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23偶然の出会い②
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「経緯は分かったけれど……どうして、教えてくれなかったの?」
「使えなければ放り出せ、とハインには言っていたんだ。ユージンが自力で地固め出来るまで、俺から誰にも何も言うつもりはなかった」
怒ってるか?とシグルドが私の頬を優しく撫でる。
シグルドはチャンスを与えただけ。それをものにできるかはあくまでもユージン次第だったのだ。
私は首を横に振る。
「いいえ……シグルド、ありがとう」
微笑むと、シグルドが皮肉気に口の端を吊り上げた。
「この件で君に礼を言われるのは……面白くないな」
「ユージンは私にとって弟みたいなものなの、ずっと」
幼い頃に思いを馳せると、シグルドに抱きすくめられた。
「俺のいない思い出に浸られるのも、やはり面白くないな」
「シグルド……もう、本当に困った人」
私は笑いながらシグルドを抱き締める。
「記憶も思い出もなかった事にはできないけれど……あなたが望むものは――何でもあげるわ」
「ティア……」
シグルドはすっと身を引くと、その場に跪いた。そして私の手を取ると額に押し当てる。
「リーティア・ロジェ。我が身我が愛の永久とこしえを貴方に誓う」
これは……騎士のレディーに対する愛の誓い。シグルドは顔を上げると真っ直ぐに私を射抜いた。その熱を孕んだ強い眼差しに心ごと絡め捕られる。
「……許します」
「ティア……」
ぐっと手を引かれて抱き込まれると同時に、熱い唇に塞がれた。ここが広場の真ん中で、周りには沢山のギャラリーが居ることなど気にもならなかった。
周囲の喧騒も歓声もどこか遠く、私の五感は甘い恍惚に支配される。
「んっ……はぁ……」
喘ぐように空気を求める私を、シグルドは甘く蕩けるような瞳で見詰めていた。
「俺は君のものだ。言葉では足りないくらい愛してる、ティア……」
きっと私もシグルドに負けない位、蕩けきった表情かおをしてる筈だ。
「シグルド……」
差し伸ばした手を取られて、指と指が互い違いに絡み合う。その手に口付けられた瞬間、耳をつんざくような拍手と歓声が湧き上がった。
「素晴らしい!何て麗しいカップルでしょう!」
呆気にとられて辺りを見回すと、見慣れない中年の紳士とハインが瞳を潤ませるながらこちらを見ていた。
「……ハイン、何の茶番だこれは」
シグルドが半眼になりながらハインを見据える。
「シグルド様、まさかご存知ないんですか?ここ、ベストカップルコンテスト会場ですよ!」
「は?ベストカップル?」
「ええ、ここ中央広場全体がコンテスト会場で、最もギャラリーを集めたカップルが優勝なんです!」
すっと血の気が引いてゆく。人目も気にせず致してしまった事は、全てパフォーマンスと見做されていた、と言うことか……
「もう文句なしにシグルド様、リーティアさんが優勝ですよ!これほどの支持を集めるなんて流石です!」
「こんなに盛り上げて頂き誠に恐縮です。どうか来年もいらして下さい!是非!」
熱く語る中年の紳士は、町長か何かだろう。興奮気味のギャラリーに反して、私とシグルドは、ただ脱力しつつ苦笑するしかなかった。
「母の話、ちゃんと聞いておけば良かったわ」
馬車の中、いつものようにシグルドの膝に乗せられながら、私は深いため息をついた。
「まあ、知らなかったとはいえ、悪い気はしないな」
「……え?」
「見世物にされたのは気に食わないが、誰から見ても俺とティアは似合いだと認められたんだろ?」
「ええ、まあ……」
「悪くないな」
シグルドはニヤリと満足気に笑んだ。私は手持ち無沙汰な指先でシグルドの輪郭をゆっくりとなぞる。
「シグルドはあの祭りの別名を知っていたの?」
「いや、別名なんてあるのか?」
「恋祭り、だそうよ。あの祭りで愛を誓い合った男女は永遠に結ばれる、と母が言っていたわ」
「ああ、なるほど。道理で熱いカップルが多かった訳だな」
「そうね、異様な熱気だったわね……ってまさかシグルド……」
ん?と楽しげに瞳を細めるシグルドの顔を両手で挟んで上向かせる。
「カップル達への対抗心からあんなことを?」
「その気持ちもゼロではないな。だが、俺は君に嘘はつけないんだ。全部本気だし本心だ」
そう、いつだってシグルドの言葉に嘘はない。だから彼の言葉は私の心を深く捕らえるのだ。
「レディ、狂おしいほど貴方を恋うる哀れな男に口付けを……」
言葉に反して何て獰猛な瞳だろう。愉悦を孕んだ瞳には熱い情欲が灯り、正に私を食らわんと舌なめずりする獣のようだ。
私はそんなシグルドの瞳に、蕩けるように笑んだ。
「許しましょう。あなたが望むもの、全て捧げるわ――」
私の唇がシグルドのそれに触れるよりも早く、私はその場に引き倒された。そして降りてくる嵐のような口付け、狂おしげに私の体を弄る掌に、視界は潤み意識は甘く溶かされてゆく。
