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第1章

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最初は、子爵夫人であるフィオレンティーナたち双子の姉妹の母親のことを何かと馬鹿にしていた面々も、評判を聞きつけて子爵家のガーデンパーティーに参加させてくれと言いに来たのは、割とすぐのことだった。

しかも、きちんと参加できなかったことを謝罪してから、子爵夫人にガーデンパーティーに出たいと言う人物が、日に日に増えていくことになった。


「あなたのところのガーデンパーティーが、とても素晴らしいと聞いたわ。なのにこの間は、どうしても動かせない用事で出席ができなかったのよ。申し訳なかった。今度、そちらでガーデンパーティーをする時は、予定があっても必ず空けるわ。また、誘ってもらえないかしら?」


そんな風に低姿勢で、参加したがる夫人たちが1人、2人と次第に増えて行くことになった。

フィオレンティーナの母親は仕方がないわねと無理を聞いてあげると言い、その見返りに流行りのものをもらったりし始めていた。

その流行りものは、子爵家が贔屓にしているところの流行りものではない。きちんとしたものだったが、その違いが残念なことにフィオレンティーナの母親には全くわからなかった。そういうものを貰うまでになって、彼女が機嫌を悪くする日はなくなった。

次第に子爵家の開くガーデンパーティーへ参加する人数が増えていくことになり、それもあっという間のことだった。


(こんなに頻繁にパーティーをやることになるなんて……。それにみんな花を楽しみにしているっていうより、流行りの場所に来ている自分たちに酔っているみたい。貴族って、こんな人たちばかりなようね。……私に貴族の生活って難しいわ)


フィオレンティーナは、ガーデンパーティーがあるたび、いつも以上にぐったりするようになっていた。人数も回を重ねるごとに大きなものになっていた。なのに使用人たちの誰もフィオレンティーナを手伝おうとしなかった。

それだけでなくて、日常の仕事もしないままなのにしているふりをするようになった。

その上、庭師のダヴィードも子爵夫人に褒めちぎられながらも、全く仕事をしないで、給料だけをもらっている状態で、周りに自分がやっていると吹聴して回っていた。

一番頑張っていたのはフィオレンティーナだが、ガーデンパーティーが開かれるたび、双子の片割れのチェレスティーナは、母と一緒になって招待客と楽しそうにするようになっていた。

だが、フィオレンティーナは部屋で大人しくしていろと家族に言われていた。部屋に閉じこもってばかりいるから社交性がないと思われたのかも知れない。家族とも顔をあわせようとしないのだ。お客様に何か失礼なことをすると思われたのもあるようだ。

でも、実際は厨房で忙しくしていたのを家族の誰も知らなかった。

毎日、使用人たちの代わりに家事全般の仕事をしていることもあり、ガーデンパーティーの準備もいつもギリギリでもどうにかしていた。


(お菓子のレパートリーが増えていくわね。昔は……前世は、お菓子屋さんに憧れていた時期もあったし、おばあちゃんの喜ぶガーデンパーティーをしたくて、あれこれお菓子のレシピを考えたのを覚えていてよかったわ。こうなるとお菓子屋さんの方は、趣味のままでいいわ。……ここでは貴族だから、そんなことを職業になんてすることにはならないだろうけど。それより、ガーデニングプランナーとかになりたかったな。でも、現実的ではないって諦めていたのよね。それもこれも、前世の母のお金にならないって言われてやめるように言われ続けたせい。それにそれを選んだら、おばあちゃんが悪影響を与えたせいだって色々言っていたはずだし。……できないと思いながら、色々と考えて調べていたのが、こんなところで役に立つなんて皮肉よね)


そう考えて、フィオレンティーナは表情を暗くさせた。

前世の頃は花の仕事については考えまいとしていた。それこそ、趣味のままの方が嫌いにならずに済むとまで思って、言い訳をあげつらっていた。

フィオレンティーナの前世の母は、ガーデニングプランナーとか、花に携わる仕事なんて食べていけないと思っていて、仕事にするなら別のちゃんとしたものにしろとフィオレンティーナが小さい頃から、よく言っていたのだ。それを昨日のことのように思えてならなかった。


(今思い返してみると母さんは花が好きじゃないのかと思っていたけど、花の世話を熱心にするおばあちゃんに構ってもらえなくて、あんな風に言ってたのもあったのかも)


ふと、そんなことを思ってしまった。


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