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桜の昔語り1

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 私と梅子は義母姉妹なんです。
 実母が死んでから数ヶ月後に父の愛人だった今の母と父が結婚して産まれたのが梅子でした。
 梅子は両親から溺愛されていた。
 私も愛されていなかった訳ではないけれど、常に梅子の為に梅子のそばに。あの家族の中心は梅子で私は「完璧な梅子の姉」である事を常に望まれていた。
 気がつけば可愛かったはずの妹は憎悪の対象になっていた。
 そしてなぜか梅子は私に異常な執着心を寄せてきた。それは家族に対する親愛の情ではなく、恋愛感情だと言う事も察せられた。
 こちらにその気がなく、しかも嫌いな相手からの好意など気持ちが悪いだけ。

 私はこの家から、梅子から早く逃げ出したかった。

 そんな日々を過ごす中、私は家の為に如月家の女好きで素行の悪い男と婚約する事になった。
 彼は見た目は美男子であり私に対する態度は紳士だった。が、裏では女を買いあさり捨て、相手が邪魔になれば殺す事も厭わない様な最低な男だった。
 こんな男と夫婦になり、子を産み、老いるまで過ごさなければならないの? なぜ私ばかりがこんな目に。自分の人生を恨む日々が続いた。

 同時期に、梅子が病にかかった。
 両親は狂った様に良い医者を探し、梅子は静かに静養出来る様にと別宅に移された。そして、私には梅子の面倒を見るようにいいつけた。
 けれどそれは梅子に病のせいで親に捨てられたと勘違いさせる事になった。面倒を見る為に通う私にますます懐き、好意を向けてくる。
 鬱陶しい。逃げたい。
 そう思っていた時に、あの科学者だと名乗る男に出会った。
 出会ったのは梅子のために薬を取りに病院へ行った帰り道

「ご家族にご病気の方が?」

 そう声をかけられ振り向くと、目つきの鋭い男が立っていた。

「失礼、私は橘英一郎……しがない科学者です」
「科学者……?」

 橘英一郎は「人に植物の力を与え病を治す薬」について言って説明してくる。胡散臭いと思ったが、副作用の植物化の話を聞いて、これはチャンスだと思った。

「ぜひ、妹に使ってあげてほしいわ。けれどこんな重要な事、私の一存では決められません。少し待って下さいますか?」
「ええ、もし我が薬を使ってみたくなりましたら、こちらに連絡を」

 そして私は両親に噂話でこんな医者がいるらしい。と告げた。
 特に梅子を溺愛していた父は藁にもすがる思いでその科学者を探し出した。
 実際は私が父が依頼した探偵に彼から貰った連絡先を渡しただけなのだけれど。私が情報源だという事だけ内密に、いかにも苦労した風を装ってという条件だけで探偵はあっさりと条件をのんでくれた。
 
 梅子は既に私しか味方がいないのだと思い込み、私に執着し私の言う事ならば何でも聞くような精神状態になっている。
 あなたの為を思ってと良い姉を演じたら梅子はあっさりとあの薬を飲んだ。

 けれど私の思惑は外れ、木になった梅子は人の姿に戻ってしまった。
 気絶した梅子をベッドに寝かせ、橘の話を聞くことにした。

「あれは、植物人というものになったのでしょうか?」

 橘は少し考えてから

「姿は人でしたが……まだ判別がつきません」
「判別?」
「植物人のなりそこないは二種類あるんですよ、完全な植物になってしまう植物化ともう一つは……」

 その時、ガタン!と廊下から大きな音が聞こえる。
 何事かと覗くと、メイドに絡みつき何かをしている梅子の姿が見えた。しかもそのメイドはミイラの様に干からびている。

「ヒッ!」

 後ずさる私を見て橘もその様子を見る。

「これは、失敗ですね。妹さんは植物妖になってしまった様だ」
「植物妖……?」

 橘によれば植物妖に人から精気を奪う化物。つまりあのメイドは梅子に精気を吸われ干からびてしまったのだ。背筋がゾッと寒くなる。

「あんな化物になるなんて、どうしたらいいんですか!」
「落ち着いて、対処法はありますよ」

 植物妖の指先になる実を本人に食べさせれば植物化してしまう。その解決策を教えられホッとした私は一つの計画を思いつく。
 家の為に無理やりあてがわれた素行の悪い女好きな婚約者と大嫌いな妹、同時に消す事が出来るかもしれない。

 計画をどう実行に移すかと悩んでいた時、妹と婚約者が偶然出会った。
 思っていた通り、梅子は婚約者に嫉妬し敵意を向けていた。そして婚約者の梅子を見る目つきが恋する男の目に変わるのを見て、世界の全てが初めて私の為に動いていると感じた。
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