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番外編
夫婦の歩み寄り②
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「ティア!」
「ただいまシグルド」
里帰りを終えてロジーヌ邸へ帰邸するなり、非番らしいシグルドが飛びつくように玄関ホールで出迎えてくれた。
凄い勢いで抱きつかれ、苦しいともがいているとすいっと抱き上げられた。
「シグルド、まだお義母様にご挨拶が……」
「そんなの後でいい。母もそんな野暮じゃないさ」
ニヤリとシグルドは口の端を吊り上げる。
「もう……久々に会ったわけでもないのに」
今朝方私の部屋から忍んで帰ってゆくのをバルコニーから見送ったばかりだ。私が苦笑すると、シグルドは私の頬に頬を擦り付けた。
「ここに帰ってくるまで安心できなかった」
「私の家はここよ?」
「ああ、分かっててもティアが帰ってくるまで落ち着かなかった……」
ティア、と何度も私の名を呼びながら、存在を確かめるように抱く腕に力を込める。私はシグルドの首に腕を回して抱き付いた。
「どこに居ても、あなたの隣に帰ってくるわ」
「ティア……」
「私はあなたの妻、でしょ?」
自分で言って何だか柄にもなく恥ずかしくなってしまった。私は顔を見られたくなくてぎゅっとシグルドの首筋に顔を埋める。でもシグルドにはお見通しのようだ。
「照れてるのか?可愛いなティア」
シグルドは私を抱き締めながら、使用人達が見守る中颯爽と歩き出した。私はその視線から逃れる様にぎゅっと目を閉じてシグルドに身を任せた。
シグルドは自室に着くなり私をソファへ抱き下ろした。
「何故ここへ?」
シグルドはふっと微笑むと、目の前のバルコニーへ繋がる扉を開いた。途端に目に飛び込んでくる一面の金。
これは──銀杏だろうか?黄色く色付いた無数の葉が木枯らしの風に舞っていた。そして遠く彼方には燃えるような赤に染まる山の端が見える。
「キレイ……」
ほうっと感嘆のため息が溢れる。シグルドは優しく瞳を細めて私の手を取ると、バルコニーへと誘った。
「ここからこんな綺麗な景色が見えたなんて知らなかったわ」
「俺にとっては毎年同じに見えるただの風景だった。だが、ティアと見ると違った特別なものに見えるから不思議だな」
「シグルド……」
茜色の日差しがシグルドを照らす。この黄昏時の日の色はシグルドの赤髪によく映える。私が思わず見惚れていると、そっと唇を奪われた。
「そんな顔で俺を見ないでくれ……」
「そんなって……どんな?」
「俺が好きで堪らないって顔してる」
「ふふ、その通りよ。愛する旦那様に思わず見惚れてしまったの。許して?」
シグルドの顔の赤みが夕日によるものだけなのか、私には分からなかったけれど、シグルドはぎゅっと眉根を寄せると後ろから私を抱きすくめた。
「あんまりからかわないでくれ、今の俺はティアと離れていたせいで余裕がないんだ」
「毎日会いに来てくれてたのに?」
私がクスクス笑うと、シグルドは私の耳朶を甘噛みした。
「君がここに居ない、その空虚さに居てもたっても居られなかった……」
「シグルド……」
私はシグルドの腕に手を添える。
「私達、歩み寄りが必要よね」
「ん?何のことだ?」
「私はもう少し体力を、シグルドはもう少し加減を……我慢じゃなくて互いに歩み寄るの」
「ああ……ティアに触れていると我を失ってしまうんだよな……いつもすまない……努力は、する」
しゅんとシグルドの項垂れるような気配が伝わってきて、私は思わず笑いが込み上げた。
「でも、嬉しいのよ。シグルドに求められるのは、心から……」
シグルドはくいっと私の顔を後ろに傾けると、噛み付くように口付けた。すぐに歯列を割って厚い舌に絡めとられる。
「ふっ……ん」
