皇后陛下の御心のままに

アマイ

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 そう決意はしたものの、接触しないことには話がはじまらない。
 さて、どのタイミングで彼と接触しようかと私は考えた。
 そこで思い当たったのは、丁度一月後宮殿で開かれる年に一度の仮面舞踏会だった。
 主だった貴族がこぞって参加する大規模なパーティーなので、私はその日アルセンと接触することに決めた。
 仮面越しであれば少しは緊張が和らぐ気がするし、色んな意味で開放的な場なので、今の私には最も相応しいように感じられたからだ。
 ただ、私には恋愛経験が圧倒的に足りなかった。
 他人の駆け引きを多く見聞きしてはきたものの、このままでは魔王に素手で挑む村人に等しい。
 あれこれ考えあぐねた末、私は恋に奔放な同僚のリナに助言を求めるべく、彼女の部屋を訪れた。

「あら、レイが恋愛ごとに興味を持つなんて珍しいわね」

 リナは猫のように目を細め、ふふっと嬉しそうに笑った。

「まあ色々と事情が、ね」
「ふうん……まあ敢えて聞かないでいてあげるけど、成功したら良い男紹介してよね」

 パチっとウィンクをされドキッとする。
 リナには同性から見ても胸がざわつくようなねっとりとした色気がある。
 こんな女性に誘われたら、男性などイチコロに違いない。さすがは恋愛のプロだ。
 そこでふと頭の片隅で疑念が生じる。
 皇后陛下はアルセンの件を何故リナに命じなかったのだろうかと。
 彼女であればアルセンといえど互角に渡り合えるはずだ。
 敢えて恋愛経験に乏しい私に命じられたのはどうしてなのか……
 いや、聡明な皇后陛下のことだ、きっと何かお考えがあってのことに違いない。
 そう無理矢理結論づけて、私はリナに向かって大きく頷いた。

「分かった。それで先生、恋愛初心者の私にもできそうな男性の誘惑方法は?」
「そんなの、ベッドに誘って裸になっちゃえば男なんて――」
「そ、それはかなり上級者向けでしょ!」
「んー必ず落とせる、なんて必勝法は正直ないのよね。言葉を重ねて距離を詰めて、相手が求めていることを察して応えてあげる。それだけでも好印象は持ってもらえるはずよ」

 なるほど、それなら私にも出来そうだ。
 常に皇后陛下のお側に控えているのだ、普段から対象の意を汲んで応えることには慣れている。

「あとはそうね、お酒の勢いを借りるのもいいかもしれないわ」
「お酒か……緊張が解れていいかもしれないわね」
「そうそう、それでベッドにもつれ込めばあとは相手に任せて――」
「凄く勉強になったわ! ありがとうリナ」
「え、ちょっとレイ、本番はこれからなのにぃ」

 聞くべきことは聞けたと無理矢理話を終わらせて、私は慌ただしくリナの部屋を後にしたのだった。


 そうして仮面舞踏会までの一ヶ月の間、私は様々な女性達の恋愛話に耳を傾け、肌も念入りに手入れし、自分なりにできる努力を重ねた。
 皇后陛下には参加の許可も得られたうえ、畏れ多くもドレスや宝飾品まで用意してくださった。
 これほど期待されているのだから何としてもお応えしなければ――私は自分磨きにさらに力を入れた。
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