9 / 39
第八話 海とヤーパルマ 其ノ二
しおりを挟む
前回のお話
すっかり仲良くなった教会の子供たちと、元気に海に遊びに行くハルとハナ。今日は子供たちのお気に入りの入り江に、ヤーパルマが遊びに来ているらしい。
ヤーパルマは甲羅のある海洋生物で、とても頭が良く穏やかな生き物だ。機嫌が良いと、子供を背中の甲羅に乗せて泳いでくれる。
ところが、バスケットにランチを詰めて、入り江を訪れたヒロトを待っていたのは『ハルとラランが戻って来ない』と、涙目で告げるハナとナユだった。
▽△▽
「ナユ、教えて。いない、気づいてどれくらい? 時間」
「う、うん。あたし、ハナとあっちでルジュ(青い巻貝の貝がら)拾ってて、あれ? って思ったの。ついさっきだよ。でも、もっと前からいなかったのかも」
おじさん、ごめんなさい。
ナユが泣きそうな顔で言った。一番年上のこの子は、自分が責任者だと自覚しているのだろう。
「遠くに行かない、おじさんと約束した。約束破ったのは二人。ナユは悪くないよ」
内心の焦りを抑え込み、ナユの背中をポンポンと叩く。
「ナユはここで待っていて」
ハナとナユに、絶対に海に入らないよう言い含めてから、海に向かって走る。俺が今、海へ飛び込んだとしても、片腕では満足に水を掻くことすら出来ないかも知れない。
それでも――。この場でじっとして待つなんて、出来る筈がない。
走り出してすぐに、あくびが俺の襟首に噛みついた。ふわりと身体が宙に舞い、次の瞬間にはあくびの背中にドスンと着地していた。尾てい骨をしたたかに打って、目から火花が散る。
あくびはそのまま、ジャブジャブと海に入って行った。
ああ、もう……。なんでそこまでわかってくれるんだよ。時々おまえがトカゲなの、忘れそうになる。
そうだな、相棒。俺がおまえの右眼の分まで見る。おまえは俺の左腕の分まで泳いでくれ!
絶対見つけよう!!
手綱を腰に固定して、首にしがみつく。グッと前傾姿勢をとったあくびが、海中へと潜ってゆく。タイミングを合わせて息を止めたつもりだったが、ガボガボと鼻と口に盛大に海水が入る。
首を叩き、一旦浮上してもらう。しこたま咳き込んだが、急いで息を整える。二人が沈んでいるとしたら、時間との勝負だ。
あくびが振り返る。
大丈夫だ! 次は上手くやる!
目を瞠るほど透明度の高い海だ。海底まではっきりと見通せる。鮮やかな青色の小魚の群れ、海底のサンゴ礁。
ハルは浅葱色のシャツを着ていたはずだ。ラランは確か紫の半ズボン。海中で目を凝らす。あくびに旋回するように泳いでもらって、色を頼りに二人を探す。
見つからない。何度も潜り、ゴーグル(注1)のツマミを捻る。岩場を回り込み、海岸線や水平線にも目を凝らす。
クッソーーッッ!! 見つからない!
焦燥感で頭が沸騰しそうだ!
その時、水平線でキラリと何かが光った。太陽の光を反射する、何かがある!
「あくび! あっちだ!!」
首を叩いて方向を示す。
二人とも、無事でいてくれよ!!
▽△▽
「あ、お父さんだ! おとーさ~ん!! こっちこっち!」
一気に力も気も抜ける。ハルもラランも無事だ。ヤーパルマに乗って、元気に手を振っている。
おまえらーーーっ!! そこ! 正座!! ヤーパルマに乗ってる? 甲羅の上に正座!
二人の頭にゲンコツを落とす。
「心配かけて! 沖へ出ちゃダメって約束しただろう? 水の事故がどんなに危険か分かってるのか!!」
日本語でハルを叱って、次はラランの番だ!