漏れる吐息は甘い媚を孕んで私自身をも昂らせる。
「ティア……」
声音にすら情欲を含ませて、シグルドが熱に浮かされたように私を呼ぶ。
私達は暫く夢中で貪るように口付けあった。
唇が離された時にはすっかり腰が砕け、くたりとシグルドにもたれかかるような有様だった。シグルドは私を抱き上げるとにっと悪そうな笑みを浮かべた。
「その状態では入浴やら着替えやら覚束ないだろ?」
嫌な予感がして私は弱々しくシグルドの胸を押す。
「少し休めば大丈夫よ、自分で出来るわ」
「夫に遠慮することはない。俺を君の下僕だと思って存分に身を任せてくれ」
「し、シグルド、落ち着いて?夫は下僕ではないわよ?」
「ああ、ティア……俺は昔から君に焦がれる愚かな下僕だ……」
困った。何処かで変なスイッチが入ってしまったらしい。こうなったシグルドは私でも止められない……私はため息と共に覚悟を決めた。
その後私がどうなったか──翌日ロジーヌ邸ではお義母様の怒声が鳴り響いた。
ベッドから起き上がれない私に怒り心頭のお義母様。その怒りの矛先は既に出仕済みのようだ。
「その、シグルドは私を気遣って一線は超えずに我慢してくれましたから……どうか怒らないであげて下さい」
そう、これは本当だ。途中までそれはそれは優しく体調を気遣い、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
けれど──私も悪いのだ。シグルドに求められるのが嬉しくて、私自身もシグルドを求めてしまった。
シグルドはギリギリの理性で一線を超えることなく、優しく愛してくれた。決して激しくはない……のだけれど緩やかに何度も何度もイかされて、私の体力はいつしか限界を超えた。
シグルドがいつも私を思い遣ってくれてるのは分かっている。だからやり過ぎだとしても責める気にはとてもなれなかった。シグルドとの情交はどうも加減が難しい。
女の扱いも知らないのかっ!っと尚怒りの治らないお義母様を宥めながら、歩み寄りにはまだ暫く時間がかかりそうだな、と私は苦笑を浮かべるのだった。
「ただいまシグルド」
里帰りを終えてロジーヌ邸へ帰邸するなり、非番らしいシグルドが飛びつくように玄関ホールで出迎えてくれた。
凄い勢いで抱きつかれ、苦しいともがいているとすいっと抱き上げられた。
「シグルド、まだお義母様にご挨拶が……」
「そんなの後でいい。母もそんな野暮じゃないさ」
ニヤリとシグルドは口の端を吊り上げる。
「もう……久々に会ったわけでもないのに」
今朝方私の部屋から忍んで帰ってゆくのをバルコニーから見送ったばかりだ。私が苦笑すると、シグルドは私の頬に頬を擦り付けた。
「ここに帰ってくるまで安心できなかった」
「私の家はここよ?」
「ああ、分かっててもティアが帰ってくるまで落ち着かなかった……」
ティア、と何度も私の名を呼びながら、存在を確かめるように抱く腕に力を込める。私はシグルドの首に腕を回して抱き付いた。
「どこに居ても、あなたの隣に帰ってくるわ」
「ティア……」
「私はあなたの妻、でしょ?」
自分で言って何だか柄にもなく恥ずかしくなってしまった。私は顔を見られたくなくてぎゅっとシグルドの首筋に顔を埋める。でもシグルドにはお見通しのようだ。
「照れてるのか?可愛いなティア」
シグルドは私を抱き締めながら、使用人達が見守る中颯爽と歩き出した。私はその視線から逃れる様にぎゅっと目を閉じてシグルドに身を任せた。
シグルドは自室に着くなり私をソファへ抱き下ろした。
「何故ここへ?」
シグルドはふっと微笑むと、目の前のバルコニーへ繋がる扉を開いた。途端に目に飛び込んでくる一面の金。
これは──銀杏だろうか?黄色く色付いた無数の葉が木枯らしの風に舞っていた。そして遠く彼方には燃えるような赤に染まる山の端が見える。
「キレイ……」
