10 / 32
10女の戦い
しおりを挟む
「シグルド、今日はミシアを紹介したいの」
さる公爵家の夜会へ向かう馬車の中、私はシグルドの膝の上に乗せられていた。何度抗議しても離してくれないので、最近ではもう諦めていた。
「ティアの学友だったか?」
「ええ、親友なの」
自然と口元が緩んでしまう。シグルドは器用に片眉を吊り上げると、私の顎を捕らえた。
「ティアにそんな顔をさせるなんて……妬けるな」
「バカね、ミシアは女性よ」
私が吹き出すと、シグルドはグロスのたっぷり乗った唇に躊躇うことなく口付けた。私はもう、と呆れながら、淫らに濡れたシグルドの唇をハンカチで拭う。
「……今日は我慢して」
「約束はしない。が、善処はする」
不敵に笑うシグルドに、私は額に額をコツンとぶつけてバカ、と呟いた。
「ティア!」
主催の公爵様へ挨拶を終え、ホールの中央へ歩きかけたところで、誰かに呼ばれた気がした。
「……ミシア!」
振り返るとミシアがにこやかに手を振っていた。私は嬉しさのあまり駆け寄る。
「早々に会えて良かったわ」
「ええミシア」
思わず抱き付きそうになるところを、ぐっと腰を引かれて我に返る。
「紹介するわね、婚約者のシグルドよ。シグルド、こちらが友人のミシア」
「シグルド・ロジーヌです。お会いできて光栄ですミシア嬢」
「ミシア・トゥルーグと申します。ティアからお噂は兼々……お会いできて嬉しいですわ。ティア、こちらも紹介させてね。婚約者のカラムよ」
「カラム・ハウスローと申します。ミシアからよく話を伺ってますよ。お会いできて光栄です」
カラム様はニッコリと微笑んだ。メガネの奥の瞳はとても理知的で、柔和な雰囲気が漂う好青年だ。
「リーティア・ロジェと申します。こちらこそお会いできて光栄ですわ」
ふと見上げると、カラム様の視線はシグルドに向けられていた。シグルドは何やら怪訝な顔をしている。
「お二人は、お知り合いですか?」
「いえ、ロジーヌ先輩は有名人だったので、私が一方的に知っているだけですよ」
カラム様はニッコリと微笑む。
「シグルドが有名人?」
「ええ、剣術で敵う者はおらず、隙あらば勝負を挑むもの、弟子にしてくれと拝み倒すもの……本当にロジーヌ先輩の周りには常に人が絶えませんでした」
「まあ……」
チラリと見遣ると、シグルドは興味もなさそうに明後日の方を向いていた。
「そんなシグルドも、見て見たかったですわ」
私が笑うとシグルドは眉を顰めた。
「カラム・ハウスロー、少し話がしたい」
シグルドが庭園の方を顎でしゃくると、カラム様は頷いてシグルドに従う。そして壁際に控えていた騎士を呼んで、私達を警護するよう指示した。
「というわけでティア、少し席を外す。ミシア嬢、すみませんがカラムを借りますね」
そう言い残すと二人は人混みに紛れて消えた。
「シグルド、どうしたのかしら?」
「さあ、きっと男同士色々あるのでしょう」
「そういうもの、かしらね?」
給仕から飲み物を受け取り、私とミシアは休憩用のソファに腰掛け、談笑していた。
先に気付いたのはミシアだった。急に硬い表情で前方を凝視したので、私はその視線を追う。
「まあ!セレイス様」
「ご機嫌よう、リーティア様」
初めて会った時とは打って変わって、セレイスは優美に微笑んだ。
「今日はユージンは一緒では?」
「知り合いの方に会われて、少し話をされたいようですわ」
セレイスは寂しげに目を伏せた。その頼りない風情に、何やら放っておけないような妙な気分にさせられる。これがユージンを夢中にさせた庇護欲というものだろうか。
私がおかしな感慨に耽っていたのを打ち破ったのはミシアだった。
「ねえセレイス様、そんな作り物の表情は要らないわ。本性見せてくださって構わないのよ?」
不敵に笑うミシアを、セレイスは首を傾げて不思議そうに見ていた。
「何を仰られているのか……」
「ああ、そういうのは男性の前だけでいいわ。今は女だけ、いい機会だし腹を割って話さない?」
扇子で口元を隠しながら、セレイスの表情が変わる。楚々とした可憐な風情は失われ、その瞳にはドス黒い炎が浮かんだ。
ああ、こんな本性を隠していたのか。気付けなかった私は何と迂闊な……
そしてふと感じる既視感。セレイスの憎悪に塗れたこの瞳は――かつての私はこんな瞳をしていなかっただろうか?
