四次元堂奇譚

一綿しろ

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四冊目 時戻りの時計・改

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「え? は?」

 振り返るがそこに俺が入ってきたはずの扉が無かった。ここは何処なんだ? 夢でも見ているのか?

「戸惑うのも当然です。ここはあなたがいた世界とは別の次元ですから」
「は?」

 何だこの人は、上から下まで白い。顔は綺麗だが人形みたいで不気味さの方が際立つ。

「申し遅れました、私はこの店の店主です。そしてここは四次元堂、あなたのお役に立つ道具をお渡しするお店です」
「道具?」
「ええ、あなたの世界にはない、道具」
「それは……人を生き返らせたり……」

 そう言いかけて首を振る。いや、そんなものあるはずがない。

「ございますよ」

 その言葉に目を丸くする、それがあるなら……みったんを生き返らせることが出来る……!

「あの! それを下さい! お金ならいくらでも払います!」

 店主に詰め寄ると彼は少し困った様な顔をした。

「落ち着いて下さい。ある事にはあるのですが、今回あなたにお渡しするのはそれではないんですよ」
「それではないって……どういう事です?」
「当店の道具は使う人を選びますので」
「人を……選ぶ?」
「ええ、道具に選ばれた方がこのお店に導かれるのです」

 聞いていて頭がくらくらしてきた。なんだそりゃゲームとか漫画みたいな話だ。
 そうかこれは夢なんだな。みったんが死んだショックと警察に容疑をかけられた混乱で変な夢を見ているんだ。

「じゃあ、俺をここに導いた道具があるってことですよね」
「ええ、こちらです」

 店主はそう言うと俺にすっと腕時計を手渡した。デザイン的にはいわゆるスマートウオッチと呼ばれる類の物に似ていた。

「それは時戻りの時計・改です」
「改?」
「ええ、旧式の物は少々欠陥があったので、改善したんです。その際にデザインも現代風にアレンジいたしました」
「へえ……」

 まじまじと時計を見る。見た感じは普通の時計だ。

「名前から察するに時間を戻れる時計ですよね、タイムリープ的な……」
「タイムリープとは少し違います。過去の自分に戻るのではなく、あなた自身が過去に戻れるのです」
「つまり、その時間軸にいる俺とこの時計を使って戻った俺、二人同時に存在するような感じか」
「その通りです」

 なるほどな、だがそれだとタイムパラドクスとか面倒くさい事が起こりそうなものだが。それに、今の俺にもう一人の自分を見かけた記憶はない。俺はこれを使わないって事なんだろうか。

「ただし、行けるのは今いる時間軸の24時間前まで。その範囲内ならば自由に指定出来ます。過去に戻っていられる時間は12時間だけ、それを過ぎると強制的に元居た時間軸に戻されます」
「なるほど、けど制限があるんでしょう、過去を変えてはいけないとか」
「いえいえ。過去を変えても大丈夫なように改良いたしましたので、その辺りがご安心ください」
「過去を変えられるのか!?」

 なってこった、それならば……過去に戻ってみったんを暴漢から助けられるかもしれない!

「改良する前は無制限に過去に戻れたんですが、それを制限する事で……」

 ああ、店主の説明はまだ続きそうだ。だが今の俺はそれどころではない、早く戻ってみったんを助けに行かなければ!

「あの! 俺これ買いますから! 早く元の世界に戻してください!」
「ああ、そうですか? お持ち帰りありがとうございます。こちら取扱説明書になります、注意事項も書いてございますので必ず一度は目を通してください」

 店主から小さな冊子を受け取ると背負っていたバックパックにいれ、それと入れ替わりに財布を取り出す。恐らくこの時計かなり高いだろう……カードは使えるだろうか? いやまてよ、そもそも支払いは現金なのだろうか? もしかしたら魂をよこせとか寿命をよこせとか……。

「あ、あの……この時計おいくらですか?」

 俺が恐る恐る聞くと

「いえ、お代は必要ありません、代わりにあなたの……」

 やはりそうか! けど、これを使えばみったんを救えるんだ! 推しの命に比べたら俺の命なんて屁みたいなもんだ!

「わかりました! 魂でも寿命でも持って行って下さい!」
「え? そんなものいりませんけど」
「え!? じゃあ何を払えば……?」
「その道具を使う事であなたが紡ぎ出す物語をご提供いただければそれで」
「物語を……」

 よくわからないけれど、つまりはタダってことだな。まあ無料を謳うものには必ず裏がある、慎重に行動しよう。

「ふふふ、では、良き物語をお送りください」

 店主がそう言うと店の扉が開く。俺はまばゆい光に包まれ……気が付くと自宅の玄関にいた。時計を見ると帰ってきた時間のままだ。

 変な夢でも見ていたんだろうかと思ったが、俺の腕にはしっかりと時戻りの時計・改はあった。
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