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【1】白雪りんごのチキンステーキ
第4話 ましろのやりたいこと
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ましろはチキンステーキを食べ終わった後は、店員さんの休憩室──、バックヤードにいさせてもらった。りんごおじさんは、「お店のテーブルにいたらいいですよ」と言ってくれたけれど、お客さんが来たのに座れなかったら申し訳ないからだ。
しかし、バックヤードは意外と快適だっった。荷物を入れるロッカーと、二人用のテーブル一つとイスが二脚。冷蔵庫とテレビまであって、ましろの新しい部屋よりも楽しい場所かもしれない。
そしてましろは、しばらくバックヤードを楽しんでいたのだが、やはり、お店の様子が気になってたまらない。ついさっきまで自分もそこにいたものの、目立ちたくないあまりにキョロキョロすることができなかったのだ。
「ちょっとだけのぞいてもいいよね」
ましろは、バックヤードとお店をつなぐドアを、そぅっと少しだけ開いて中をのぞいた。
「あっ」
お店に流れている、ゆったりとしているけれど軽快な音楽。ジュウジュウトントンと、おいしそうな料理の音。お客さんの明るい笑顔……。
「おいしいわぁ、店長さん」
「そう言っていただけると、うれしいです」
「いつものオムライスね!」
「デミグラスソースのやつですね? かしこまりました」
「ごちそうさま~。また来ます」
「はい。いつでもお待ちしております」
お客さんたちの声に、りんごおじさんや店員のお兄さんは、心から嬉しそうに応えていた。
さっきは気がつかなかったが、このファミリーレストラン《りんごの木》は、なんだかホッと安心できて、のんびりとあったかい気持ちになるようなお店なのだ。
今は他のお客さんが座っているが、きっとましろも、あの席であんなふうに笑っていたのだろう。
「いいなぁ。このお店、好きだなぁ」
「ありがとうございます」
「ひっ!」
ハッと気がつくと、背をかがめたりんごおじさんが、ドアの向こう側からこちらをのぞいていたのだ。
「りんごおじさん! びっくりさせないでください!」
「ふふふっ。お店ののぞき見はよくないですよ」
りんごおじさんは面白そうに笑いながら、素早くドアを開けてバックヤードに入って来た。そしてメガネについた汚れをエプロンのポケットから出した布で、キュッキュッと拭いている。
「どうですか? 《りんごの木》は。また来たくなりました?」
「はい! とっても! とっても……」
ここまで言いかけて、ましろの頭にふわっと疑問がわいてきた。
さっきわたしが「いいなぁ」って思ったのって、お客さんがうらやましかったから? なんか違うと思う。違わないけど、違う。
少しだけ悩んで、ましろは「あっ!」とひらめいた。
「わたし、《りんごの木》で働きたいです!」
「えぇっ⁈」
りんごおじさんは、ましろの予想外の言葉にとても驚いた声をあげた。
「ま、ましろさんが働く⁈」
「そう! わたし、恩返しがしたいんです! おじさんと、このお店に!」
「恩返しって、そんな、鶴じゃないんですから……」
りんごおじさんは戸惑っていたが、ましろはぐいぐい近づき、物理的にも迫りまくった。久しぶりに見つけた、とびきりやりたいことなのだ。
押せ押せだ!
