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しおりを挟む(とある国の国王視点)
公爵夫人として嫁いだ王妹の産んだ娘が、アポリネール国でわがままを爆発させているのは、知っていた。
王族に久々に誕生したとされている女児に周りは戦々恐々とした者は少なくなかったが、美しく成長して、大した問題もなく嫁いで行った。いや、裏では色々と問題はあったが、全て揉み消した。
それに王であるが、彼女の兄でもある私は、誰よりもホッとしていた。警戒しすぎていただけではないかと思いたかった。
きっと呪いというのは、何かの比喩だったのだ。
そう思っていたが、それでも一抹の不安が拭いきれなかった。でも、王族を離れたのなら大丈夫だろうと思いたくて、誤魔化すことにした。
自分としては、王女が生まれなかったことにホッとした。でも、その裏で王妃がある覚悟をさせられていることを知りもしなかった。
「陛下。ご存じですか?」
「なんだ?」
王妃が、ある日、こんなことを言い出した。
「王妃となって、最初に何を覚悟するように言われるかです」
「?」
「王女が生まれたら、この国のために生まれなかったことにせよ」
「っ、!?」
そんな覚悟をさせられるなんて知りもしなかった。
「それをあの王妹は、破って生まれた。学園を卒業したら、外に出さずに修道院に入らせるとあなたは先の国王と王妃に誓った。なのに嫁がせた」
「っ、なぜ、それを」
「先の王妃に聞きました。もし、その約束を反故にして、その後に何か起こる前に対処させよと」
「っ、それは、私に姪を殺せと言うのか?!」
「あの方は、家庭を持つことはないと思っているから、知らないのです」
そこから、女児が生まれた場合のことを知らせるべきだと言うのを止め続けた。そんな恐ろしいことを妹にさせたくなかった。
すると妹のところに女児が生まれたと聞いて、ゾッとした。もう、その頃には王妃は何も言わなくなっていた。
日に日に危惧するようなことになっているようだが、こちらに被害が出ることはなかったのは、念の為にと王族を離れた後に何が起こるかわからないと縁を切ったおかげかも知れない。
「陛下がお心を痛めることはありません。我が国の厄災があちらの国に移動したのです。喜ばしいことではありませんか」
「……」
大臣たちが、よかった、よかったと言うのに私は頷くことも、何の反応もしなかった。できるわけがなかった。
妹が不幸せになって犠牲になったのをどう喜べというのか。自分が約束を果たさなかったことで、こんなことになったのだ。
呪いが、完全にあちらに移動したと安心しきる貴族たちと国民に不安しかなかった。王妃が、ほら見ろと会いに来ることはなかった。
その後、何もしなかったツケのように元王女とフェリシアのことを笑っていた者たちがおかしくなっていった。
呪いは、更に悪化していたようだ。でも、国民も周りも止まらなくなっていた。
私は、美しい妹が籠の鳥のように囚われる一生を送らせては可哀想だと思っていた。学園を卒業したら、修道院にひっそりと入るように幼い頃から妹は両親や周りに言われて生きてきた。
「なぜ、私がそんな目にあわなければならないの?」
「……」
「私は、何もしてないのに。これから先も何もしたりしないわ」
「……」
兄として妹が、そう言って泣くのを何も言えずに側にいることしかできなかった。
でも、先王と先の王妃は、家庭を持たせてはならないと思っていた。何が起こるかわからないからと。何を言っても、頑なに妹は、外で家庭を持たせてはならないかのようにしていた。
亡くなる前に約束したことを破ったのは、国王となった私だ。周りが反対したが相思相愛の2人を引き離すことができなかった。
「お兄様」
「お前は隣国に嫁ぐのだ。きっと大丈夫だ」
それでも、万が一を考えて縁を切ることになったが、それで幸せになれると思っていた。
それが妹が娘を産むまでになるとは思わなかった。王妃が、対処法を教えてくれたのにそれも伝えなかった。
「許してくれ」
国王は、嘆き悲しんだ。今さら遅いことをした。
自分の情によって、自分の国だけでなくて、他所の国にまで呪いが広がってしまったことに。そして、妹に幸せになってほしかっただけなのに。不幸となってしまう未来を選ばせてしまったことを。
でも、そんな呪いに打ち勝つ強い者たちがいることを知って、少しの希望を持ったのもあったが、心労が祟って、若死にすることになった国王の死を誰よりも嘆き悲しんだのは、最愛の妹だったことを彼は知ることがなかった。
そう、強さを持つ者たちが、以前叶えられなかったことを叶えるために生まれていることを知る者はいなかった。
それが、成功する者と失敗する者にわかれるのは、心の強さだということを知ることはなかった。
姪と甥っ子が、失敗したようにこの国王は来世でも、失敗しそうだ。
でも、姪に救済の光が差すことになるとは、彼は知りもしなかった。
嘆き悲しむしかできなかった彼とは違う者たちが、アポリネール国にはいたことを知らなかった。
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