「ラランが泳ぎ上手、知ってる。でも子供だけで沖出ない。約束! ヤーパルマがいても、ダメ!」
うーん。カタコトだと、どうしても迫力に欠けるな。あとでルルとカミューに、ちゃんと叱ってもらわないと。
「「カーニャ・ラザーナ」」
二人が同じように首をすくめて、同時に言った。
「おじさん、でも、あれ見てよ!」
ラランが涙目で、頭をさすりながら言った。
外海と入り江の境目に、真っ白い砂浜が広がっている。干潮の時だけ現れる的なサンゴ礁の島だろうか? ヤーパルマが数頭、呑気そうに甲羅干ししている。
その向こうには、ギラギラと太陽の光を反射している、大きな金属の塊がある。どう見ても人工物だ。しかも――。明らかにパスティア・ラカーナ産ではない。
あれ、もしかして『空飛ぶ船』なのか?
注1 )ヒロトとハルのゴーグルは、大岩の爺さんが作ってくれた特別製です。ツマミで調節の効く、望遠機能付き。
すっかり仲良くなった教会の子供たちと、元気に海に遊びに行くハルとハナ。今日は子供たちのお気に入りの入り江に、ヤーパルマが遊びに来ているらしい。
ヤーパルマは甲羅のある海洋生物で、とても頭が良く穏やかな生き物だ。機嫌が良いと、子供を背中の甲羅に乗せて泳いでくれる。
ところが、バスケットにランチを詰めて、入り江を訪れたヒロトを待っていたのは『ハルとラランが戻って来ない』と、涙目で告げるハナとナユだった。
▽△▽
「ナユ、教えて。いない、気づいてどれくらい? 時間」
「う、うん。あたし、ハナとあっちでルジュ(青い巻貝の貝がら)拾ってて、あれ? って思ったの。ついさっきだよ。でも、もっと前からいなかったのかも」
おじさん、ごめんなさい。
ナユが泣きそうな顔で言った。一番年上のこの子は、自分が責任者だと自覚しているのだろう。
「遠くに行かない、おじさんと約束した。約束破ったのは二人。ナユは悪くないよ」
内心の焦りを抑え込み、ナユの背中をポンポンと叩く。
「ナユはここで待っていて」
ハナとナユに、絶対に海に入らないよう言い含めてから、海に向かって走る。俺が今、海へ飛び込んだとしても、片腕では満足に水を掻くことすら出来ないかも知れない。
それでも――。この場でじっとして待つなんて、出来る筈がない。
走り出してすぐに、あくびが俺の襟首に噛みついた。ふわりと身体が宙に舞い、次の瞬間にはあくびの背中にドスンと着地していた。尾てい骨をしたたかに打って、目から火花が散る。
あくびはそのまま、ジャブジャブと海に入って行った。
ああ、もう……。なんでそこまでわかってくれるんだよ。時々おまえがトカゲなの、忘れそうになる。
そうだな、相棒。俺がおまえの右眼の分まで見る。おまえは俺の左腕の分まで泳いでくれ!
絶対見つけよう!!
手綱を腰に固定して、首にしがみつく。グッと前傾姿勢をとったあくびが、海中へと潜ってゆく。タイミングを合わせて息を止めたつもりだったが、ガボガボと鼻と口に盛大に海水が入る。
首を叩き、一旦浮上してもらう。しこたま咳き込んだが、急いで息を整える。二人が沈んでいるとしたら、時間との勝負だ。
あくびが振り返る。
大丈夫だ! 次は上手くやる!
目を瞠るほど透明度の高い海だ。海底まではっきりと見通せる。鮮やかな青色の小魚の群れ、海底のサンゴ礁。
ハルは浅葱色のシャツを着ていたはずだ。ラランは確か紫の半ズボン。海中で目を凝らす。あくびに旋回するように泳いでもらって、色を頼りに二人を探す。
見つからない。何度も潜り、ゴーグル(注1)のツマミを捻る。岩場を回り込み、海岸線や水平線にも目を凝らす。
クッソーーッッ!! 見つからない!
焦燥感で頭が沸騰しそうだ!
その時、水平線でキラリと何かが光った。太陽の光を反射する、何かがある!
「あくび! あっちだ!!」
首を叩いて方向を示す。
二人とも、無事でいてくれよ!!
