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【第二章】町での日々
町の喫茶店
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翌日、サーナはアランに断りを入れて一人で町をまわってみることにした。
アランはサーナを一人にするのが心配だったのでこっそりと後をつけていくこととした。
アランはお金の心配をしなくて良いと言ってくれたし、この町での仕事も探し始めるのを聞いていたのでサーナ自身がお金を稼ぐ必要はなかったのかもしれない。
だけど、サーナはアランに自分の面倒を見てくれるお礼をしたかった。
「そのためにはどこかで働いてお金を稼がないと……」
そう考えながら色んな店をのぞき込んで人手を必要としているところがないか探していたのである。
今まで、そういうことをしてこなかったのでどう探せば良いかもよく分かっていなかった。
訪れたお店で恐る恐る店員に声をかけたりしてみたが上手くいっていなかった。
そんなサーナの様子を遠くからアランは不安そうに見ていた。
いつの間にか日も高くなりサーナはおなかが空いてきた。
アランから昼食代としてお金を少しもらっていた。
服のポケットの中でそれを触りながらどこかでご飯にしようと考えながら辺りをきょろきょろしていた。
ふと、鼻をくすぐる良いにおいがただよってきた。
サーナは辺りを見回し、そのにおいの元を探す。
においの元をたどり着いた建物。
そこは喫茶店であった。
お店の前に立て看板があり、サンドイッチなど軽食も充実しているようであった。
サーナは少し悩んだ後、ここで食事をとることに決めた。
恐る恐る、扉を開くとこぢんまりとした店内にはそこそこのお客さんが入っていた。
「いらっしゃいませ」
「あ、あの、一人です」
すぐに若い女性の店員さんがサーナに声をかける。
店員はサーナに近づいて一瞬だけ眉をあげて、動きを止めた。
サーナはおどおどしながら答える。
店員ははっとしてすぐに笑みを浮かべた。
「では、こちらのお席どうぞ」
店員に言われるまま、サーナはカウンター席の端っこに座る。
カウンターの中では店主であろうか白髪のおばあさんが常連客と話しながらコーヒーを淹れていた。
先ほどの店員がサーナにメニューを渡した。
サーナはメニューを見て、ハムサンドとコーヒーを頼むことにした。
サーナの注文を聞くと店員は店主に声をかけて自分は奥の厨房へと入っていった。
サーナはぼんやりと店内を見回してみる。
テーブル席では楽しそうに談笑しているおばさんたちがいたり、カウンター席には一人で本を読みながらコーヒーを飲んでいる人、店主と話し込んでいる人、美味しそうに黙々と食事をとっている人がいた。
極端にうるさくなく、ほどよいにぎやかさにサーナはほっとしていた。
「コーヒー、おまちどおさま」
「あ、ありがとうございます」
しばらくすると、店主のおばあさんがサーナにコーヒーを差し出してくれた。
おばあさんはサーナの顔を見て、少し首をかしげた。
「お嬢さん、見ない顔だねぇ。旅のお方かい?」
「あ、えっと、はい。数日前にこの町に来たんです」
サーナは話しかけられて動揺した。
しどろもどろになりながら質問に答える。
おばあさんは頷いた。
「そうかいそうかい。私はルリ。ここのマスターだよ。この町は良い町だよ。ゆっくり過ごしておいき」
「あ、はい」
そんな話をしていると店員がハムサンドを厨房から持ってきた。
それをサーナに差し出す。
「はい、ハムサンドお待たせしました」
「あ、そうそう。で、この子がうちの看板娘のリアだよ。リア、この子は旅のお方で、えっと、お名前は何だったかね?」
「あ、私はサーナと言います。よろしくお願いします」
「え? あ、リアです。よろしくね」
サーナは名前を名乗って頭を下げた。
リアと呼ばれた店員は一瞬状況が分からなかったがサーナに頭を下げて挨拶した。
そこで、ようやくサーナはコーヒーに口をつけることが出来た。
香ばしい香りをかぎながらコーヒーを口に含むと苦みが先行するがその後に甘みと酸味がちょうどいい加減で伝わって後味に嫌みはなかった。
「美味しいです」
「そうかいそうかい。それはよかった。それじゃあ、どうぞごゆっくりね」
そういうとルリはカウンター席の常連客との会話を再開した。
サーナは二口目のコーヒーに口をつけた。
やっぱり、美味しい。
コーヒーのことなんて詳しくないがそう思った。
リアはしばし、サーナの様子を見てから口を開いた。
「えっと、サーナちゃんって呼んで大丈夫かしら。旅人さんだそうだけども、女の子一人で大変じゃない?」
「え? あ、えっと、私一人じゃなくて一緒に居てくれる人がいまして……」
サーナはなんとなく恥ずかしさを感じてうつむき気味に答えた。
それを聞き、リアは眉をひそめた。
「一緒に居る人が居るのね。男の人?」
「え、あ、はい。そうです。数日前に出会って怪我をしていた私を心配してくれてそれ以来、一緒にいてくれる優しい人なんです」
サーナは踏み込んだ質問に対して動揺しながら答える。
アランのことを思い出して表情を緩ませる。
それをごまかすようにコーヒーを飲んだ。
リアはあごに手をやり、なにやら思案する。
