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しおりを挟む評判通りな国とは程遠いのが、クレオンという国だった。
街に繰り出せば、いつもいかなる時も賑やかだったが、住んでいる者が観光客や他所から来ている者を見分けるのなんて簡単なものだった。心からはしゃいでいるのと見せかけで浮かれたフリをして楽しそうにしているのだ。浮かれすぎてなければ、見分けるのなんて簡単だったはずだが、旅行者がそれを気にすることはなかったのは、土産を買うのに忙しくしていたからに他ならない。
それこそ、観光に適したところは美しく見えるようにされていたが、観光客が行かないようなところは美しいとは言えない状態になっていた。その落差を知るのは、その国に住んでいる者のみだった。
クレオンの国が、そんな風になったのは、いつからなのかはわからない。そこに住んでいる者たちにとって、それが見慣れた光景となっていて、他所の国に嫁ぐことになるとクレオンの出身というだけで、ちやほやされるのもあって、わざわざ評判を落とすようなことをする者もいなかった。
いつの間にか上辺だけで、中身のない国に成り下がっていた。それが、いつからなのかを調べる者もいなければ、それをどうにかしようとする者もいなかった。
そのせいでよくなることはなく、現状維持をしているようで、段々と酷くなっていっていることに気づく者もいなかった。そんな環境のままが、今後の幸せに繋がると思っている。
そんなクレオンという国でエウフェシア・メルクーリは公爵家の令嬢として生まれて育った。見た目はごく普通の至ってどこにでもいるような令嬢だ。
エウフェシアには両親がいて、姉がいて、公爵家というだけで何不自由なく育ったと周りに思われていた。
でも、実際はそんな彼女のことをクレオンで、羨む者はあまりどころか、貴族だけでなくて、平民すら1人もいなかった。そう、全くいないのが現状だ。貴族であろうとも、平民であろうとも、メルクーリ公爵家の次女の話題で、欠片もエウフェシア自身のことで羨まれる話題があがることはなかった。逆にそこに生まれたのが自分でなくてよかったと思う者の方が多かった。
「あんな完璧な人の妹に生まれていたら、ゾッとするわ」
「本当にそうね。生まれた時から、ずっと比べられるなんて最悪すぎるわ」
「それにしても、そんな人の妹があんなに酷いというのも、可哀想どころじゃなくて残念よね」
「残念なのは、いつものことじゃない。それにしても、アルテミシア様はいつ見かけても完璧。完璧すぎるわ」
「どうしたら、あぁなれるのかしらね」
「いつ見ても、見目麗しいし、プロポーションも完璧すぎて、横に並ぶのに気が引けてならないわ」
「この間のドレスも素敵だったわね」
「同じものを作らせようとお母様がしていたけど、あれが似合う方なんてアルテミシア様くらいよね」
羨まれる話題に登るのは、エウフェシアの完璧な姉のアルテミシアのことばかりだった。エウフェシアと違って見目麗しく、完璧なプロポーションをしていた。そして、何をさせても卒なくこなす。失敗なんてしているのを誰も見たことなどないほど、常に誰もが期待した通りの、いや、それ以上のことをやるのがアルテミシアという令嬢だった。
そのため、彼女がしたことや身に着けたものを真似る者は後を絶たなかったが、同じことをしていてもピエロみたいに間抜けにしか見えないのだ。そんな人を見つけるとこぞって面白おかしく話して、笑い者になるだけだった。
それを知っているからこそ、アルテミシアと同じ格好をしないように気をつけるようになる女性が多くなったが、その手の話題でもエウフェシアは馬鹿にされる一方なのは姉が関係していた。エウフェシアは、わざわざ笑い者になる格好をしたかったわけではないが、そうせざる終えない状況になっていて、いつも笑われる中にエウフェシアは存在していた。
同年代の令嬢よりも頭一つ以上抜きん出た存在だったのが、才女のアルテミシアだった。
そんな彼女の真似をしたところで、間抜けにしか見えないことに気づくのも、そんなに時間はかからなかった。それでも、人間は一度は真似てみたくなるもののようで、彼女が着たドレスやら装飾品やらを身に着けて現れる令嬢もちらほらといた。
エウフェシアは、真似るつもりはなかった。姉妹だからとアルテミシアが揃いのものを買うことが多いせいで、それを目敏く見つけられるたび、騒がれた。いい意味ではない。
「また、真似てるわ」
「姉の真似ばかりして、ちっとも似合ってないのに気づいていないのかしらね」
「いつ見ても滑稽で、笑えるわね」
「本当に面白いくらい似合ってないわよね」
「……」
良かれと思って姉が揃えてくれたものを身に着けるとそれを見て笑われるのは、いつものことでしかなかった。
(似合っていないのは、私もよくわかっているわよ。どうして、私が着てるとこうも散々なまでに言うのよ。あたりが強すぎるのは、どうしてなんだか。……やっぱり、お姉様の妹が私なのが気に入らないってことになるのかしらね)
他の令嬢が、同じような格好をしていても面と向かって貶したりもしなければ、遠巻きにあれこれ言うこともないのだが、それがエウフェシアだとわかると近くだろうと遠くだろうと馬鹿にする者はたくさんいた。
まるで、エウフェシアを笑いものにしていれば、それでいいかのようになっていくのが酷くなっているとも知らず、この時のエウフェシアはまたかと思う程度でしかなかった。
そのまたかが厄介で、面倒くさいものになるのも大した時間は必要なくなっていくが、それでもこの時のエウフェシアにはまだまだ大したストレスを感じることはなかった。
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