私はこの時初めてセレイスに興味が湧いた。今の彼女となら話してみたい、そう思った。
「セレイス様、二人で話がしたいわ」
「謝罪は必要ですか?」
人気のないバルコニーでセレイスと差し向かう。 不敵に笑うセレイスは、どこか楽しげですらあった。
「いいえ、口先だけの言葉に何の意味もないわ」
「その通りですわね」
セレイスは謝意がないことを隠しもしない。
「あなたはあなたなりに制裁を受けているでしょう。社交界は居心地のいいものではない筈」
「そうですわね。でもそんなこと、わたくしにとってはどうでもいいことですわ」
「中々豪胆なのね」
「ユージン様に頑張って頂くより他ありませんもの」
「あなたユージンを愛しては……いないのね」
セレイスは毒々しい笑みを深めた。
「ユージン様に見初められて、端からわたくしに拒否権などあるはずもないわ」
私は黙ってセレイスを見詰めた。セレイスが片眉を吊り上げる。
「まさかわたくしを憐れんでいるの?」
「そんな義理はないわ。ただ、何故そんなに自身を憎んでいるのかと」
セレイスが目を瞠り、鋭く私を見据える。私は黙ってその視線を受け止めた。先に視線を逸らしたのはセレイスだった。
「……これはわたくしの独り言です」
ポツポツと明かりの灯された庭園を見下ろしながら、セレイスは静かに語り出した。
わたくしは伯爵家の一人娘。無能で欲深い両親は、上流貴族が好む女となるよう、幼少の頃からわたくしを徹底的に仕込みました。
可憐で愚かで不安げに。男性の庇護欲をそそる愛らしく従順な女であるようにと。
結果はご覧の通り。外面は完璧に、中身は歪んだわたくしが出来上がりました。
わたくしは生娘ですが、閨の手管は相当仕込まれたのですよ。殿方の身も心も虜にするようにと。実の親のすることとは思えませんわね。
わたくしは両親を憎んでいますが、他の生き方を知りません。それ故彼らの傀儡であるしかないわたくし自身が何より憎いのよ――
ぎりりと噛みしめるセレイスの唇からは血が滲んでいた。私がハンカチで血を拭うと、セレイスはそのハンカチを握りしめた。
「願えば叶う……あなたのご両親の執念は凄いわね、おめでとう」
私が微笑むと、セレイスは唇を吊り上げた。
「リーティア、あなたが嫌いだわ」
「気が合うわね、私もよセレイス」
私達は不敵に微笑み合った。
私は元婚約者に捨てられた「哀れな令嬢」だ。表向きは同情されつつも、陰では様々な侮辱を受けたことだろう。
そういった暗部に直接触れずに済んだのはシグルドのお陰だ。
彼が私を守り、目に見える溺愛を示すことによって、蔑みは嫉妬に変わった。哀れな令嬢から、有望な男へ鞍替えする強かな淫婦、といったところか。
何にせよ私は被害者の立場なのでまだいい。加害者であるユージンに向けられる目は当然優しいものではない。
ロジーヌ家は私への償いとして、多額の慰謝料とユージンの爵位継承権、相続権の一切を放棄させた。
実質公爵家の後ろ盾を失ったユージンを、まともな男性達が相手にするはずもない。特に女性からの風当たりは相当強いだろう。ユージンが失ったものの大きさは計り知れない。
