天使を好きになった悪魔

【第二章】町での日々

再び喫茶店へ

　翌日の昼下がり、アランとサーナは喫茶店へ向かった。
　店内がさほど混んでいないのを確認してサーナは扉を開けた。

「いらっしゃいませ。あら、サーナちゃん。来てくれたのね」
「こ、こんにちは」

　テーブルを拭いていたリアがサーナの存在に気づく。
　サーナは少しだけ緊張しながらぺこりと頭を下げた。
　アランもつられて頭を下げた。
　顔を上げてリアを見るとはっとした。
　リアもまたアランを見て驚いた表情を見せた。
　サーナは二人の様子がおかしいと思い小首をかしげた。

「えっと、この人が昨日お話ししたアランです」
「アランと言います。昨日はサーナがお世話になったようでありがとうございます」
「いえいえ、何もしてないわよ。さ、こちらのテーブル席どうぞ」

　リアは二人を片付け終わったテーブル席に誘導する。
　アランとサーナは向かい合うように座った。
　二人はひとまずブレンドコーヒーを頼んだ。
　そうしているうちにルリが奥から出てきた。
　ルリはサーナに気づくとテーブル席の方までやってきた。

「おやおや。サーナちゃん来てくれたんだね。で、そちらの人がアラン君かい？」
「あ、はい。そうです」

　サーナはルリにもアランを紹介してアランはぺこりと頭を下げる。
　ルリは頷きながら微笑んだ。

「まあ、ひとまずゆっくりしていっておくれよ。話しは後で良いからさ」

　そう言い、ルリはコーヒーを淹れる作業に入った。
　それほど時間も経たずコーヒーが二人の元に届けられた。
　アランはコーヒーを一口飲み、ほっと一息をついた。

「ここは落ち着いた雰囲気で良いね。木の良い香りとコーヒーの香りが合わさって落ち着く気がするよ」
「うん。私も最初来たときにそう思ったの。ここ、素敵だなぁって」

　アランは店内を見回しながらそう呟く。
　サーナもそれに頷きながらコーヒーをすする。
　この香りが好きと改めて思った。
　他愛もない話をしながら過ごすこの時間がサーナにとっては十分な幸せに感じられていた。

　改めて、このお店で自分が働いている姿を想像してみた。
　リアさんみたいに素敵な笑顔でお客さんと接することが出来るだろうか。
　こんな美味しいコーヒーをルリさんみたいに淹れられるだろうか。
　色々頭の中で妄想するのが楽しかった。

　アランはサーナが妄想に浸り始めた風に見えたのを確認すると思わず笑みをこぼす。
　二人で他愛もない話している時間はあっという間に過ぎていきお客はアランとサーナだけになっていた。
　それを見計らっていたのだろうか。
　ルリとリアが二人の元にやってきた。

「そろそろ、お話をしたいんだけど良いかい？」
「あ、はい。大丈夫ですよ。」

　ルリが尋ねるとサーナは快諾した。
　ルリはアランの隣の椅子に座ろうとして立ち止まった。

「ああ、そうだ。二人が隣同士の方が良いかね」
「え？　えっと……」
「じゃあ、それで」

　ルリの問いかけにサーナは動揺し、口ごもった。
　それを見てアランはすっと立ち上がって、サーナの隣の椅子に移動した。
　サーナは反射的にアランから目をそらしたが内心嬉しく表情を緩ませた。
　ルリとリアは二人と向かい合うように座った。

「それでサーナちゃんには話したんだけどもサーナちゃんもアラン君もここで働いてみる気はあるかい？　ただで住み込み出来るよ。ああ、ちゃんと二部屋分空き部屋があるからその辺も大丈夫だしね」

　ルリはにかっと笑いながら話した。
　何が大丈夫なのだろうかとアランは苦笑を浮かべながらサーナの様子をうかがう。

　サーナは即答しなかった。
　少しだけうつむき気味にコーヒーを口に含んで悩んでいる様子であった。
　ルリはあごに手をやって何か思案していた。
　そして、おもむろに立ち上がると店の扉を開けて扉に引っかけてあったオープンの札を反対にしてクローズの方を向けて扉を閉めた。
　ルリの思わぬ行動に三人は驚く。
　ルリは微笑みながら戻ってきた。

「焦って考える必要はないよ。今、閉店扱いにしておいたから。そうだねえ、せっかくだから厨房と部屋を見てみるかい」
「良いんですか？」
「もちろんだとも。じゃあ、アラン君。ちょっとサーナちゃんを借りるからね」
「え、あ、はい」

　ルリはサーナに優しく声をかけながらリアに目配せをする。
　それで意図を察したリアは小さく頷いた。
　アランは展開が早すぎて終始動揺していた。
　そして、そのままルリはサーナの手を取り厨房がある奥の部屋へと向かった。