植物人－しょくぶつびと－

思念を見終わって

「ふう……」

　なるほどなあ。
　大好きな姉の策とやらに乗せられる形で梅の木になったのか。
　彼女がここにいるという事は、桜子は迎えには来なかったと言うことだろう。
　純粋に姉を思い、待って待って待ち続けて植物化に成り果て、そしてなぜか今になってその姉の依頼で俺に枯られるというわけだ。
　疑問点も多かったが、今の記憶には多少なりとも有益な情報があったな。
　植物妖が作った実を本人が食うと植物化するということ、これは俺も知らなかった新情報だ。
　あと、姉の桜子が連れてきていたあの男……間違いなく植人化の薬を作り出した二度と見たくない顔だった、忘れようにも忘れられない。

　この世で一番憎い男、俺の父親。

　あいつの後始末をする為に俺はこんな難儀な職業をやらざるを得なくなったんだ。本当なら……。
　まあいい、今はこの木を枯る事だけに集中しよう。
　梅の幹を触ると一か所だけ他とは違う反応がある。ここだなと狙いを定め幹の中に手をめり込ませる。ずぶずぶと入っていくその先に暖かく丸いものがある感覚、それを掴み一気に引き抜く。
　引き抜いた俺の手の中には虹色に輝く球があった。懐に入れてあった瓶を取り出し入れると瓶の中で珠が輝いている。

「……はあ……」

　まだあいつが使った薬の十分の一も回収していない。先が長い、長すぎる。何時になったら終わるのか検討もつかない。
　振り返って梅の木を見た。やはり樹木の植物化は草の植物化と違って薬を抜かれた後も姿を保つな。だが枯れてしまうのも時間の問題だろう。
作業終了報告のついでにその辺りも依頼人に告げておくか。
　俺は依頼人に連絡を取った。

「どうも、橘です。今終わりました」
『そうですか、梅の木は無事に枯れたんですよね』
「樹木の植物化は生命力が強いので、完全に枯れるには二、三か月ほどかかると思いますが」
『……そうですか。枯れる前に切り倒してしまっても問題はないですよね』
「ええ、それは、薬を抜いてしまえばただの木ですから」
『そうですか、それはご苦労様でした。では報酬は指定の口座に』
「ええ、どうも」

　会話を終え電話を切る。

「切り倒すねぇ……」

　ちらりと梅の木を見る。
　あまり依頼人の事情に首を突っ込むのは良くないんだが、あの老婆には少し聞きたいこともある。

「仕方ないか」

　ガラスの外に広がる夜空を見ながらため息をついた。