セレイスの両親が真実欲深いならば、今後婚約破棄も有り得る。何にせよ彼は次期伯爵として、これから命がけで名誉と信頼とを取り戻さねばならないのだ。このセレイスと共に――
「結婚までその本性が知られないよう祈っているわ」
「見抜けなかった間抜けなあなたに言われたくないですわ」
私はふっと頬を緩めると、踵を返して歩き出した。同情なんてするつもりは欠片もない。けれど、嫌いだと言いながら胸の裡を曝け出したセレイス。ああ……全く自分でもうんざりする。
「……あなたのこと、嫌いじゃないわ」
セレイスに届かないことを知りながら、私はポツリと呟いた。
一方人気のない庭園の片隅にて――
「学園時代のこと、ティアの前では一切触れるな」
「構いませんが……その頃のあなたをリーティア嬢は全く知らないのですか?」
「……ああ」
「まあ……あの頃に比べて今は大分丸くなられましたね」
「かもな」
「あの頃のお前は正に狂犬だったもんなぁ」
突然の招かれざる客に、シグルドとカラムは同時に振り返る。
「ルクス……なんでお前がここに」
「なんか面白そうだったから見に来たんだ」
「お前……ティアに余計なこと言うなよ」
「狂犬が歩いた後には雑草も生えない、と言われたあの頃のことか?」
「ルクス」
ロジーヌ先輩の笑顔が怖い、とカラムは青褪める。
「黙っててやってもいいけど……そうだな、夜会で会う度リーティアとダンスを踊る権利をくれるなら」
「お前は……いい加減さっさと嫁貰え!」
「ふ……それでどうなの?許してくれるの?」
「くっ……ティアが許可した時に限りだ!くそっ!」
リーティアがユージンと婚約した直後、シグルドは荒れた。学園で狂犬と呼ばれるほどに。そんな彼の強さに惹かれて多くの男達が勝手に集い、むさ苦しい一大派閥を作り上げた。
シグルドはそんな黒歴史をリーティアに知られたくはなかった。シグルドのおよそ彼に似つかわしくない、繊細な男心だった。
渋面するシグルドを、ルクスは何やら含む笑顔で楽しげに見詰めていた。
さる公爵家の夜会へ向かう馬車の中、私はシグルドの膝の上に乗せられていた。何度抗議しても離してくれないので、最近ではもう諦めていた。
「ティアの学友だったか?」
「ええ、親友なの」
自然と口元が緩んでしまう。シグルドは器用に片眉を吊り上げると、私の顎を捕らえた。
「ティアにそんな顔をさせるなんて……妬けるな」
「バカね、ミシアは女性よ」
私が吹き出すと、シグルドはグロスのたっぷり乗った唇に躊躇うことなく口付けた。私はもう、と呆れながら、淫らに濡れたシグルドの唇をハンカチで拭う。
「……今日は我慢して」
「約束はしない。が、善処はする」
不敵に笑うシグルドに、私は額に額をコツンとぶつけてバカ、と呟いた。
「ティア!」
主催の公爵様へ挨拶を終え、ホールの中央へ歩きかけたところで、誰かに呼ばれた気がした。
「……ミシア!」
振り返るとミシアがにこやかに手を振っていた。私は嬉しさのあまり駆け寄る。
「早々に会えて良かったわ」
「ええミシア」
思わず抱き付きそうになるところを、ぐっと腰を引かれて我に返る。