「初対面の人にこういうこと言うのもあれなんだけど、急に出会って一緒に居るって、その男の人って大丈夫なのかしら? もしかしたら、悪い人かもしれないわよ」
リアは率直な疑問を問いかける。
サーナは一瞬で真顔になった。
そのとき、リアはサーナの雰囲気が冷たく変わるのを感じた。
リアは背筋がぞくっとするのを感じて慌てて手を体の前で振り否定の意を表した。
「ごめんなさい。会っても居ない人を悪く言うなんて失礼だったわね。その人はサーナちゃんにとって大切な人なのにごめんなさい」
リアが頭を下げるとサーナの雰囲気は元に戻り、逆にサーナが慌てた。
「た、大切な人って、確かにそうですけど」
そう言いながらサーナは指を組んだりしてそわそわする。
その姿を見て、リアは肩の力を抜いた。
「その人がどういう人なのか気になるし、今度、良かったらその男の人も連れて来てくれると嬉しいわ」
「あ、はい。ここのコーヒー美味しいので紹介したいと思います。あ、ハムサンドも美味しい」
サーナはハムサンドも口にして笑顔を見せた。
リアもつられて笑顔になった。
「ふふ、楽しみにしているわね。それじゃあ、あまり話しをするのも悪いからこの辺で。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
リアはそう言って厨房に入っていった。
サーナは無意識に緊張していたので張り詰めていた緊張を解くように息を吐いた。
サーナはコーヒーの香ばしい香りに包まれながら穏やかな昼食を楽しんだ。
アランはサーナを一人にするのが心配だったのでこっそりと後をつけていくこととした。
アランはお金の心配をしなくて良いと言ってくれたし、この町での仕事も探し始めるのを聞いていたのでサーナ自身がお金を稼ぐ必要はなかったのかもしれない。
だけど、サーナはアランに自分の面倒を見てくれるお礼をしたかった。
「そのためにはどこかで働いてお金を稼がないと……」
そう考えながら色んな店をのぞき込んで人手を必要としているところがないか探していたのである。
今まで、そういうことをしてこなかったのでどう探せば良いかもよく分かっていなかった。
訪れたお店で恐る恐る店員に声をかけたりしてみたが上手くいっていなかった。
そんなサーナの様子を遠くからアランは不安そうに見ていた。
いつの間にか日も高くなりサーナはおなかが空いてきた。
アランから昼食代としてお金を少しもらっていた。
服のポケットの中でそれを触りながらどこかでご飯にしようと考えながら辺りをきょろきょろしていた。
ふと、鼻をくすぐる良いにおいがただよってきた。
サーナは辺りを見回し、そのにおいの元を探す。
においの元をたどり着いた建物。
そこは喫茶店であった。
お店の前に立て看板があり、サンドイッチなど軽食も充実しているようであった。
サーナは少し悩んだ後、ここで食事をとることに決めた。
恐る恐る、扉を開くとこぢんまりとした店内にはそこそこのお客さんが入っていた。
「いらっしゃいませ」
「あ、あの、一人です」
すぐに若い女性の店員さんがサーナに声をかける。
店員はサーナに近づいて一瞬だけ眉をあげて、動きを止めた。
サーナはおどおどしながら答える。
店員ははっとしてすぐに笑みを浮かべた。
「では、こちらのお席どうぞ」
店員に言われるまま、サーナはカウンター席の端っこに座る。
カウンターの中では店主であろうか白髪のおばあさんが常連客と話しながらコーヒーを淹れていた。
先ほどの店員がサーナにメニューを渡した。
サーナはメニューを見て、ハムサンドとコーヒーを頼むことにした。
サーナの注文を聞くと店員は店主に声をかけて自分は奥の厨房へと入っていった。
サーナはぼんやりと店内を見回してみる。
テーブル席では楽しそうに談笑しているおばさんたちがいたり、カウンター席には一人で本を読みながらコーヒーを飲んでいる人、店主と話し込んでいる人、美味しそうに黙々と食事をとっている人がいた。
極端にうるさくなく、ほどよいにぎやかさにサーナはほっとしていた。
「コーヒー、おまちどおさま」
「あ、ありがとうございます」
しばらくすると、店主のおばあさんがサーナにコーヒーを差し出してくれた。
おばあさんはサーナの顔を見て、少し首をかしげた。
「お嬢さん、見ない顔だねぇ。旅のお方かい?」
「あ、えっと、はい。数日前にこの町に来たんです」
サーナは話しかけられて動揺した。
しどろもどろになりながら質問に答える。
おばあさんは頷いた。
「そうかいそうかい。私はルリ。ここのマスターだよ。この町は良い町だよ。ゆっくり過ごしておいき」
「あ、はい」
そんな話をしていると店員がハムサンドを厨房から持ってきた。
それをサーナに差し出す。
「はい、ハムサンドお待たせしました」
「あ、そうそう。で、この子がうちの看板娘のリアだよ。リア、この子は旅のお方で、えっと、お名前は何だったかね?」
「あ、私はサーナと言います。よろしくお願いします」
「え? あ、リアです。よろしくね」
サーナは名前を名乗って頭を下げた。
リアと呼ばれた店員は一瞬状況が分からなかったがサーナに頭を下げて挨拶した。
そこで、ようやくサーナはコーヒーに口をつけることが出来た。
香ばしい香りをかぎながらコーