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そんなことが親世代にあったことを知らない子供たちが多かった。


「どうしたの?」
「……私を笑う奴を呪ってるのよ」
「何で、そんなことしてるの?」
「そんなことして、何が楽しいのさ?」


男の子と幼い女の子が心底、不思議そうにしていた。老婆のような修道女らしからぬことを言うのに首を傾げた。


「こら、2人とも。お仕事の邪魔したら、おば様たちに怒られるわよ」
「でも、変なこと頑張ってるんだもん」
「変なこと?」


少し年上の女の子が、不思議そうに近づいてきた

そして、修道女が頑張っていることにきょとんとした。


「あの、失礼ですが、そんなことして楽しいですか?」
「もちろん」
「……そんなことしても、どんどん笑われるだけだと思いますよ」
「なら、もっと呪うだけよ。そうすれば、笑われなくなるわ」
「笑われたくないってことですよね?」
「馬鹿にされて楽しいわけないでしょ」


それを聞いて小さな女の子が……。


「なら、それやめたらいいよ」
「は?」
「世の中、されたくないことをされるのは、原因があるからなんだって。だから、続くのならまず、やめてみて、他をやるのがいいんだよ。私に意地悪する子に話すの嫌で無視したら、酷くなって、ちゃんと話すようにしたら、意地悪されなくなったもん」
「……」
「時々、お兄ちゃんと喧嘩するようになったけど」
「あれは、あいつが悪い」
「喧嘩は良くないよ」
「……」


妹に言われて、兄はムッとしていた。どうやら、その子は妹に気があるらしい。


「だって。お兄ちゃんとして、妹には話し合いができるところ見せた方がいいわよ」
「男なら強さで勝負してもいいじゃん」
「どっちにしろ。おじ様が後ろに控えているから、大丈夫だと思うけど。妹に嫌われないようにしといたら?」
「……そうする」


それはつまり、父親に嫌われ役を押し付けると言うことではあるが、それを選んだようだ。

そんなこんなで話しているところに老婆を探していた修道女たちがやって来た。


「ここにいたのね。さぁ、戻りましょう」
「あ、これ、あげる!」
「あら、ごめんなさい。何か迷惑をかけたかしら?」
「ううん。その人にあげる」
「……私に?」
「うん。甘いの食べるとにこっとなるでしょ? 笑っているといいことあるよ」
「……」


それを聞いて、お兄ちゃんの方は……。


「変なのも釣れるけどな」


そんなぼやきが聞こえて、年上の女の子が、その子の頭を撫でた。妹が、男にモテるのを阻止したい年頃なのだ。


「はい!」
「……ありがと」
「っ、」
「どういたしまして!」


久しぶりにお礼を言うのに迎えに来た修道女たちは驚いた。

その1人は、年上の女の子をまじまじと見てきた。


「エレオノーレちゃん……?」
「母のことをご存じなのですか?」
「あなた、そう。お母様の幼い頃にそっくりね」
「よく言われます」


従弟妹が遊びに来ているから、彼女は庶民的な格好をして街を散策していた。

ちゃんと控えている護衛たちがいたのにも、修道女は気づいた。


「この子たちは、あなたの弟妹?」
「いえ、叔父の子供たちです」
「そう。……縁とは不思議なものね」
「?」


しみじみという修道女は、深々と頭を下げて戻って行った。

その話を母であるエレオノーレにした。ちゃん付けで、呼ぶ人物に心当たりがあったようだ。

それを聞いて、エレオノーレは涙を流した。何があったのかと夫が慌てて駆けつけた時には、娘が余計なことを言ったと思っているのをそんなことないと言っているところだった。


「エレオノーレ」
「私、もっと頑張るわ」
「大丈夫なんだな?」
「えぇ、凄くやる気に満ちてるわ」
「……なら、いいが」


義兄に殴り倒されるかと思っていたのをエレオノーレの夫が言葉にすることはなかった。

イザークとガブリエルも、子供たちから修道女の話を聞いて、誰なのかわかったのはすぐだった。

でも、何かする気はなかったが、子供たちが時折、修道女と仲良くしていても、そのままにした。

それでも、見張りをつけないことは怠ることはなかったが、ちょっとずつでもいい方向に向くことになるきっかけが、自分たちの子供たちがしていることに何とも奇妙な縁を感じずに入られなかった。

そう、世界がどうにかなるのではないかと思われていた呪いが、ちょっとずつおさまることになったのは、そんなことだった。

生まれ変わった世界で、幸せになってほしくて、ずっと奮闘している者たちがいた。

前世は、恋人同士だったが、それを諦めて兄として守る者。

妹をどうにかしようとして、再び兄妹と生まれても、同じことになってしまったもの。

それぞれの人生があったが、前世でやらかしてしまったカルマを本人が、どうにかしない限り呪いがおさまることはないようだ。


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