「紹介するわね、婚約者のシグルドよ。シグルド、こちらが友人のミシア」
「シグルド・ロジーヌです。お会いできて光栄ですミシア嬢」
「ミシア・トゥルーグと申します。ティアからお噂は兼々……お会いできて嬉しいですわ。ティア、こちらも紹介させてね。婚約者のカラムよ」
「カラム・ハウスローと申します。ミシアからよく話を伺ってますよ。お会いできて光栄です」
カラム様はニッコリと微笑んだ。メガネの奥の瞳はとても理知的で、柔和な雰囲気が漂う好青年だ。
「リーティア・ロジェと申します。こちらこそお会いできて光栄ですわ」
ふと見上げると、カラム様の視線はシグルドに向けられていた。シグルドは何やら怪訝な顔をしている。
「お二人は、お知り合いですか?」
「いえ、ロジーヌ先輩は有名人だったので、私が一方的に知っているだけですよ」
カラム様はニッコリと微笑む。
「シグルドが有名人?」
「ええ、剣術で敵う者はおらず、隙あらば勝負を挑むもの、弟子にしてくれと拝み倒すもの……本当にロジーヌ先輩の周りには常に人が絶えませんでした」
「まあ……」
チラリと見遣ると、シグルドは興味もなさそうに明後日の方を向いていた。
「そんなシグルドも、見て見たかったですわ」
私が笑うとシグルドは眉を顰めた。
「カラム・ハウスロー、少し話がしたい」
シグルドが庭園の方を顎でしゃくると、カラム様は頷いてシグルドに従う。そして壁際に控えていた騎士を呼んで、私達を警護するよう指示した。
「というわけでティア、少し席を外す。ミシア嬢、すみませんがカラムを借りますね」
そう言い残すと二人は人混みに紛れて消えた。
「シグルド、どうしたのかしら?」
「さあ、きっと男同士色々あるのでしょう」
「そういうもの、かしらね?」
給仕から飲み物を受け取り、私とミシアは休憩用のソファに腰掛け、談笑していた。
先に気付いたのはミシアだった。急に硬い表情で前方を凝視したので、私はその視線を追う。
「まあ!セレイス様」
「ご機嫌よう、リーティア様」
初めて会った時とは打って変わって、セレイスは優美に微笑んだ。
「今日はユージンは一緒では?」
「知り合いの方に会われて、少し話をされたいようですわ」
セレイスは寂しげに目を伏せた。その頼りない風情に、何やら放っておけないような妙な気分にさせられる。これがユージンを夢中にさせた庇護欲というものだろうか。
私がおかしな感慨に耽っていたのを打ち破ったのはミシアだった。
「ねえセレイス様、そんな作り物の表情は要らないわ。本性見せてくださって構わないのよ?」
不敵に笑うミシアを、セレイスは首を傾げて不思議そうに見ていた。
「何を仰られているのか……」
「ああ、そういうのは男性の前だけでいいわ。今は女だけ、いい機会だし腹を割って話さない?」
扇子で口元を隠しながら、セレイスの表情が変わる。楚々とした可憐な風情は失われ、その瞳にはドス黒い炎が浮かんだ。
ああ、こんな本性を隠していたのか。気付けなかった私は何と迂闊な……
そしてふと感じる既視感。セレイスの憎悪に塗れたこの瞳は――かつての私はこんな瞳をしていなかっただろうか?
