上 下
10 / 25

第十話 時空警察への通報手段は周知されていない

しおりを挟む

「部活、終わったのか? 美咲は?」

「うん、バイト。ちゃんと送り届けた。六時に迎えに行く」


 昼メシがまだだという克哉と、寂れた商店街を物色しながら歩く。『えー、俺、ラーメンか焼肉がいい』という空腹モンスターを説得して、うどん屋の暖簾をくぐった。朝抜きの昼メシで、克哉の好むような背脂ラーメンはキツイ。そろそろ胃腸に優しくしてあげたいお年頃なのだ。

「ちゃんと仲直りしたか?」

「うん。……だけど、俺が束縛してるみたいでヤダ。焼きもちとか格好悪いし」

 なるほど……思春期は難しいな。なんつーか、もうほんと、照れ臭いほどにアオハルだ。

「格好悪いくらい好きなの、すげぇ格好いいと思うけどな」

「なんだソレ。全然意味わかんねぇって……」

『好きな方が負け』みたいな気持ち、俺にも覚えがある。いつ頃、気にならなくなったんだろう? 恋愛なんてどうやったって格好悪いもんだ。

「なぁ、姉ちゃんからアルバム受け取ったんだろう? 見せて。どんなヤツ?」

 克哉が大盛りの蕎麦を、吸い込む合間に聞いてくる。自分とDNAが同じだと思うと、見てるだけで満腹中枢が刺激されるな。

「ちょっと保留な。俺だけで一回接触してみる。平和的に解決出来るかも知れないし」

「なんで? 俺だって当事者だろう?」

 箸を止めて不服そうな視線を寄越す。

「前に克哉が言ってた、バイク壊しちゃおうかってーの。本当にそういうことになるかも知れないだろう? そしたら克哉は関わらない方がいい。俺なら、いないはずの人間だからさ」

「いないはずとか言うなよ。イチさんはここにいるよ」

 まず、そこに反応するのか。そしてそれを素直に口にする。俺が言うのもなんだけど、いい子だなぁ。このまま育って欲しい。

 嬉し恥ずかしの衝動から、ついまた頭をポンポンと撫でたら、心の底から嫌そうな顔で振り払われた。子供扱いされるのは我慢ならないらしい。

「それに、俺がやらなきゃダメだと思うんだ。この時間軸の『今の俺』が。イチさんに任せっぱなしになんて出来ないよ」

 上手く説明出来ねぇやと、顔をしかめる。

 歳の離れた双子の弟を見ているような気持ちになってくるな。自分だという意識がだんだん遠くなって、家族に対する愛着や親愛に近くなってきている。比護欲みたいなものすら湧いてきた。

「わかった。教えるけど、一人で接触するのはナシだぞ。姉貴にも美咲にも絶対に内緒だ。二人で、なるべく穏便に解決しよう」

「うん。その方がいい」

 克哉の顔がようやく緩む。そして思い出したように、また蕎麦を吸い込みはじめた。

「良く噛んで食えよ。急がなくて大丈夫だ。まだあと今日と明日の二日ある」


 けっきょく克哉は、大盛りで足りなくて追加で盛りそば二枚おかわりをした。育ち盛りの胃、半端ねぇのな。



     * * * *



 色々相談するために、場所を変える。連泊の手続きを済ませてはあるが、ホテルに戻る気にはならない。元々俺は少し閉所恐怖症のがあるのだ。狭い閉鎖空間は息が詰まる。

 とはいえ、夏真っ盛りの正午過ぎに、好んで野外を歩くほど酔狂じゃない。克哉が『かき氷が食いたい』というので甘味屋へ入った。まだ食うのかよ……。

 昔ながらの甘味屋は、平日なので人気がなく内緒の相談ごとには好都合だ。この甘味屋、子供の頃婆ちゃんとよく来たんだよな。気づいたら、いつの間にかなくなっていた。懐かしい。

「卒アル、見して」

 席に座るとメニューを見るより先に、克哉が催促してくる。注文する間くらい『待て』して欲しい。

 卒業アルバムを紙袋から取り出しながら、もう後悔が心に湧いてくる。例えば歴史の強制力みたいなものが働いて、けっきょくは美咲が死ぬ未来を変えられない可能性もあるのだ。その場合、克哉は俺より深い傷を負うだろう。

 いや……。俺は美咲が死んだ先の未来から来たことを伝えてしまった。もうすでに、俺は克哉を巻き込んでしまったのだ。だったら出来るだけのことをした方がいい。

「ほら、三年二組。『蓮水達彦はすみたつひこ』だ」

 テーブル越しにアルバムを渡すと、食い入るように見つめて『普通の中学生だな』と俺と同じ感想を口にした。

「七年前だからな。それに、別に凶悪犯人なわけじゃない。交通事故だ」

「でも、酔っ払い運転だったんだろう? 悪いヤツだ!」

 まあ、確かにそうなんだけど。

「何か、事情があったかも知れないだろ? それを今から調べに行こう」

 俺の言葉を聞いた克哉は、大きく頷いてから、猛烈な勢いでかき氷を口に掻き込みはじめた。

 そしてお約束のようにキーンと来たらしく、こめかみを押さえて苦しんでいる。全く以って面白い生き物だ。……俺だけど。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

ガルダ戦記、欲しい世界は俺が作る!

