前世魔性の女と呼ばれた私

アマイ

文字の大きさ
上 下
23 / 32

23偶然の出会い②

しおりを挟む
「経緯は分かったけれど……どうして、教えてくれなかったの?」

「使えなければ放り出せ、とハインには言っていたんだ。ユージンが自力で地固め出来るまで、俺から誰にも何も言うつもりはなかった」

怒ってるか?とシグルドが私の頬を優しく撫でる。
シグルドはチャンスを与えただけ。それをものにできるかはあくまでもユージン次第だったのだ。

私は首を横に振る。

「いいえ……シグルド、ありがとう」

微笑むと、シグルドが皮肉気に口の端を吊り上げた。

「この件で君に礼を言われるのは……面白くないな」

「ユージンは私にとって弟みたいなものなの、ずっと」

幼い頃に思いを馳せると、シグルドに抱きすくめられた。

「俺のいない思い出に浸られるのも、やはり面白くないな」

「シグルド……もう、本当に困った人」

私は笑いながらシグルドを抱き締める。

「記憶も思い出もなかった事にはできないけれど……あなたが望むものは――何でもあげるわ」

「ティア……」

シグルドはすっと身を引くと、その場に跪いた。そして私の手を取ると額に押し当てる。

「リーティア・ロジェ。我が身我が愛の永久とこしえを貴方に誓う」

これは……騎士のレディーに対する愛の誓い。シグルドは顔を上げると真っ直ぐに私を射抜いた。その熱を孕んだ強い眼差しに心ごと絡め捕られる。

「……許します」

「ティア……」

ぐっと手を引かれて抱き込まれると同時に、熱い唇に塞がれた。ここが広場の真ん中で、周りには沢山のギャラリーが居ることなど気にもならなかった。

周囲の喧騒も歓声もどこか遠く、私の五感は甘い恍惚に支配される。

「んっ……はぁ……」

喘ぐように空気を求める私を、シグルドは甘く蕩けるような瞳で見詰めていた。

「俺は君のものだ。言葉では足りないくらい愛してる、ティア……」

きっと私もシグルドに負けない位、蕩けきった表情かおをしてる筈だ。

「シグルド……」

 差し伸ばした手を取られて、指と指が互い違いに絡み合う。その手に口付けられた瞬間、耳をつんざくような拍手と歓声が湧き上がった。

「素晴らしい!何て麗しいカップルでしょう!」

呆気にとられて辺りを見回すと、見慣れない中年の紳士とハインが瞳を潤ませるながらこちらを見ていた。

「……ハイン、何の茶番だこれは」

シグルドが半眼になりながらハインを見据える。

「シグルド様、まさかご存知ないんですか?ここ、ベストカップルコンテスト会場ですよ!」

「は?ベストカップル?」

「ええ、ここ中央広場全体がコンテスト会場で、最もギャラリーを集めたカップルが優勝なんです!」

すっと血の気が引いてゆく。人目も気にせず致してしまった事は、全てパフォーマンスと見做されていた、と言うことか……

「もう文句なしにシグルド様、リーティアさんが優勝ですよ!これほどの支持を集めるなんて流石です!」

「こんなに盛り上げて頂き誠に恐縮です。どうか来年もいらして下さい!是非!」

熱く語る中年の紳士は、町長か何かだろう。興奮気味のギャラリーに反して、私とシグルドは、ただ脱力しつつ苦笑するしかなかった。







「母の話、ちゃんと聞いておけば良かったわ」
  
馬車の中、いつものようにシグルドの膝に乗せられながら、私は深いため息をついた。

「まあ、知らなかったとはいえ、悪い気はしないな」

「……え?」

「見世物にされたのは気に食わないが、誰から見ても俺とティアは似合いだと認められたんだろ?」

「ええ、まあ……」

「悪くないな」

シグルドはニヤリと満足気に笑んだ。私は手持ち無沙汰な指先でシグルドの輪郭をゆっくりとなぞる。

「シグルドはあの祭りの別名を知っていたの?」

「いや、別名なんてあるのか?」

「恋祭り、だそうよ。あの祭りで愛を誓い合った男女は永遠に結ばれる、と母が言っていたわ」

「ああ、なるほど。道理で熱いカップルが多かった訳だな」

「そうね、異様な熱気だったわね……ってまさかシグルド……」

ん?と楽しげに瞳を細めるシグルドの顔を両手で挟んで上向かせる。

「カップル達への対抗心からあんなことを?」

「その気持ちもゼロではないな。だが、俺は君に嘘はつけないんだ。全部本気だし本心だ」

そう、いつだってシグルドの言葉に嘘はない。だから彼の言葉は私の心を深く捕らえるのだ。

「レディ、狂おしいほど貴方を恋うる哀れな男に口付けを……」

言葉に反して何て獰猛な瞳だろう。愉悦を孕んだ瞳には熱い情欲が灯り、正に私を食らわんと舌なめずりする獣のようだ。
私はそんなシグルドの瞳に、蕩けるように笑んだ。

「許しましょう。あなたが望むもの、全て捧げるわ――」

私の唇がシグルドのそれに触れるよりも早く、私はその場に引き倒された。そして降りてくる嵐のような口付け、狂おしげに私の体を弄る掌に、視界は潤み意識は甘く溶かされてゆく。

愛してる――この時夢現で囁いた言葉がシグルドに届いたのか、私には分からなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜

高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。 フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。 湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。 夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。

どこかで見たような異世界物語

PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。 飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。 互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。 これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。

【完結】25妹は、私のものを欲しがるので、全部あげます。

華蓮
恋愛
妹は私のものを欲しがる。両親もお姉ちゃんだから我慢しなさいという。 私は、妹思いの良い姉を演じている。

婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~

夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。 「聖女なんてやってられないわよ!」 勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。 そのまま意識を失う。 意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。 そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。 そしてさらには、チート級の力を手に入れる。 目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。 その言葉に、マリアは大歓喜。 (国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!) そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。 外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。 一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。

【完結】復讐の館〜私はあなたを待っています〜

リオール
ホラー
愛しています愛しています 私はあなたを愛しています 恨みます呪います憎みます 私は あなたを 許さない

【R18】彼の精力が凄すぎて、ついていけません!【完結】

茉莉
恋愛
【R18】*続編も投稿しています。 毎日の生活に疲れ果てていたところ、ある日突然異世界に落ちてしまった律。拾ってくれた魔法使いカミルとの、あんなプレイやこんなプレイで、体が持ちません! R18描写が過激なので、ご注意ください。最初に注意書きが書いてあります。

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

処理中です...