120 / 239
第二章 朱南国
ギミック
しおりを挟むーーー
朱己が出て行って、二日が経った。
頭を揺さぶる様な音波の攻撃は、気が触れそうになる。
風で波長を歪める方法を模索している間に、背後から思い切り叩きつけられた。
「だっ」
「ちょっとぉ!! あんたたち、本当にやる気あんのぉ? そんなんじゃ半月どころか、一年経ってもあたしから一本も取れないわよぉ!!」
ヴィオラは心底つまらなそうに椅子に座ったままメガホンを取っている。どうやら、拡声器というものらしい。ただでさえ大きいヴィオラの声が、かなりのボリュームで直接脳に届く。
「う、うるさい……頭に響く……。むしろ、やる気しかないとだけ言っておこう」
「そうですわね……力量なんて雀の涙程もありませんわね……」
わしの横で立ち上がる妲音も、既に傷だらけだ。わしらの他、高能と瑪瑙も一緒に指導を受けているが、同じく傷だらけで見れたものではない。
ヴィオラは首を回しながら、退屈そうにしていた。そして彼の口から紡がれる唐突な問に、首を傾げることになる。
「あんたたち、自分のセンナの強みってわかってる?」
「強み?」
属性の話か?
と返そうとして、言葉を飲み込んだ。そうではないと。
センナの強み? なんだそれは。
わからぬのはわしだけか? と思い辺りを見渡せば、皆一様に答えを持ち合わせていない、という顔をしていた。それを見たヴィオラは、また盛大にため息を吐き、肩をすくめた。
「属性に縛られ過ぎなのよ。例えば属性が炎の一強だったとして、センナが本当に水に弱いとか、移動速度が遅いとか、そんなことあると思ってんの?」
「……は?」
ヴィオラはまだ理解しきれないわしらに、呆れるわね! と言いながら腰を上げて近づいてきた。
「朱己が前に暴走したわね。あれは本当に水をセンナにかけられたから、だと思ってんの? って聞いてんのよ」
「……そうではないのか?」
わしらの反応に、肩をすくめながら呆れ顔を見せる彼は、半ば諦めているようにも見えた。
「はあ、そういうことね。んなわけないでしょおが。ギミックがあんのよ。あんたたち、本当に呆れるくらい情報操作されまくってるわね」
「ぎ、ぎみっく……?」
毎度のことだが、ヴィオラと話してると、知らない単語が次から次へと出てくる。今日もついて行けていないわしらを見て、可笑しそうに笑っていた。そして彼は、稽古場の扉へ視線を移した。
「仕掛けよ」
「仕掛け……」
「そ。まああたしが教えて上げてもいいけど……もう起きてるんでしょ? 香卦良」
その言葉に心底驚いて振り返れば、稽古場の扉が音もなくゆっくり開いた。
「久しぶりだな、ヴィオラ」
「香卦良……! お主、いつ起きて……!」
「本当、そういう所が憎めないのよね……香卦良。あたしから聞くんじゃ、この子たちの腹の虫がおさまらないでしょうから、香卦良から話したほうがいいわよ」
「葉季、すまない。……そうだな、私から話す」
そして、香卦良はゆっくり口を開いた。
ーーー
朝一から始まった稽古は、稽古なんてものじゃなかった。
「うぐっ」
「ほらほらどうしたんだい! 手も足も出ないじゃないか!」
文字通り、なぶり殺しだ。
霜月と呼ばれたこの女は心底楽しそうに、愉悦すら垣間見せて、私を嬲っている。
「はあ……っ、は、……くっ」
息をする間さえ与えない攻撃。
息をすれば即死する毒の霧。
一瞬だけ、毒の霧から空気を守って息をしても、何も休まらない。
私の命の危機が、センナ解除の鍵。
それなら一層のこと、反撃せず倒れるまで攻撃を食らうのも有りか、と錯覚する。そんなことをすれば、倒れるどころではなく死ぬだろうが。
「考え事なんて余裕じゃないか!」
激しく撃ち込んでくる槍を、避けることしかできない。
避けてばかりじゃ居られない、どうすればいい。
相手に攻撃を与えたくても隙がない。
掻い潜って行く先は地獄だ。
避けても何をしても、安心できない。
避けた先の地面から、霜月が現れ頭を壁に叩きつけられた。
「がはっ」
「おいおい、そんなんじゃ死んじゃうよ? 朱色の雫。本気を出しな」
ーー本気。
本気ってなんだ。
深呼吸すれば、毒が肺を蝕んでいく。
体中に毒が巡れば、結局は死ぬのだ。
所詮はこの程度なのだ。私は、この程度だ。
銀朱との戦いのときにも思った。だけど、それがどうした。
そうだ、私は私で。
私は、朱色の雫だかなんだかと呼ばれているが、そんなもの。
「……ったこっちゃ、ない」
「あん? なんだい」
私の頭を押さえつけたままの霜月の腕を掴み、足を巻きつけるとそのまま霜月を押し倒した。
簡易的に作った空間の中へ、そのまま引きずり込む。
「あんた、何する気……!」
次の瞬間、けたたましい音とともに空間の中で大爆発が起きた。爆発に耐えかねた空間は破裂し、私と霜月が弾き飛ばされる。
爆発で少し怪我を負った霜月が、私を睨んでいた。
「小賢しい真似をするねえ」
「……少しは、一矢報いることができたかしら」
辺りに充満している毒の霧の粒子を、一斉に乾燥させて粉へ変える。粉を空間の中へ回収して、粉塵爆発を起こしたのだ。
とはいえ、同じ手は使えない。それ以上に私には力が残っていない。辛うじて立っているだけの、情けない状態だ。
「次は、絶対……倒、す」
薄れゆく意識の中で、彼女へ啖呵を切った。
最後、誰かに受け止めてもらったような気がしたが、誰なのかはわからなかった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
ジャック&ミーナ ―魔法科学部研究科―
浅山いちる
ファンタジー
この作品は改稿版があります。こちらはサクサク進みますがそちらも見てもらえると嬉しいです!