夏カボチャ
ファンタジー
主人公のガルダはある日、弧ギツネのパパに成ることを決意した、一緒に暮らすなかで互いの成長と出会いだが、ガルダ達は新たな戦いの渦に巻き込まれていく。 ガルダは戦いの中にある結論を出すのであった、欲しいものは自分の力で掴み取ると。 ガルダと仲間達を待ち受ける運命が動き出す。 よろしければ見てやってください(〃^ー^〃)

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

兎獣人《ラビリアン》は高く跳ぶ❗️ 〜最弱と謳われた獣人族の娘が、闘技会《グラディア》の頂点へと上り詰めるまでの物語〜

来我 春天(らいが しゅんてん)
ファンタジー
🌸可愛い獣人娘🐇のアクション感動長編❗️ 🌸総文字数20万字超を執筆済み❗️ 🌸ハッピーエンドの完結保証❗️ 🌸毎日0時、完結まで毎日更新❗️ これは、獣人族で最も弱いと言われる兎獣人の娘が 彼女の訓練士と共に、闘技会《グラディア》の頂点に立つまでの物語。 若き訓練士(トレーナー)のアレンは、兎獣人(ラビリアン)のピノラと共に 古都サンティカの闘技場で開催される闘技会《グラディア》に出場していた。 だが2年もの間、一度として勝利できずにいた彼らはある日の夜 3年目の躍進を誓い合い、強くなるための方法を探し始める。 20年前、最強と言われた兎獣人の訓練士をしていたシュトルと言う人物を訪ね 新たなトレーニングと、装備する武具について助言を得るために交渉する。 アレンはシュトルとの約束を果たすべく日々の労働に励み、 ピノラはアレンとの再会を胸にシュトルの元で訓練の日々を過ごした。 そしてついに、新たな力を得たピノラとアレンは 灼熱の闘技会《グラディア》の舞台へと立つ。 小柄で可憐な兎獣人ピノラは、並居る屈強な獣人族の選手たちを次々と倒し その姿を見た人々を驚愕の渦へと巻きこんで行く❗️ 躍動感ある緻密なアクション描写あり❗️ 相思相愛の濃密な恋愛描写あり❗️ チート・転生なしの純粋ハイファンタジー❗️ 可愛らしい兎獣人の少女が最高の笑顔を手に入れるまでの物語を ぜひご覧くださいませ❗️ ※1 本作は小説家になろう様、カクヨム様、アルファポリス様、ノベルアップ+様にて同時掲載しています。 ※2 本作は各種コンテストへの応募および結果により、予告なく公開を停止する場合がございます。 ※3 本作の作中およびPR等で使用する画像等はすべてフリー素材を使用しております。 作中音楽:魔王魂、DOVA-SYNDROME

裏切りの先にあるもの

マツユキ
恋愛
侯爵令嬢のセシルには幼い頃に王家が決めた婚約者がいた。 結婚式の日取りも決まり数か月後の挙式を楽しみにしていたセシル。ある日姉の部屋を訪ねると婚約者であるはずの人が姉と口づけをかわしている所に遭遇する。傷つくセシルだったが新たな出会いがセシルを幸せへと導いていく。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

普通の女子高生だと思っていたら、魔王の孫娘でした

桜井吏南
ファンタジー
 え、冴えないお父さんが異世界の英雄だったの?  私、村瀬 星歌。娘思いで優しいお父さんと二人暮らし。 お父さんのことがが大好きだけどファザコンだと思われたくないから、ほどよい距離を保っている元気いっぱいのどこにでもいるごく普通の高校一年生。  仲良しの双子の幼馴染みに育ての親でもある担任教師。平凡でも楽しい毎日が当たり前のように続くとばかり思っていたのに、ある日蛙男に襲われてしまい危機一髪の所で頼りないお父さんに助けられる。  そして明かされたお父さんの秘密。  え、お父さんが異世界を救った英雄で、今は亡きお母さんが魔王の娘なの?  だから魔王の孫娘である私を魔王復活の器にするため、異世界から魔族が私の命を狙いにやって来た。    私のヒーローは傷だらけのお父さんともう一人の英雄でチートの担任。  心の支えになってくれたのは幼馴染みの双子だった。 そして私の秘められし力とは?    始まりの章は、現代ファンタジー  聖女となって冤罪をはらしますは、異世界ファンタジー  完結まで毎日更新中。  表紙はきりりん様にスキマで取引させてもらいました。

処理中です...