天使を好きになった悪魔

大川るい

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【第三章】喫茶店での日々

夜の町へ

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 図書館からの帰り道。
 夕日が沈んでいく町並みを二人は歩いていた。
 店じまいをしている店舗がちらほらとあり、一日の終わりが近づいている感じがした。
 その一方で夜から営業をするため、開店の準備をしているお店もあったりしてその対比がサーナにとっては興味深かった。

 ふと、ドレスショップが目についた。
 ドレスショップは完全に閉店して、カーテンが閉められていたためショーケースに飾ってあるドレスは確認できなかった。

「あ、そういえば……」
「ん? どうしたの?」

 サーナはドレスショップの店員であるルシフェとの約束をすっかり忘れてしまっていた。
 喫茶店で働くようになり仕事を覚えたり環境に慣れるのに手一杯でいつの間にか忘れてしまっていたのである。
 サーナは少し申し訳ない気持ちになった。

「えっとね。私一人で町の散策をしたときにそこのドレスショップに寄って店員さんとお話をしたのだけどもそのときにこの町の式場でも働いているって教えてもらって、近いうちに行くって約束したの。それをすっかり忘れてて……」

 サーナは気恥ずかしそうに苦笑いを浮かべて答えた。
 アランは微笑んだ。

「そうだったんだね。やっぱり、サーナは行動力あるね。見習わなくちゃいけないなぁ」
「そんなことないよ。ドレスを見ていたら声をかけられてそのままなし崩し的にって感じだったから」

 サーナはアランに褒められて嬉しいような恥ずかしいような気持ちになった。
 両手を広げて体の前で振って否定した。

「ふふ、じゃあそういうことにしておこうか。思い出したついでに折角だから近いうちに行ってみる?」
「うん。折角だから行ってみたいかな。このお店が休みの日に式場で働いているって言っていたから……」

 サーナは店頭に貼られているお休みの案内を見た。
 アランもつられて一緒に確認する。

「ルリさんに話をして、この日に休めるか聞いてみようか」
「うん。そうしてみることにするね」

 サーナは頷き、二人はまた歩き出した。
 アランと出かけられる予定が出来そうでサーナは内心とても嬉しかった。
 サーナはアランと一緒に居ればこの町で過ごす日々を楽しめそう、と改めて思っていた。

 この日々を大切にしたい。
 この日々がずっと続けば良い。
 そう思っていても心のどこかで違った思いが生まれてくるのも自覚していた。
 この日々はいつまで続くのだろうか。
 サーナの不安はまだ完全にはなくなっていなかった。

 不安を打ち消すように小さく頭を振ってサーナは前を向いた。
 目に広がる赤い夕日と町を覆い始めようとする夜の闇がどこかもの悲しさを醸し出している気がした。


 喫茶店での日々は順調であった。
 サーナは喫茶店で働き、アランのそばで過ごしている間は自分が悪魔だと言うことを忘れることが出来た。

 今日も喫茶店の片付けを終えて晩ご飯も済ませ、部屋でゆっくりしているところだった。
 サーナはルシフェからもらったドレスのカタログを見るのが日課のようになっていた。
 様々なドレスを眺め、自分が着ている姿を想像するのが楽しかったからである。
 サーナはそういう良い想像をすることで悪い想像をなくそうとしていた。
 こうやって、夜一人で過ごしているとどうしても寂しさを感じてしまう。
 眠くなるまでアランの部屋に行くことも考えたがアランに迷惑をかけると思い、中々実行できずにいた。

 サーナは部屋の窓を少し開けてみた。
 冷たい夜風が入り込んでくる。
 季節はもうじき冬。
 これから、まだまだこの町で過ごすのである。
 期待感と不安感でサーナの胸は一杯だった。

「ちょっと、夜風に当たってこようかな……」

 サーナは窓を閉めて、上着を一枚着込んだ。
 この上着はルリの娘が使っていたものらしく、ルリがサーナにあげたものであった。
 自分が使って良いのかと問うとルリははっきり良いと答えてくれた。

 やっぱり、娘のように見えるんだよ、と一言添えて。

 サーナはそんなことを思い出しながら部屋の外へ出た。
 ゆっくりと階段を降りていくとルリがカウンター席に座りながらうとうとしているのが見えた。
 こんな所にいたら風邪を引くのではないかと思ったサーナはルリを起こそうとした。

「ルリさん、こんなところで寝たら風邪引いちゃいますよ」

 サーナはルリの方を優しく叩いたり、揺すったりした。
 ルリはすぐに目を覚ましてサーナの方を見て、店内の時計を眺めた。

「おや、サーナちゃん。起こしてくれてありがとうね」
「いえいえ」

 ちゃんと目を覚ましたルリを見て、サーナはほっと胸をなで下ろした。
 ルリはサーナの姿を見て首をかしげた。

「サーナちゃん、こんな時間におでかけかい?」
「おでかけってほどではないですけど、ちょっと夜風に当たってこようかなと」
「そうかい。女の子なんだから気をつけるんだよ」
「はい。10分もしないうちに戻ってきますね」
「分かったよ。いってらっしゃい」
「いってきます」

 サーナはぺこりと頭を下げて、店の外へ出ていった。
 ルリはサーナを優しい笑顔で見送った。
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