愛してる――この時夢現で囁いた言葉がシグルドに届いたのか、私には分からなかった。
「使えなければ放り出せ、とハインには言っていたんだ。ユージンが自力で地固め出来るまで、俺から誰にも何も言うつもりはなかった」
怒ってるか?とシグルドが私の頬を優しく撫でる。
シグルドはチャンスを与えただけ。それをものにできるかはあくまでもユージン次第だったのだ。
私は首を横に振る。
「いいえ……シグルド、ありがとう」
微笑むと、シグルドが皮肉気に口の端を吊り上げた。
「この件で君に礼を言われるのは……面白くないな」
「ユージンは私にとって弟みたいなものなの、ずっと」
幼い頃に思いを馳せると、シグルドに抱きすくめられた。
「俺のいない思い出に浸られるのも、やはり面白くないな」
「シグルド……もう、本当に困った人」
私は笑いながらシグルドを抱き締める。
「記憶も思い出もなかった事にはできないけれど……あなたが望むものは――何でもあげるわ」
「ティア……」
シグルドはすっと身を引くと、その場に跪いた。そして私の手を取ると額に押し当てる。
「リーティア・ロジェ。我が身我が愛の永久とこしえを貴方に誓う」
これは……騎士のレディーに対する愛の誓い。シグルドは顔を上げると真っ直ぐに私を射抜いた。その熱を孕んだ強い眼差しに心ごと絡め捕られる。
「……許します」
「ティア……」
ぐっと手を引かれて抱き込まれると同時に、熱い唇に塞がれた。ここが広場の真ん中で、周りには沢山のギャラリーが居ることなど気にもならなかった。
周囲の喧騒も歓声もどこか遠く、私の五感は甘い恍惚に支配される。
「んっ……はぁ……」
喘ぐように空気を求める私を、シグルドは甘く蕩けるような瞳で見詰めていた。
「俺は君のものだ。言葉では足りないくらい愛してる、ティア……」
きっと私もシグルドに負けない位、蕩けきった表情かおをしてる筈だ。
「シグルド……」
差し伸ばした手を取られて、指と指が互い違いに絡み合う。その手に口付けられた瞬間、耳をつんざくような拍手と歓声が湧き上がった。
「素晴らしい!何て麗しいカップルでしょう!」
呆気にとられて辺りを見回すと、見慣れない中年の紳士とハインが瞳を潤ませるながらこちらを見ていた。
「……ハイン、何の茶番だこれは」
シグルドが半眼になりながらハインを見据える。
「シグルド様、まさかご存知ないんですか?ここ、ベストカップルコンテスト会場ですよ!」
「は?ベストカップル?」
「ええ、ここ中央広場全体がコンテスト会場で、最もギャラリーを集めたカップルが優勝なんです!」
すっと血の気が引いてゆく。人目も気にせず致してしまった事は、全てパフォーマンスと見做されていた、と言うことか……
「もう文句なしにシグルド様、リーティアさんが優勝ですよ!これほどの支持を集めるなんて流石です!」
「こんなに盛り上げて頂き誠に恐縮です。どうか来年もいらして下さい!是非!」
熱く語る中年の紳士は、町長か何かだろう。興奮気味のギャラリーに反して、私とシグルドは、ただ脱力しつつ苦笑するしかなかった。
「母の話、ちゃんと聞いておけば良かったわ」
馬車の中、いつものようにシグルドの膝に乗せられながら、私は深いため息をついた。
「まあ、知らなかったとはいえ、悪い気はしないな」
「……え?」
「見世物にされたのは気に食わないが、誰から見ても俺とティアは似合いだと認められたんだろ?」
「ええ、まあ……」
「悪くないな」
シグルドはニヤリと満足気に笑んだ。私は手持ち無沙汰な指先でシグルドの輪郭をゆっくりとなぞる。
「シグルドはあの祭りの別名を知っていたの?」
「いや、別名なんてあるのか?」
「恋祭り、だそうよ。あの祭りで愛を誓い合った男女は永遠に結ばれる、と母が言っていたわ」
「ああ、なるほど。道理で熱いカップルが多かった訳だな」
「そうね、異様な熱気だったわね……ってまさかシグルド……」
ん?と楽しげに瞳を細めるシグルドの顔を両手で挟んで上向かせる。
「カップル達への対抗心からあんなことを?」
「その気持ちもゼロではないな。だが、俺は君に嘘はつけないんだ。全部本気だし本心だ」
そう、いつだってシグルドの言葉に嘘はない。だから彼の言葉は私の心を深く捕らえるのだ。
「レディ、狂おしいほど貴方を恋うる哀れな男に口付けを……」
言葉に反して何て獰猛な瞳だろう。愉悦を孕んだ瞳には熱い情欲が灯り、正に私を食らわんと舌なめずりする獣のようだ。
私はそんなシグルドの瞳に、蕩けるように笑んだ。
「許しましょう。あなたが望むもの、全て捧げるわ――」
私の唇がシグルドのそれに触れるよりも早く、私はその場に引き倒された。そして降りてくる嵐のような口付け、狂おしげに私の体を弄る掌に、視界は潤み意識は甘く溶かされてゆく。
愛してる――この時夢現で囁いた言葉がシグルドに届いたのか、私には分からなかった。
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