私はこの時初めてセレイスに興味が湧いた。今の彼女となら話してみたい、そう思った。
「セレイス様、二人で話がしたいわ」
「謝罪は必要ですか?」
人気のないバルコニーでセレイスと差し向かう。 不敵に笑うセレイスは、どこか楽しげですらあった。
「いいえ、口先だけの言葉に何の意味もないわ」
「その通りですわね」
セレイスは謝意がないことを隠しもしない。
「あなたはあなたなりに制裁を受けているでしょう。社交界は居心地のいいものではない筈」
「そうですわね。でもそんなこと、わたくしにとってはどうでもいいことですわ」
「中々豪胆なのね」
「ユージン様に頑張って頂くより他ありませんもの」
「あなたユージンを愛しては……いないのね」
セレイスは毒々しい笑みを深めた。
「ユージン様に見初められて、端からわたくしに拒否権などあるはずもないわ」
私は黙ってセレイスを見詰めた。セレイスが片眉を吊り上げる。
「まさかわたくしを憐れんでいるの?」
「そんな義理はないわ。ただ、何故そんなに自身を憎んでいるのかと」
セレイスが目を瞠り、鋭く私を見据える。私は黙ってその視線を受け止めた。先に視線を逸らしたのはセレイスだった。
「……これはわたくしの独り言です」
ポツポツと明かりの灯された庭園を見下ろしながら、セレイスは静かに語り出した。
わたくしは伯爵家の一人娘。無能で欲深い両親は、上流貴族が好む女となるよう、幼少の頃からわたくしを徹底的に仕込みました。
可憐で愚かで不安げに。男性の庇護欲をそそる愛らしく従順な女であるようにと。
結果はご覧の通り。外面は完璧に、中身は歪んだわたくしが出来上がりました。
わたくしは生娘ですが、閨の手管は相当仕込まれたのですよ。殿方の身も心も虜にするようにと。実の親のすることとは思えませんわね。
わたくしは両親を憎んでいますが、他の生き方を知りません。それ故彼らの傀儡であるしかないわたくし自身が何より憎いのよ――
ぎりりと噛みしめるセレイスの唇からは血が滲んでいた。私がハンカチで血を拭うと、セレイスはそのハンカチを握りしめた。
「願えば叶う……あなたのご両親の執念は凄いわね、おめでとう」
私が微笑むと、セレイスは唇を吊り上げた。
「リーティア、あなたが嫌いだわ」
「気が合うわね、私もよセレイス」
私達は不敵に微笑み合った。
私は元婚約者に捨てられた「哀れな令嬢」だ。表向きは同情されつつも、陰では様々な侮辱を受けたことだろう。
そういった暗部に直接触れずに済んだのはシグルドのお陰だ。
彼が私を守り、目に見える溺愛を示すことによって、蔑みは嫉妬に変わった。哀れな令嬢から、有望な男へ鞍替えする強かな淫婦、といったところか。
何にせよ私は被害者の立場なのでまだいい。加害者であるユージンに向けられる目は当然優しいものではない。
ロジーヌ家は私への償いとして、多額の慰謝料とユージンの爵位継承権、相続権の一切を放棄させた。
実質公爵家の後ろ盾を失ったユージンを、まともな男性達が相手にするはずもない。特に女性からの風当たりは相当強いだろう。ユージンが失ったものの大きさは計り知れない。
セレイスの両親が真実欲深いならば、今後婚約破棄も有り得る。何にせよ彼は次期伯爵として、これから命がけで名誉と信頼とを取り戻さねばならないのだ。このセレイスと共に――
「結婚までその本性が知られないよう祈っているわ」
「見抜けなかった間抜けなあなたに言われたくないですわ」
私はふっと頬を緩めると、踵を返して歩き出した。同情なんてするつもりは欠片もない。けれど、嫌いだと言いながら胸の裡を曝け出したセレイス。ああ……全く自分でもうんざりする。
「……あなたのこと、嫌いじゃないわ」
セレイスに届かないことを知りながら、私はポツリと呟いた。
一方人気のない庭園の片隅にて――
「学園時代のこと、ティアの前では一切触れるな」
「構いませんが……その頃のあなたをリーティア嬢は全く知らないのですか?」
「……ああ」
「まあ……あの頃に比べて今は大分丸くなられましたね」
「かもな」
「あの頃のお前は正に狂犬だったもんなぁ」
突然の招かれざる客に、シグルドとカラムは同時に振り返る。
「ルクス……なんでお前がここに」
「なんか面白そうだったから見に来たんだ」
「お前……ティアに余計なこと言うなよ」
「狂犬が歩いた後には雑草も生えない、と言われたあの頃のことか?」
「ルクス」
ロジーヌ先輩の笑顔が怖い、とカラムは青褪める。
