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しおりを挟むエウフェシアは婚約者のことで、ここまでなのかと思ったことで腸が煮えくり返りような思いをしたが、それだけで終わらなかった。
それ以上にショッキングなことが起こるとは思いもしなかった。一番あり得ないと思っていた人に裏切られていたのだ。
どれだけ頑張っているかをきちんと理解して認めてくれていると思っていた人に上辺だけ取り繕ったことを言われていただけで、本当は全く認めてもらえていなくて、それどころか。馬鹿にされていることを知ったのは、本当に偶然だった。
エウフェシアの心の拠り所は、僅かしかなかったと思っていたのにその僅かも、存在していなかったのだ。エウフェシアには、そもそも何も頼る相手など居なかったことを思い知ることになったのだ。
そのことに気づく前に完璧な人と誰もが言っていた人の婚約者も、同じく完璧な人だとみんなが思っていたことが、完璧であってもただの男であって、少なくともエウフェシアの期待しているような人とは違っていたことを知ることになったのは偶然だった。
完璧な人たちと2人が揃うと羨ましがられて、羨望の的になる人たちが、噂や見た目通りではなかったのを目撃することになったのだ。
(さっき見たのは、夢よ)
学園で、エウフェシアは色々と言われることに疲れてしまっていた。更に疲れることになったのが、婚約者の一言だった。あまりに疲れてしまって現実逃避をしたくなった。逃げる場所なんて、探したのはいつ振りだったかをエウフェシアは忘れていたほど、久しぶりのことだった。
誰も、寄り付かないようなところにエウフェシアはとりあえず避難しようとした。そんなことをしても、好き勝手に話されていることに変わりはないのだが、耳にしたくなくて隠れようとしたのは無意識だった。
そんな時に見つけた場所だった。
(こんなところがあったなんて、人も寄り付かないし、いいところを見つけたわ)
そんなことを思って最初は喜んだ。
でも、他にもそこが穴場だと知っている人がいたことに気づかなかった。まぁ、よくよく考えればエウフェシアだけしか知らないなんてあり得なかったのだが、この時のエウフェシアは気づかずに浮かれていた。
それから、しばらくして、そこに人がいるのを目撃することになった。
(え?)
向こうも、同じように気づいていなかったようだ。そういう穴場を利用している者がいるということに。そのせいで、エウフェシアはばっちりと目撃してしまうことになった。
相手が警戒していたら、こんなにすんなりと秘密を知ることはできなかっただろう。エウフェシアとしては、知らないままの方がよかった。
それを見たエウフェシアは、最初とんでもない悪夢を見たのだと思った。エウフェシアは、無意識にそんな風に自分に言い聞かせた。
(現実なわけない)
そうであってほしかったことが大きかったせいで、ずっと悪夢だと刷り込むというか、思い込むように無理やりにでもなろうとした。かなり無理があったが、それでもできるのなら見なかった時に戻りたいとすら思った。
姉の婚約者である王太子が、アルテミシアの親友の令嬢と密会をしているのをエウフェシアは目撃してしまったのだ。2人っきりで、ひっそりと会うなんて、あってはならないはずなのに人知れず会う2人は、どう見ても想い合っているようにエウフェシアには見えてならなかった。
(こんなところに2人っきりでいるなんて……)
最初は、信じられない裏切り行為をしていると思って怒りが沸き起こってしまった。でも、それだけでは済まされなかったのだ。
いつも見てる王太子が、あんなに柔らかに微笑んでいたのだ。愛しい者を見る目を向けているのが、姉の親友だったのだ。アルテミシアが親友だと言っている相手なことにもエウフェシアは怒りを覚えた。
更には、相手もまた婚約者がいるというのに一緒にいられるだけで幸せだと言わんばかりにしている光景にエウフェシアは、訳がわからなくなっていた。
それから、何度か目撃するうちに2人の間の雰囲気に胸を打たれるようになった。
(あんな表情をするほど、なのよね)
姉が一番の親友だとエウフェシアに常日頃から言っていた相手だった。ずっと親友と呼べる相手がいる姉が、エウフェシアは羨ましかった。自分には友達と言える令嬢すらいない。
それが、完璧な姉に友達面する人は多くいるが、親友の令嬢だけは全然違って見えた。アルテミシアのことを一番わかっているのが、妹以外にいるとしたら、婚約者とその親友だと思っていた。なのにそうではなかったのだ。混乱しないわけがない。
蓋を開ければ、親友というものも、完璧なはずのアルテミシアの婚約者の王太子も、そんなにいいものではなかったのではないかとエウフェシアは思ってしまった。
それどころか、影でとんでもない裏切り行為をしていたわけだ。お互いに婚約者がいるのに想い合っている相手が他にいて、未だにその想いを終わらせられずにいるのだ。それは、大問題だ。
(どうしよう。これは、お姉様に伝えるべき? あんなに想い合っているように見えるのに。浮気しているあちらが悪いはずなのに。どうして、私の方が、こんなにもいたたまれない気持ちになるのよ)
悩みに悩んで、エウフェシアは姉に告げようとした。胃に穴が開きそうなほどに悩んだというエウフェシアは、またも別の悪夢を見ることになるとは思いもしなかった。
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