ほうっと感嘆のため息が溢れる。シグルドは優しく瞳を細めて私の手を取ると、バルコニーへと誘った。
「ここからこんな綺麗な景色が見えたなんて知らなかったわ」
「俺にとっては毎年同じに見えるただの風景だった。だが、ティアと見ると違った特別なものに見えるから不思議だな」
「シグルド……」
茜色の日差しがシグルドを照らす。この黄昏時の日の色はシグルドの赤髪によく映える。私が思わず見惚れていると、そっと唇を奪われた。
「そんな顔で俺を見ないでくれ……」
「そんなって……どんな?」
「俺が好きで堪らないって顔してる」
「ふふ、その通りよ。愛する旦那様に思わず見惚れてしまったの。許して?」
シグルドの顔の赤みが夕日によるものだけなのか、私には分からなかったけれど、シグルドはぎゅっと眉根を寄せると後ろから私を抱きすくめた。
「あんまりからかわないでくれ、今の俺はティアと離れていたせいで余裕がないんだ」
「毎日会いに来てくれてたのに?」
私がクスクス笑うと、シグルドは私の耳朶を甘噛みした。
「君がここに居ない、その空虚さに居てもたっても居られなかった……」
「シグルド……」
私はシグルドの腕に手を添える。
「私達、歩み寄りが必要よね」
「ん?何のことだ?」
「私はもう少し体力を、シグルドはもう少し加減を……我慢じゃなくて互いに歩み寄るの」
「ああ……ティアに触れていると我を失ってしまうんだよな……いつもすまない……努力は、する」
しゅんとシグルドの項垂れるような気配が伝わってきて、私は思わず笑いが込み上げた。
「でも、嬉しいのよ。シグルドに求められるのは、心から……」
シグルドはくいっと私の顔を後ろに傾けると、噛み付くように口付けた。すぐに歯列を割って厚い舌に絡めとられる。
「ふっ……ん」
漏れる吐息は甘い媚を孕んで私自身をも昂らせる。
「ティア……」
声音にすら情欲を含ませて、シグルドが熱に浮かされたように私を呼ぶ。
私達は暫く夢中で貪るように口付けあった。
唇が離された時にはすっかり腰が砕け、くたりとシグルドにもたれかかるような有様だった。シグルドは私を抱き上げるとにっと悪そうな笑みを浮かべた。
「その状態では入浴やら着替えやら覚束ないだろ?」
嫌な予感がして私は弱々しくシグルドの胸を押す。
「少し休めば大丈夫よ、自分で出来るわ」
「夫に遠慮することはない。俺を君の下僕だと思って存分に身を任せてくれ」
「し、シグルド、落ち着いて?夫は下僕ではないわよ?」
「ああ、ティア……俺は昔から君に焦がれる愚かな下僕だ……」
困った。何処かで変なスイッチが入ってしまったらしい。こうなったシグルドは私でも止められない……私はため息と共に覚悟を決めた。
その後私がどうなったか──翌日ロジーヌ邸ではお義母様の怒声が鳴り響いた。
ベッドから起き上がれない私に怒り心頭のお義母様。その怒りの矛先は既に出仕済みのようだ。
「その、シグルドは私を気遣って一線は超えずに我慢してくれましたから……どうか怒らないであげて下さい」
そう、これは本当だ。途中までそれはそれは優しく体調を気遣い、甲斐甲斐しく世話をしてくれた。
けれど──私も悪いのだ。シグルドに求められるのが嬉しくて、私自身もシグルドを求めてしまった。
シグルドはギリギリの理性で一線を超えることなく、優しく愛してくれた。決して激しくはない……のだけれど緩やかに何度も何度もイかされて、私の体力はいつしか限界を超えた。
シグルドがいつも私を思い遣ってくれてるのは分かっている。だからやり過ぎだとしても責める気にはとてもなれなかった。シグルドとの情交はどうも加減が難しい。
女の扱いも知らないのかっ!っと尚怒りの治らないお義母様を宥めながら、歩み寄りにはまだ暫く時間がかかりそうだな、と私は苦笑を浮かべるのだった。
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