▽△▽
「あ、お父さんだ! おとーさ~ん!! こっちこっち!」
一気に力も気も抜ける。ハルもラランも無事だ。ヤーパルマに乗って、元気に手を振っている。
おまえらーーーっ!! そこ! 正座!! ヤーパルマに乗ってる? 甲羅の上に正座!
二人の頭にゲンコツを落とす。
「心配かけて! 沖へ出ちゃダメって約束しただろう? 水の事故がどんなに危険か分かってるのか!!」
日本語でハルを叱って、次はラランの番だ!
「ラランが泳ぎ上手、知ってる。でも子供だけで沖出ない。約束! ヤーパルマがいても、ダメ!」
うーん。カタコトだと、どうしても迫力に欠けるな。あとでルルとカミューに、ちゃんと叱ってもらわないと。
「「カーニャ・ラザーナ」」
二人が同じように首をすくめて、同時に言った。
「おじさん、でも、あれ見てよ!」
ラランが涙目で、頭をさすりながら言った。
外海と入り江の境目に、真っ白い砂浜が広がっている。干潮の時だけ現れる的なサンゴ礁の島だろうか? ヤーパルマが数頭、呑気そうに甲羅干ししている。
その向こうには、ギラギラと太陽の光を反射している、大きな金属の塊がある。どう見ても人工物だ。しかも――。明らかにパスティア・ラカーナ産ではない。
あれ、もしかして『空飛ぶ船』なのか?
注1 )ヒロトとハルのゴーグルは、大岩の爺さんが作ってくれた特別製です。ツマミで調節の効く、望遠機能付き。
0
お気に入りに追加
20
あなたにおすすめの小説
【読み切り版】婚約破棄された先で助けたお爺さんが、実はエルフの国の王子様で死ぬほど溺愛される
卯月 三日
恋愛
公爵家に生まれたアンフェリカは、政略結婚で王太子との婚約者となる。しかし、アンフェリカの持っているスキルは、「種(たね)の保護」という訳の分からないものだった。
それに不満を持っていた王太子は、彼女に婚約破棄を告げる。
王太子に捨てられた主人公は、辺境に飛ばされ、傷心のまま一人街をさまよっていた。そこで出会ったのは、一人の老人。
老人を励ました主人公だったが、実はその老人は人間の世界にやってきたエルフの国の王子だった。彼は、彼女の心の美しさに感動し恋に落ちる。
そして、エルフの国に二人で向かったのだが、彼女の持つスキルの真の力に気付き、エルフの国が救われることになる物語。
読み切り作品です。
いくつかあげている中から、反応のよかったものを連載します!
どうか、感想、評価をよろしくお願いします!
グラティールの公爵令嬢
てるゆーぬ(旧名:てるゆ)
ファンタジー
ファンタジーランキング1位を達成しました!女主人公のゲーム異世界転生(主人公は恋愛しません)
ゲーム知識でレアアイテムをゲットしてチート無双、ざまぁ要素、島でスローライフなど、やりたい放題の異世界ライフを楽しむ。
苦戦展開ナシ。ほのぼのストーリーでストレスフリー。
錬金術要素アリ。クラフトチートで、ものづくりを楽しみます。
グルメ要素アリ。お酒、魔物肉、サバイバル飯など充実。
上述の通り、主人公は恋愛しません。途中、婚約されるシーンがありますが婚約破棄に持ち込みます。主人公のルチルは生涯にわたって独身を貫くストーリーです。
広大な異世界ワールドを旅する物語です。冒険にも出ますし、海を渡ったりもします。
「異世界で始める乙女の魔法革命」
(笑)
恋愛
高校生の桜子(さくらこ)は、ある日、不思議な古書に触れたことで、魔法が存在する異世界エルフィア王国に召喚される。そこで彼女は美しい王子レオンと出会い、元の世界に戻る方法を探すために彼と行動を共にすることになる。
魔法学院に入学した桜子は、個性豊かな仲間たちと友情を育みながら、魔法の世界での生活に奮闘する。やがて彼女は、自分の中に秘められた特別な力の存在に気づき始める。しかし、その力を狙う闇の勢力が動き出し、桜子は自分の運命と向き合わざるを得なくなる。
仲間たちとの絆やレオンとの関係を深めながら、桜子は困難に立ち向かっていく。異世界での冒険と成長を通じて、彼女が選ぶ未来とは――。
