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第三章 最終決戦
真相を導くハッタリ
しおりを挟む漆黒の牙は言った。
朱己を、最高傑作の朱色の雫だと。
それは事実かもしれない。わしは、千草の記憶しか見ておらぬが。ただ、今までの記憶を全て持っている師走の反応を見る限り、そうかもしれないと予想できる。
それはもう、玄冬の気分は愉快爽快だろう。
思い通りになど、させてたまるか。
「ならば、根競べといこうかの」
恐れ慄くかと、どこかで自分自身を心配していたが、それは杞憂だったようだ。今わしは、心のどこかで楽しんでおる。玄冬と対峙しているこの瞬間を。
「お前は俺のセンナが入ったまま。俺に勝てるわけがないだろう」
「どうかのう? わしにはわしのやり方がある」
玄冬を攻撃すれば、もれなくわしも攻撃を被る。だが、一つわかったのは、玄冬が自らの意志で受けた攻撃を反映させるかどうかを選べるであろうこと。
ならば、判断の隙きを与えないか、もしくは。
鉄扇を握り込み、微笑んだ。
___
気に食わん。
気に食わん。
気に食わん。
朱色の雫。
お前は、最強の五珠。最強の能力を持つ者。
お前が屈する姿が見たい。お前が苦しむ姿が見たい。お前の絶望に歪む顔と砕ける心が、心の底から見たい。
遊び道具なんだ。俺の。紺碧の弦と作ったあの二人とは違う。俺が心の底から欲する相手。俺の絶望に射し込んだ一筋の光。俺の野望を叶えられる唯一の力。
俺に跪け。
俺のために泣き、俺のために苦しみ、俺のために最高の力を使え。
俺がお前を欲している限り、お前は俺のものだ。
なのに。
勝手に救われようとして、何様のつもりだ。
俺を差し置いて白金の灯に手を出し、紺碧の弦を手懐けた。
黄金の果をうまく利用してやろうかと思ったが、奴の歪んだ白金の灯への執着には反吐が出る。何故愛だのなんだのと、意味のわからないものを引っ張り出し、醜い姿を晒すような真似をする。俺たち五珠の中で最弱の存在。
朱色の雫を手に入れ、必ず世界を作り直す。俺の思う完璧な世界を。弱者などいない、完璧な世界を。
絵空事を語る不出来な朱色の雫の下についた屈辱を、必ず拭い去ってやる。完璧な朱色の雫を使って、今度こそ俺が正しいということを見せつけてやる。あともう少しなんだ。
「朱色の雫……俺のものだ」
眼の前の朱色の雫によく似た目をした小僧は、先代の朱色の雫ともよく似ている。力もないくせに理想を語り、真っ直ぐ見つめてくる。俺の嫌いな輩だ。
にしても、何故こいつは俺のセンナを混ぜられたのに、俺の支配をくぐり抜けて俺に刃を向ける。
俺の支配だぞ。この、漆黒の牙の。
気に食わん。
朱色の雫同様、気に食わん。
___
わしを見る玄冬の目が、少しばかり揺れた気がした。気がしただけで、本当に揺れたのか、気の所為だったのかはわからぬ。
わしがずっと考えていたハッタリ。
ハッタリなのかどうなのか、はっきりさせてみようかと思いついたわしは、どうやら恐れ知らずのようだ。
口角を上げ、鉄扇を向ける。
「のう、玄冬。お主、もしやとは思うが……朱色の雫のことを好いておったのか?」
「……いきなり、何を言い出すかと思えば」
「なあに、少し気になっただけよ。先代の朱色の雫……お主の主となった二人、ナルスの初代長。手に入れるなら、朱己よりもあの二人のほうが容易かったはず」
玄冬の眉が一瞬動いた。
わざと笑いながら話すわしが、どうやら気に食わんらしい。師走にも聞こえるように、わざと大声にしたのも、玄冬からすれば怒りを駆り立てられる理由の一つだろう。
「惚れておったなら頷ける、手を出すのも憚られような」
「黙れ小僧!」
「小僧に小僧とは言われとうないのう!」
弾けるように繰り出される黒い稲妻が、わしの体めがけて降り注ぐ。耳を塞いでも突き抜ける轟音が、わしの方向感覚を奪っていくようだった。
風を巻き起こして雷を弾き飛ばすと、彼は顔を真っ赤にして怒りを隠さずに睨んできた。
「認めたらどうだ、玄冬よ!」
「あたかも事実かのように語るな! たわけが!」
「事実でないなら否定すればよかろう? 否定せぬのはお主ではないか!」
ハッタリだったはずの仮説。
わしの仮説はもしや、当たっておったのやもしれぬ。もしくは、玄冬からすれば憤りを感じるほど、許せぬ仮説だったのやもしれぬ。
何が事実か、はっきりさせてみせる。
わしの朱己を取り戻すために。
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