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「美味しい」
「……」


エルネストからのお見舞いの品のプリンは、とても美味しかった。ただ、それを口にすると兄の顔が無になっていくのに気づいて、アリーチェが感想を言葉にするのをやめたのは早かった。


(複雑というか。お兄様って、エルネスト様に関してだけ面倒くさいところがあるのかも)


「……全部、食べたのか」
「……」


(き、気まずい)


兄は複雑そうな顔をしていた。更に複雑な顔をアリーチェはしていたはずだが、兄はそれに気づいていないようだ。


「あ、そうだ」
「?」


兄は、ふと思い出したかのようにサラッとこう告げた。


「マッダレーナが勘当された」
「え?」


兄は、何でもないようにそんなことを言った。それにアリーチェは……。


(お姉様が、勘当された……? 勘当って、言ったわよね?)


暴れる音がしなくなったとは思っていた。それに使用人たちも穏やかな顔をし始めているのには気づいていた。

でも、兄のそれだけで普通ならわからないところだが、アリーチェは……。


(詳しく聞かなくてもわかるかも。そうなるとステルヴィオの方も……)


兄が、次に何を言うのかが、アリーチェにはわかってしまった。


「それとステルヴィオも、勘当された」
「……」


(やっぱり)


アリーチェは、そんなことだろうと思った。

兄は、それだけしか言わなかったが、姉は謹慎がとけてから学園でステルヴィオと口論になったようだ。

学園では……。


「え、あの2人、婚約の手続きすらしてないの?」
「信じられない」
「婚約パーティーを中々開かないと思っていたら、それ以前だったみたいだな」


あの調子で言い争ったせいで、みんなに何があったかを知られることになったようだ。自分たちで広めたようなものだ。

それで、散々言われるようになり、ステルヴィオの両親は息子が婚約破棄をしたのも知らなかったらしく、ステルヴィオはめちゃくちゃ怒られたようだ。


「はぁ?! 婚約破棄すると勢いで言って、姉の方と婚約すると言っておいて、私たちに何も言わなかったのか!?」
「いえ、あの、」


この時、ステルヴィオの姉が嫁ぎ先で子供を産むと、彼の母親は嫁ぎ先に手伝いに行っていたが、生まれたと連絡が来て父親も、そちらに行っていてようやく戻って来たところだった。

アリーチェとの婚約破棄の手続きも、アリーチェの父親がやっていたのも、ステルヴィオの両親は知らなかったようだ。

そんな状況で、色々やらかしたことを聞いたが、それすら……。


「あいつのせいだ」


なぜか、ステルヴィオはそれらを全部アリーチェのせいにした。

そして、それはマッダレーナも一緒だった。


「アリーチェのせいで、散々な目にあっているわ」


そう、全てはアリーチェが寝違えたことから始まったと思ったようだ。

残念ながら問題は、そこからではないし、アリーチェのせいだと思っているのは、2人だけだ。寝違えたのは、きっかけであって原因ではない。

だが、マッダレーナとステルヴィオは、アリーチェのことを悪く言うのを熱弁して罵詈雑言を言いまくって、それによって2人は勘当が確定した。

アリーチェに謝るという選択肢が2人から出て来なかったことで、そうなったのだ。

それをざっくり話してくれたのは、親友のレティツィアだった。

兄は、何があったかを話す気はまるでなく、元より妹はアリーチェしかいなかったかのようにしていて、聞ける雰囲気ではなかった。

まぁ、何にせよ。学園でも、兄のようにいなくなってホッとしている面々ばかりで、姉と幼なじみのことをあれこれとアリーチェに言って来る人はいなかった。


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