「黙っててやってもいいけど……そうだな、夜会で会う度リーティアとダンスを踊る権利をくれるなら」
「お前は……いい加減さっさと嫁貰え!」
「ふ……それでどうなの?許してくれるの?」
「くっ……ティアが許可した時に限りだ!くそっ!」
リーティアがユージンと婚約した直後、シグルドは荒れた。学園で狂犬と呼ばれるほどに。そんな彼の強さに惹かれて多くの男達が勝手に集い、むさ苦しい一大派閥を作り上げた。
シグルドはそんな黒歴史をリーティアに知られたくはなかった。シグルドのおよそ彼に似つかわしくない、繊細な男心だった。
渋面するシグルドを、ルクスは何やら含む笑顔で楽しげに見詰めていた。
3
お気に入りに追加
1,145
あなたにおすすめの小説
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
【完結】愛されなかった私が幸せになるまで 〜旦那様には大切な幼馴染がいる〜
高瀬船
恋愛
2年前に婚約し、婚姻式を終えた夜。
フィファナはドキドキと逸る鼓動を落ち着かせるため、夫婦の寝室で夫を待っていた。
湯上りで温まった体が夜の冷たい空気に冷えて来た頃やってきた夫、ヨードはベッドにぽつりと所在なさげに座り、待っていたフィファナを嫌悪感の籠った瞳で一瞥し呆れたように「まだ起きていたのか」と吐き捨てた。
夫婦になるつもりはないと冷たく告げて寝室を去っていくヨードの後ろ姿を見ながら、フィファナは悲しげに唇を噛み締めたのだった。
どこかで見たような異世界物語
PIAS
ファンタジー
現代日本で暮らす特に共通点を持たない者達が、突如として異世界「ティルリンティ」へと飛ばされてしまう。
飛ばされた先はダンジョン内と思しき部屋の一室。
互いの思惑も分からぬまま協力体制を取ることになった彼らは、一先ずダンジョンからの脱出を目指す。
これは、右も左も分からない異世界に飛ばされ「異邦人」となってしまった彼らの織り成す物語。
婚約破棄された上に国外追放された聖女はチート級冒険者として生きていきます~私を追放した王国が大変なことになっている?へぇ、そうですか~
夏芽空
ファンタジー
無茶な仕事量を押し付けられる日々に、聖女マリアはすっかり嫌気が指していた。
「聖女なんてやってられないわよ!」
勢いで聖女の杖を叩きつけるが、跳ね返ってきた杖の先端がマリアの顎にクリーンヒット。
そのまま意識を失う。
意識を失ったマリアは、暗闇の中で前世の記憶を思い出した。
そのことがきっかけで、マリアは強い相手との戦いを望むようになる。
そしてさらには、チート級の力を手に入れる。
目を覚ましたマリアは、婚約者である第一王子から婚約破棄&国外追放を命じられた。
その言葉に、マリアは大歓喜。
(国外追放されれば、聖女という辛いだけの役目から解放されるわ!)
そんな訳で、大はしゃぎで国を出ていくのだった。
外の世界で冒険者という存在を知ったマリアは、『強い相手と戦いたい』という前世の自分の願いを叶えるべく自らも冒険者となり、チート級の力を使って、順調にのし上がっていく。
一方、マリアを追放した王国は、その軽率な行いのせいで異常事態が発生していた……。
【R18】彼の精力が凄すぎて、ついていけません!【完結】
茉莉
恋愛
【R18】*続編も投稿しています。
毎日の生活に疲れ果てていたところ、ある日突然異世界に落ちてしまった律。拾ってくれた魔法使いカミルとの、あんなプレイやこんなプレイで、体が持ちません!
R18描写が過激なので、ご注意ください。最初に注意書きが書いてあります。
よくある婚約破棄なので
おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。
その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。
言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。
「よくある婚約破棄なので」
・すれ違う二人をめぐる短い話
・前編は各自の証言になります
・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド
・全25話完結
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる