいない。

それが、完璧な姉に友達面する人は多くいるが、親友の令嬢だけは全然違って見えた。アルテミシアのことを一番わかっているのが、妹以外にいるとしたら、婚約者とその親友だと思っていた。なのにそうではなかったのだ。混乱しないわけがない。

蓋を開ければ、親友というものも、完璧なはずのアルテミシアの婚約者の王太子も、そんなにいいものではなかったのではないかとエウフェシアは思ってしまった。

それどころか、影でとんでもない裏切り行為をしていたわけだ。お互いに婚約者がいるのに想い合っている相手が他にいて、未だにその想いを終わらせられずにいるのだ。それは、大問題だ。


(どうしよう。これは、お姉様に伝えるべき? あんなに想い合っているように見えるのに。浮気しているあちらが悪いはずなのに。どうして、私の方が、こんなにもいたたまれない気持ちになるのよ)


悩みに悩んで、エウフェシアは姉に告げようとした。胃に穴が開きそうなほどに悩んだというエウフェシアは、またも別の悪夢を見ることになるとは思いもしなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貧乏男爵家の末っ子が眠り姫になるまでとその後

空月
恋愛
貧乏男爵家の末っ子・アルティアの婚約者は、何故か公爵家嫡男で非の打ち所のない男・キースである。 魔術学院の二年生に進学して少し経った頃、「君と俺とでは釣り合わないと思わないか」と言われる。 そのときは曖昧な笑みで流したアルティアだったが、その数日後、倒れて眠ったままの状態になってしまう。 すると、キースの態度が豹変して……?

婚約破棄をされた悪役令嬢は、すべてを見捨てることにした

アルト
ファンタジー
今から七年前。 婚約者である王太子の都合により、ありもしない罪を着せられ、国外追放に処された一人の令嬢がいた。偽りの悪業の経歴を押し付けられ、人里に彼女の居場所はどこにもなかった。 そして彼女は、『魔の森』と呼ばれる魔窟へと足を踏み入れる。 そして現在。 『魔の森』に住まうとある女性を訪ねてとある集団が彼女の勧誘にと向かっていた。 彼らの正体は女神からの神託を受け、結成された魔王討伐パーティー。神託により指名された最後の一人の勧誘にと足を運んでいたのだが——。

実家から絶縁されたので好きに生きたいと思います

榎夜
ファンタジー
婚約者が妹に奪われた挙句、家から絶縁されました。 なので、これからは自分自身の為に生きてもいいですよね? 【ご報告】 書籍化のお話を頂きまして、31日で非公開とさせていただきますm(_ _)m 発売日等は現在調整中です。

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

【完結】地味と連呼された侯爵令嬢は、華麗に王太子をざまぁする。

佐倉穂波
恋愛
 夜会の最中、フレアは婚約者の王太子ダニエルに婚約破棄を言い渡された。さらに「地味」と連呼された上に、殺人未遂を犯したと断罪されてしまう。  しかし彼女は動じない。  何故なら彼女は── *どうしようもない愚かな男を書きたい欲求に駆られて書いたお話です。

悪役令嬢は断罪イベントから逃げ出してのんびり暮らしたい

花見 有
恋愛
乙女ゲームの断罪エンドしかない悪役令嬢リスティアに転生してしまった。どうにか断罪イベントを回避すべく努力したが、それも無駄でどうやら断罪イベントは決行される模様。 仕方がないので最終手段として断罪イベントから逃げ出します!

妹に婚約者を奪われたので、田舎暮らしを始めます

tartan321
恋愛
最後の結末は?????? 本編は完結いたしました。お読み頂きましてありがとうございます。一度完結といたします。これからは、後日談を書いていきます。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

処理中です...