上 下
5 / 13

しおりを挟む

(アドルフ視点)


イザークと仲良くなりたくて、声をかけたら……。


「それより、お前のとこの妹、どうにかしろよ。なんで、幼なじみだからってエレオノーレに何でもかんでも押し付けてんだよ」


そう言われた。そんなことを私に言って来た者は初めてだった。

初めてのこと尽くしで、やったことがないことをした。妹にらしくないことをした。昔から何を言っても変わらないことだとわかっていてやった。

いや、兄としてはらしいことだろうが、妹はわがままをやめられたことがないため、あれこれ言ったところで、難しかったようだ。

それでも、しつこく何度も話をしたが結果は、無視されるようになった。

イザークがやったことで、あっという間に周りは変わったのに私は、妹をちょっとでも変えることができなかったのだ。


「もう、ほっとけ」
「イザーク」


そう言ったのは、イザークだった。それでも、兄は兄だ。ほっとけないと言うイザークは……。


「いい兄貴だな。だが、もう、相手もそれなりの年なんだし、気づくまでほっとくしかないさ。体験してみなきゃ、わからないんだろ」
「体験。そうか。そうかもな」
「それより、お前、友達いるか?」
「友達……?」
「男友達だ。滅多に学園に来ないみたいだから、いないんじゃないか?」


イザークの言葉にアドルフは、目を瞬かせた。そこから、友達とやらを作ることになるとは思わなかった。

イザークと友人になれるだけでよかったのだが、彼は……。


「お前みたいなのを1人で相手してられっか。もっと人生、楽しめ」
「どういう意味だ?」
「世の中、見た目だけじゃ駄目ってことだ。中身も磨け。むしろ、中身がかっこいい方がいいぞ」


イザークいわく、私は真逆らしい。そのせいだろう。婚約破棄になったことを話すと大変だなと慰められた。

多分、妹のことと中身に問題があるからだろう。


「そんな心配、初めてされた」


そんなことを言うとイザークに同情的な視線を向けられた。

その頃には、エレオノーレ嬢の姿が見えなくなっていたが、気にもならないくらい、学園が楽しくなっていた。

そのまま、続けばよかったが、そうはならなかった。妹を放置し続けたツケだろう。








アドルフは知らなかった。彼は父に似た見目麗しいさを持って生まれたが、妹が母の血筋にあがろうことができなかったことで悪化していったことを。

それをエレオノーレが側にいたから抑えられていたことを彼は知ることはなかった。

それをエレオノーレに任せっきりにしていたせいで、自分も引きづられるように幸せになれなくなっていることに気づくことはなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その国外追放、謹んでお受けします。悪役令嬢らしく退場して見せましょう。

ユズ
恋愛
乙女ゲームの世界に転生し、悪役令嬢になってしまったメリンダ。しかもその乙女ゲーム、少し変わっていて?断罪される運命を変えようとするも失敗。卒業パーティーで冤罪を着せられ国外追放を言い渡される。それでも、やっぱり想い人の前では美しくありたい! …確かにそうは思ったけど、こんな展開は知らないのですが!? *小説家になろう様でも投稿しています

わたくしは悪役令嬢ですので、どうぞお気になさらずに

下菊みこと
恋愛
前世の記憶のおかげで冷静になった悪役令嬢っぽい女の子の、婚約者とのやり直しのお話。 ご都合主義で、ハッピーエンドだけど少し悲しい終わり。 小説家になろう様でも投稿しています。

モブとか知らないし婚約破棄も知らない

monaca
恋愛
病弱だったわたしは生まれかわりました。 モブ? わかりませんが、この婚約はお受けいたします。

転生悪役令嬢は冒険者になればいいと気が付いた

よーこ
恋愛
物心ついた頃から前世の記憶持ちの悪役令嬢ベルティーア。 国の第一王子との婚約式の時、ここが乙女ゲームの世界だと気が付いた。 自分はメイン攻略対象にくっつく悪役令嬢キャラだった。 はい、詰んだ。 将来は貴族籍を剥奪されて国外追放決定です。 よし、だったら魔法があるこのファンタジーな世界を満喫しよう。 国外に追放されたら冒険者になって生きるぞヒャッホー!

悪役令嬢はどうしてこうなったと唸る

黒木メイ
恋愛
私の婚約者は乙女ゲームの攻略対象でした。 ヒロインはどうやら、逆ハー狙いのよう。 でも、キースの初めての初恋と友情を邪魔する気もない。 キースが幸せになるならと思ってさっさと婚約破棄して退場したのに……どうしてこうなったのかしら。 ※同様の内容をカクヨムやなろうでも掲載しています。

【完結】その令嬢は号泣しただけ~泣き虫令嬢に悪役は無理でした~

春風由実
恋愛
お城の庭園で大泣きしてしまった十二歳の私。 かつての記憶を取り戻し、自分が物語の序盤で早々に退場する悪しき公爵令嬢であることを思い出します。 私は目立たず密やかに穏やかに、そして出来るだけ長く生きたいのです。 それにこんなに泣き虫だから、王太子殿下の婚約者だなんて重たい役目は無理、無理、無理。 だから早々に逃げ出そうと決めていたのに。 どうして目の前にこの方が座っているのでしょうか? ※本編十七話、番外編四話の短いお話です。 ※こちらはさっと完結します。(2022.11.8完結) ※カクヨムにも掲載しています。

気付いたら悪役令嬢に転生していたけれど、直後嫁いだ相手も気付いたら転生していた悪役令息でした。

下菊みこと
恋愛
タイトルの通りのお話。 ファビエンヌは悪役令嬢であることを思い出した。しかし思い出したのが悪虐の限りを尽くした後、悪役令息に嫁ぐ直前だった。悪役令息であるエルヴェと婚姻して、二人きりになると彼は…。 小説家になろう様でも投稿しています。

信じていた全てに捨てられたわたくしが、新たな愛を受けて幸せを掴むお話

下菊みこと
恋愛
家族、友人、婚約者、その信じていた全てを奪われて、全てに捨てられた悪役令嬢に仕立て上げられた無実の少女が幸せを掴むお話。 ざまぁは添えるだけだけど過激。 主人公は結果的にめちゃくちゃ幸せになります。 ご都合主義のハッピーエンド。 精霊王様はチートで甘々なスパダリです。 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...