下剋上を始めます。これは私の復讐のお話
ハルイロ
恋愛
「ごめんね。きみとこのままではいられない。」そう言われて私は大好きな婚約者に捨てられた。
アルト子爵家の一人娘のリルメリアはその天才的な魔法の才能で幼少期から魔道具の開発に携わってきた。
彼女は優しい両親の下、様々な出会いを経て幸せな学生時代を過ごす。
しかし、行方不明だった元王女の子が見つかり、今までの生活は一変。
愛する婚約者は彼女から離れ、お姫様を選んだ。
「それなら私も貴方はいらない。」
リルメリアは圧倒的な才能と財力を駆使してこの世界の頂点「聖女」になることを決意する。
「待っていなさい。私が復讐を完遂するその日まで。」
頑張り屋の天才少女が濃いキャラ達に囲まれながら、ただひたすら上を目指すお話。
*他視点あり
二部構成です。
一部は幼少期編でほのぼのと進みます
二部は復讐編、本編です。
死に役はごめんなので好きにさせてもらいます
橋本彩里(Ayari)
恋愛
フェリシアは幼馴染で婚約者のデュークのことが好きで健気に尽くしてきた。
前世の記憶が蘇り、物語冒頭で死ぬ役目の主人公たちのただの盛り上げ要員であると知ったフェリシアは、死んでたまるかと物語のヒーロー枠であるデュークへの恋心を捨てることを決意する。
愛を返されない、いつか違う人とくっつく予定の婚約者なんてごめんだ。しかも自分は死に役。
フェリシアはデューク中心の生活をやめ、なんなら婚約破棄を目指して自分のために好きなことをしようと決める。
どうせ何をしていても気にしないだろうとデュークと距離を置こうとするが……
お付き合いいただけたら幸いです。
たくさんのいいね、エール、感想、誤字報告をありがとうございます!
悪役令嬢に転生してストーリー無視で商才が開花しましたが、恋に奥手はなおりません。
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】乙女ゲームの悪役令嬢である公爵令嬢カロリーナ・シュタールに転生した主人公。
だけど、元はといえば都会が苦手な港町生まれの田舎娘。しかも、まったくの生まれたての赤ん坊に転生してしまったため、公爵令嬢としての記憶も経験もなく、アイデンティティは完全に日本の田舎娘。
高慢で横暴で他を圧倒する美貌で学園に君臨する悪役令嬢……に、育つ訳もなく当たり障りのない〈ふつうの令嬢〉として、乙女ゲームの舞台であった王立学園へと進学。
ゲームでカロリーナが強引に婚約者にしていた第2王子とも「ちょっといい感じ」程度で特に進展はなし。当然、断罪イベントもなく、都会が苦手なので亡き母の遺してくれた辺境の領地に移住する日を夢見て過ごし、無事卒業。
ところが母の愛したミカン畑が、安く買い叩かれて廃業の危機!? 途方にくれたけど、目のまえには海。それも、天然の良港! 一念発起して、港湾開発と海上交易へと乗り出してゆく!!
乙女ゲームの世界を舞台に、原作ストーリー無視で商才を開花させるけど、恋はちょっと苦手。
なのに、グイグイくる軽薄男爵との軽い会話なら逆にいける!
という不器用な主人公がおりなす、読み味軽快なサクセス&異世界恋愛ファンタジー!
*女性向けHOTランキング1位に掲載していただきました!(2024.9.1-2)たくさんの方にお読みいただき、ありがとうございます!
【完結】お飾り契約でしたが、契約更新には至らないようです
BBやっこ
恋愛
「分かれてくれ!」土下座せんばかりの勢いの旦那様。
その横には、メイドとして支えていた女性がいいます。お手をつけたという事ですか。
残念ながら、契約違反ですね。所定の手続きにより金銭の要求。
あ、早急に引っ越しますので。あとはご依頼主様からお聞きください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる