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しおりを挟む月に2、3度。少し離れたところの老人ホームに通って、三千華のことを……。いや、三千華によく似た人が来てくれていると思っている老人と話をするのが、三千華のボランティアとなっていた。
(私としては、毎日でも余裕なくらいに誰かの話を聞き続けられるくらいには、逞しくなれた気がするな。……変に逞しくなってる気がしないでもないけど)
それが、三千華の予定に加わるまでは大変だったが過ぎ去ってしまうと時間を持て余してしまうことになるとは思ってもみなかった。
そこで、バイトもすることにした三千華は、楽しそうにしているのを大学で目撃されていることにも気づいていなかった。
「あの子、楽しそうにしてるな」
「バイト始めたみたいだよ」
「へ~、あんなことに巻き込まれて、やっと解放された途端、バイトするとか凄いな」
「ボランティアもしてるって」
三千華の知らないところで、個人情報がだだ漏れになっていることにも全く気づいていなかった。
「ボランティア?」
「なんか、見知らぬお爺さんに知らない人に間違われて、話し合わせて会話してるんだって」
「は?」
同じようにボランティアに言っている他の大学生が、見たままに話したようだ。
それこそ、ボケている老人に話し合わせて会話しているようなことを話したようで、それを又聞きすることになった男性は眉を顰めずにはいられなかった。
まぁ、あながち間違ってはいない。間違ってはいないが、言い方というものがある。
そんな風に話されていて、それに不快な思いをしてくれている人がいることも知らず、三千華はボランティアを続けていた。
「幸子ちゃん!」
「こんにちは。秋丞さん」
80歳を過ぎている男性は、それまで老人ホームの職員さんたちに何を言われても無反応で仏頂面をしていたが、三千華を見つけると満面の笑顔となって別の名前を口にするのはいつものことだった。
三千華も、やっと顔と名前が覚えられていた。彼はとても珍しい名字だが、名前で呼んでいた。名字で呼ぶと怒らせたと思ってオロオロされてしまったのだ。
(それだけ、幸子という方とは仲良しなのよね)
その人が、三千華に似ていることを知って、益々会ってみたい気持ちが膨らんでいた。
「良かった。今日も、お願いね」
職員の一人が、三千華にそっと耳打ちをした。それに三千華は軽く会釈した。今日も、秋丞に手をやいていたようだ。
彼は三千華に会うまでは、笑ったところを見たことはないらしい。ここの職員さんたちは言っていた。声をかけても返事もなく、自分のしてほしいことを言うくらいで、他には何もない人だったようだ。
それが、三千華を別の人と間違えているようだ。もしかするとお孫さんかなと三千華は思っていたが、どうも違うようだ。
「天気がいいから、外に行きませんか?」
「外か。それは、いいな」
(こうしているととても人の良いおじいさんにしか見えないんだけどな)
それは、三千華を幸子という人と間違えているからのようだ。
車椅子に乗っている秋丞が外に出ることに喜んでいるのを見ていた職員さんの一人が、三千華と目があって親指を立てていた。気分転換にいいと思われているようだ。
それにこうして、三千華と過ごすとしばらくは不機嫌さも少しはマシになるようで、三千華といる時は……。いや、幸子という人といる時は、80を超えている感じが不思議としなかった。
若々しいというのも変だが、何やら三千華は同じ年代の若い男性に見えてならなかった。
(きっと、秋丞さんの若かりし頃は、格好よくて素敵な気がするな。こうして、にこにことしているのを見ても、身だしなみもきちんとしているし。私に似た人とは、どんな関係だったんだろう……? 孫ではなくて、娘さんでもないとしたら、奥さんなのかな? それとも、好きな人だったりして)
三千華は、ふと思い至ったそれに色んな感情が沸き起こった。
(もし、好きな人だとしたら、本当に秋丞さんにとって、大事な人ってことだよね……? どんなに月日が経っても忘れたくない人。その人に似ているのだとしたら、私は……。私は、とんでもなく酷いことをしているのではないの……?)
ふと過ったその感情に三千華は、思い悩むことになった。
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