大事なモノは、いつだって手の届くところにある。――人も、魔法も。
幼い頃憧れた、兵士を目指す少年ジャック。数年の時を経て、念願の兵士となるのだが、その初日「行ってほしい部署がある」と上官から告げられる。
なくなくその部署へと向かう彼だったが、そこで待っていたのは、昔、隣の家に住んでいた幼馴染だった。
――モンスターから魔法を作るの。
悠久の時を経て再会した二人が、新たな魔法を生み出す冒険ファンタジーが今、幕を開ける!!
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「マグネット!」にも掲載しています。
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
半身転生
片山瑛二朗
ファンタジー
忘れたい過去、ありますか。やり直したい過去、ありますか。
元高校球児の大学一年生、千葉新(ちばあらた)は通り魔に刺され意識を失った。
気が付くと何もない真っ白な空間にいた新は隣にもう1人、自分自身がいることに理解が追い付かないまま神を自称する女に問われる。
「どちらが元の世界に残り、どちらが異世界に転生しますか」
実質的に帰還不可能となった剣と魔術の異世界で、青年は何を思い、何を成すのか。
消し去りたい過去と向き合い、その上で彼はもう一度立ち上がることが出来るのか。
異世界人アラタ・チバは生きる、ただがむしゃらに、精一杯。
少なくとも始めのうちは主人公は強くないです。
強くなれる素養はありますが強くなるかどうかは別問題、無双が見たい人は主人公が強くなることを信じてその過程をお楽しみください、保証はしかねますが。
異世界は日本と比較して厳しい環境です。
日常的に人が死ぬことはありませんがそれに近いことはままありますし日本に比べればどうしても命の危険は大きいです。
主人公死亡で主人公交代! なんてこともあり得るかもしれません。
つまり主人公だから最強! 主人公だから死なない! そう言ったことは保証できません。
最初の主人公は普通の青年です。
大した学もなければ異世界で役立つ知識があるわけではありません。
神を自称する女に異世界に飛ばされますがすべてを無に帰すチートをもらえるわけではないです。
もしかしたらチートを手にすることなく物語を終える、そんな結末もあるかもです。
ここまで何も確定的なことを言っていませんが最後に、この物語は必ず「完結」します。
長くなるかもしれませんし大して話数は多くならないかもしれません。
ただ必ず完結しますので安心してお読みください。
ブックマーク、評価、感想などいつでもお待ちしています。
この小説は同じ題名、作者名で「小説家になろう」、「カクヨム」様にも掲載しています。
魔法少女の異世界刀匠生活
ミュート
ファンタジー
私はクアンタ。魔法少女だ。
……終わりか、だと? 自己紹介をこれ以上続けろと言われても話す事は無い。
そうだな……私は太陽系第三惑星地球の日本秋音市に居た筈が、異世界ともいうべき別の場所に飛ばされていた。
そこでリンナという少女の打つ刀に見惚れ、彼女の弟子としてこの世界で暮らす事となるのだが、色々と諸問題に巻き込まれる事になっていく。
王族の後継問題とか、突如現れる謎の魔物と呼ばれる存在と戦う為の皇国軍へ加入しろとスカウトされたり……
色々あるが、私はただ、刀を打つ為にやらねばならぬ事に従事するだけだ。
詳しくは、読めばわかる事だろう。――では。
※この作品は「小説家になろう!」様、「ノベルアップ+」様でも同様の内容で公開していきます。
※コメント等大歓迎です。何時もありがとうございます!
裏庭が裏ダンジョンでした@完結
まっど↑きみはる
ファンタジー
結界で隔離されたど田舎に住んでいる『ムツヤ』。彼は裏庭の塔が裏ダンジョンだと知らずに子供の頃から遊び場にしていた。
裏ダンジョンで鍛えた力とチート級のアイテムと、アホのムツヤは夢を見て外の世界へと飛び立つが、早速オークに捕らえれてしまう。
そこで知る憧れの世界の厳しく、残酷な現実とは……?
挿絵結構あります
長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~
灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。
その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。
魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。
首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。
訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。
そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。
座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。
全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。
ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる