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第三章 最終決戦

行き先が絶望だとしても

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___

 解除リヴァレ
 絶望と読み替えてもいい。
 あたしたちにとっては、解除リヴァレは絶望そのもの。
 抑える傷口から止めどなく溢れる血は、容赦なく血の池を作っていく。回復した力ももう残りわずか。なんなら、意識も朦朧としている。漆黒の牙ニゲルデンスの攻撃は、あたしの知っている頃とは比べ物にならないほどの速さであたしを蝕んでいく。
 空を見上げて、どす黒い雲の下で赤黒い光を弾けさせる彼女を見つめた。

「朱己……」

 待って。
 あんたまで、居なくなるつもりなの。
 あの子達みたいに。

「ふざけんじゃないわよ……」

 肝心なときに何もできないあたしを、これ以上惨めにさせないでよ。

「朱己! しっかりしなさい……!」

 頼むから。もうこれ以上、何も奪わないで。
 あんな顔、見たくないのよ。
 手を握りしめながら呟いた。あんたの名前を。

___

「朱己!」

 激しい光の波にさらわれて、方向感覚が失われる。皮膚を叩く衝撃は容赦なくわしを地面に突き落とそうとする。
 わしはまた、繰り返すのか。
 お主を失いなくない。ふざけるな。
 お主はいつもそうだ、わしを置いていこうとする。自己犠牲も甚だしい。自己犠牲とはつまり、お主を愛しているわしを、全く大事にはしておらぬではないか。

 思わず口角が上がった。
 わしもおかしい。わしとてお主を置いていこうとしたのに、だ。都合がいい奴よ。

「千草! もう暫し持ちこたえよ!」

 わしが叫んだあと、力強く背中を押された気がしたのだ。
 お主のところに無理矢理近づくわしを、腕を引いて止める一人の男。

「やめろ、巻き込まれて貴様も死ぬぞ……! 解除リヴァレした朱色の雫ミニオスティーラを見くびるな」
「師走!」

 額に汗を滲ませた師走は、わしに喧嘩を売ってきた頃の彼とは見違えるほどだった。自信しかなかった男が、わしを止めるほど朱色の雫ミニオスティーラーー朱己の解除リヴァレとやらは、どうやらえげつない何からしい。
 わしは思わず笑ってしまい、師走は怪訝そうにわしを見つめた。

「あはは、いや、すまぬ。わしは朱己のことになると恐れがなくなるものでな」
「……貴様、我はあなどるなと」
「わかっておるよ。侮っておるのではない、朱己を一人にしておくつもりがない、という意味だ」

 目を見開く師走に背を向け、忠告に対して礼を言うと、師走が掴む手に力を込めてきた。

「我も行く。朱己に後を頼まれた」
「お主……そうか、それでは力を貸してくれ」

 まさか師走と共同戦線を張る日が来るとは思わなかったが、仕方ない。
 わしらが構えると同時に目の前に現れる漆黒の牙ニゲルデンス

「おい、邪魔をするな。これから朱色の雫ミニオスティーラのショーが始まるんだからな」
朱色の雫ミニオスティーラ解除リヴァレさせた目的はなんだ、玄冬!」
「言わずともわかるだろう。ほら、始まるぞ」

 漆黒の牙ニゲルデンスが親指を朱己に向けると同時に、空へ炎が巻き上がり、地表を氷が埋め尽くしていく。

「なっ……!」
「すべての再生のためには、一度全てを壊さねばならん。再生のための殺戮兵器、いや我が理想を叶えるための女神だ」

 わしが玄冬を睨みながら、なんとかして朱己へ辿り着けないか道を探した瞬間、後ろから名を呼ばれた。

「葉季、下がれ」
「師走……!?」

 顔の痣を濃くした師走がわしの横を駆け抜け、玄冬へ殴りかかる。正確には、弾き飛ばした。間髪入れず落下した玄冬を追い、地表を覆い尽くす氷へ撃ち込んだ。
 師走が一瞬わしを見た。
「行け」
と。

 直様朱己へと向かい、光で包まれた彼女へ手をのばす。激しい炎が彼女を包み、姿も形も見えない。

「……っ! 朱己……!」

 朱己が暴走したあの時よりも、手強い。
 手が焼け、顔が歪む。

「朱己!」

 あの師走が恐れるほどの解除リヴァレ。きっと朱色の雫ミニオスティーラを失ったつらい過去がある。謎だらけの現実だが、教えてもらえるわけではない。自分なりに理解して進むしかない。
 必死に伸ばした手は、なにかに触れた。

「朱己!?」

 次の瞬間、思い切り弾き飛ばされ、地表の氷へ激突した。肺がうまく空気を吸えずに、口だけが何度も開閉する。
 痛みで意識が飛びそうになる中、容赦なく氷が体を蝕んでいく。

「葉季!」

 師走の声がする。
 何がどうなった?
 状況が全く飲み込めないわしの目の前で、先程までわしがいたはずの炎の柱は、花火のように爆発した。

「し、朱己! 朱己!」

 血の気が引いていくのは、氷漬けになっていく体のせいか、それとも。
 必死に身をよじり、氷から逃れようと必死に藻掻く。ずっと氷に触れている部分が焼けるように熱い。
 爆発した後の煙の中から、人影が現れる。本能的に朱己と悟り、胸を撫で下ろした。
 近くにいた師走が、見たこともないほど顔面蒼白になっているのを、わしはまだ気づいてはいなかったのだ。

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