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しおりを挟むアストリットのことを家族や王子たちが必死に探し始めた時には、聖女の力を使い国境まで難なく来ていた。
アストリットは、ここを越えれば聖女の役目も終えて、次の聖女に引き継がれるとわかっていた。そこを何の躊躇いもなく越えたのたが……。
「あれ……?」
そこで、聖女の力はなくなるはずが、減るどころか増したように思えてアストリットは首を傾げた。
「まぁいっか」
特に気にすることなく気ままな旅を満喫するつもりだった。
気の向くままに旅をしようとしたのだが、隣国の神殿騎士が使者として彼女の元に来るまで、1週間もかからなかったことに驚いているが、相変わらず、その表情は無表情だった。
(見つかっちゃった。面倒くさいな)
表情は変わらずにいたはずたが、騎士は、アストリットが困っているのがわかったのだろう。騎士に事情を聞かれて、今までのことを掻い摘んで話したのだ。
聞いてきた騎士だけでなく、他の騎士たちもあり得ないと憤慨した顔をしていた。
(いい人たちっぽいな。仕事なんだし、大人しく着いて行くべきなんだろうけど……)
するとどちらに行かれるのですか?と聞かれて、あてのない旅とも言えず、苦し紛れに聖女っぽい口実としてこう言ってみた。
「王族や貴族の二日酔いの頭痛、吐き気や食べ過ぎの腹痛、歯が痛いとかを治してばかりだったから、本当に困ってる人たちのために力を使いたいのです。あてがあるわけではありません」
そう言うと騎士たちはみんな感激したようだ。
(どうしよう。ここの人たち、いい人過ぎる。ちょっと、心が痛いな。でも、本当に出来れば、この力は本当に困ってる人たちのために使いたいのよね)
ここの人たちなら、そんなことで聖女の力を使わせるなどしないような気がするが、人間わからないものだ。
今までも、そうだった。寄付やらしてもらっているのだから、優先的にそういう貴族を診るようにと神殿では言われてきた。それに比べて、寄付やお布施があまりできない者たちは何日も神殿の外で癒やしてもらえるのをひたすら待っていたりするのだ。
だが、アストリットは誰からも礼の一つも言われたことがないのだ。それが当たり前なのだと思われていたのだ。
(そういう国になってしまっていたのよね)
だからこそ、さっさと出て来たのだ。
それに比べて、全部が嘘ではないが、聖女の一挙手一投足で、こんなに感激する人たちはアストリットの側に今まで居なかった。ただの一人も。あの国の人たちは、みんな聖女の仕事は治すことのみで感謝の言葉すらなかったのだ。
だから、アストリットはかなり戸惑ってしまっていたりする。
(でも、これが普通なのかな?)
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