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第八話 海とヤーパルマ 其ノ二

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前回のお話

すっかり仲良くなった教会の子供たちと、元気に海に遊びに行くハルとハナ。今日は子供たちのお気に入りの入り江に、ヤーパルマが遊びに来ているらしい。

ヤーパルマは甲羅のある海洋生物で、とても頭が良く穏やかな生き物だ。機嫌が良いと、子供を背中の甲羅に乗せて泳いでくれる。

ところが、バスケットにランチを詰めて、入り江を訪れたヒロトを待っていたのは『ハルとラランが戻って来ない』と、涙目で告げるハナとナユだった。


▽△▽



「ナユ、教えて。いない、気づいてどれくらい? 時間」

「う、うん。あたし、ハナとあっちでルジュ(青い巻貝の貝がら)拾ってて、あれ? って思ったの。ついさっきだよ。でも、もっと前からいなかったのかも」

 おじさん、ごめんなさい。

 ナユが泣きそうな顔で言った。一番年上のこの子は、自分が責任者だと自覚しているのだろう。

「遠くに行かない、おじさんと約束した。約束破ったのは二人。ナユは悪くないよ」

 内心の焦りを抑え込み、ナユの背中をポンポンと叩く。

「ナユはここで待っていて」

 ハナとナユに、絶対に海に入らないよう言い含めてから、海に向かって走る。俺が今、海へ飛び込んだとしても、片腕では満足に水を掻くことすら出来ないかも知れない。

 それでも――。この場でじっとして待つなんて、出来る筈がない。

 走り出してすぐに、あくびが俺の襟首に噛みついた。ふわりと身体が宙に舞い、次の瞬間にはあくびの背中にドスンと着地していた。尾てい骨をしたたかに打って、目から火花が散る。

 あくびはそのまま、ジャブジャブと海に入って行った。

 ああ、もう……。なんでそこまでわかってくれるんだよ。時々おまえがトカゲなの、忘れそうになる。

 そうだな、相棒。俺がおまえの右眼の分まで見る。おまえは俺の左腕の分まで泳いでくれ!

 絶対見つけよう!!

 手綱を腰に固定して、首にしがみつく。グッと前傾姿勢をとったあくびが、海中へと潜ってゆく。タイミングを合わせて息を止めたつもりだったが、ガボガボと鼻と口に盛大に海水が入る。

 首を叩き、一旦浮上してもらう。しこたま咳き込んだが、急いで息を整える。二人が沈んでいるとしたら、時間との勝負だ。

 あくびが振り返る。

 大丈夫だ! 次は上手くやる!

 目をみはるほど透明度の高い海だ。海底まではっきりと見通せる。鮮やかな青色の小魚の群れ、海底のサンゴ礁。

 ハルは浅葱色あさぎいろのシャツを着ていたはずだ。ラランは確か紫の半ズボン。海中で目を凝らす。あくびに旋回するように泳いでもらって、色を頼りに二人を探す。

 見つからない。何度も潜り、ゴーグル(注1)のツマミを捻る。岩場を回り込み、海岸線や水平線にも目を凝らす。

 クッソーーッッ!! 見つからない!

 焦燥感で頭が沸騰ふっとうしそうだ!



 その時、水平線でキラリと何かが光った。太陽の光を反射する、がある!

「あくび! あっちだ!!」

 首を叩いて方向を示す。


 二人とも、無事でいてくれよ!!


▽△▽

「あ、お父さんだ! おとーさ~ん!! こっちこっち!」

 一気に力も気も抜ける。ハルもラランも無事だ。ヤーパルマに乗って、元気に手を振っている。

 おまえらーーーっ!! そこ! 正座!! ヤーパルマに乗ってる? 甲羅の上に正座!

 二人の頭にゲンコツを落とす。

「心配かけて! 沖へ出ちゃダメって約束しただろう? 水の事故がどんなに危険か分かってるのか!!」

 日本語でハルを叱って、次はラランの番だ!

「ラランが泳ぎ上手、知ってる。でも子供だけで沖出ない。約束! ヤーパルマがいても、ダメ!」

 うーん。カタコトだと、どうしても迫力に欠けるな。あとでルルとカミューに、ちゃんと叱ってもらわないと。

「「カーニャ・ラザーナごめんなさい」」

 二人が同じように首をすくめて、同時に言った。

「おじさん、でも、あれ見てよ!」

 ラランが涙目で、頭をさすりながら言った。

 外海そとうみと入り江の境目に、真っ白い砂浜が広がっている。干潮の時だけ現れる的なサンゴ礁の島だろうか? ヤーパルマが数頭、呑気そうに甲羅干ししている。

 その向こうには、ギラギラと太陽の光を反射している、大きな金属の塊がある。どう見ても人工物だ。しかも――。明らかにパスティア・ラカーナ産ではない。

 あれ、もしかして『空飛ぶ船』なのか?



注1 )ヒロトとハルのゴーグルは、大岩の爺さんが作ってくれた特別製です。ツマミで調節の効く、望遠機能付き。
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