「りんごおじさん、お願いです! なにとぞ! なにとぞお願いします!」
「わ、分かりました」
りんごおじさんは、ましろに圧倒される形でうなずいた。そして、少しだけ悩んでからまた口を開く。
「でも、小学生を雇うわけにはいかないので、あくまでもお手伝い、ですからね?」
「それでもいいです!」
「勉強がおろそかになってはいけませんから、お手伝いは土日の数時間です」
「勉強がんばります!」
「遊びじゃないですから、真剣にできますか?」
「もちろんです! 店長!」
「僕には敬語を使わない。いいですか?」
「うん! 分かったよ!……って、あれ⁈ 最後のだけ、おかしくない?」
むしろ、店長には丁寧な言葉を使うべきではないかと思ったのだが、りんごおじさんは「いいんです」と首を縦にふった。
「お客さんには敬語を使ってください。でも、僕はましろさんのおじさんですから、その方がうれしいんです」
「でも、りんごおじさんは、デスマス付けてるじゃん」
「僕はクセなので」
ましろの不満そうな様子を見て、りんごおじさんは楽しそうに笑った。
「では、改めてよろしくお願いしますね。ましろさん」
「こちらこそ! りんごおじさん!」
***
ファミリーレストラン《りんごの木》は、おとぎ商店街にある小さなお店。
ほっこりのんびりできる、家族の絆を結ぶレストラン──。
しかし、バックヤードは意外と快適だっった。荷物を入れるロッカーと、二人用のテーブル一つとイスが二脚。冷蔵庫とテレビまであって、ましろの新しい部屋よりも楽しい場所かもしれない。
そしてましろは、しばらくバックヤードを楽しんでいたのだが、やはり、お店の様子が気になってたまらない。ついさっきまで自分もそこにいたものの、目立ちたくないあまりにキョロキョロすることができなかったのだ。
「ちょっとだけのぞいてもいいよね」
ましろは、バックヤードとお店をつなぐドアを、そぅっと少しだけ開いて中をのぞいた。
「あっ」
お店に流れている、ゆったりとしているけれど軽快な音楽。ジュウジュウトントンと、おいしそうな料理の音。お客さんの明るい笑顔……。
「おいしいわぁ、店長さん」
「そう言っていただけると、うれしいです」
「いつものオムライスね!」
「デミグラスソースのやつですね? かしこまりました」
「ごちそうさま~。また来ます」
「はい。いつでもお待ちしております」
お客さんたちの声に、りんごおじさんや店員のお兄さんは、心から嬉しそうに応えていた。
さっきは気がつかなかったが、このファミリーレストラン《りんごの木》は、なんだかホッと安心できて、のんびりとあったかい気持ちになるようなお店なのだ。
今は他のお客さんが座っているが、きっとましろも、あの席であんなふうに笑っていたのだろう。
「いいなぁ。このお店、好きだなぁ」
「ありがとうございます」
「ひっ!」
ハッと気がつくと、背をかがめたりんごおじさんが、ドアの向こう側からこちらをのぞいていたのだ。
「りんごおじさん! びっくりさせないでください!」
「ふふふっ。お店ののぞき見はよくないですよ」
りんごおじさんは面白そうに笑いながら、素早くドアを開けてバックヤードに入って来た。そしてメガネについた汚れをエプロンのポケットから出した布で、キュッキュッと拭いている。
「どうですか? 《りんごの木》は。また来たくなりました?」
「はい! とっても! とっても……」
ここまで言いかけて、ましろの頭にふわっと疑問がわいてきた。
さっきわたしが「いいなぁ」って思ったのって、お客さんがうらやましかったから? なんか違うと思う。違わないけど、違う。
少しだけ悩んで、ましろは「あっ!」とひらめいた。
「わたし、《りんごの木》で働きたいです!」
「えぇっ⁈」
りんごおじさんは、ましろの予想外の言葉にとても驚いた声をあげた。
「ま、ましろさんが働く⁈」
「そう! わたし、恩返しがしたいんです! おじさんと、このお店に!」
「恩返しって、そんな、鶴じゃないんですから……」
りんごおじさんは戸惑っていたが、ましろはぐいぐい近づき、物理的にも迫りまくった。久しぶりに見つけた、とびきりやりたいことなのだ。
押せ押せだ!
「りんごおじさん、お願いです! なにとぞ! なにとぞお願いします!」
「わ、分かりました」
りんごおじさんは、ましろに圧倒される形でうなずいた。そして、少しだけ悩んでからまた口を開く。
「でも、小学生を雇うわけにはいかないので、あくまでもお手伝い、ですからね?」
「それでもいいです!」
「勉強がおろそかになってはいけませんから、お手伝いは土日の数時間です」
「勉強がんばります!」
「遊びじゃないですから、真剣にできますか?」
「もちろんです! 店長!」
「僕には敬語を使わない。いいですか?」
「うん! 分かったよ!……って、あれ⁈ 最後のだけ、おかしくない?」
むしろ、店長には丁寧な言葉を使うべきではないかと思ったのだが、りんごおじさんは「いいんです」と首を縦にふった。
「お客さんには敬語を使ってください。でも、僕はましろさんのおじさんですから、その方がうれしいんです」
「でも、りんごおじさんは、デスマス付けてるじゃん」
「僕はクセなので」
ましろの不満そうな様子を見て、りんごおじさんは楽しそうに笑った。
「では、改めてよろしくお願いしますね。ましろさん」
「こちらこそ! りんごおじさん!」
***
ファミリーレストラン《りんごの木》は、おとぎ商店街にある小さなお店。
ほっこりのんびりできる、家族の絆を結ぶレストラン──。
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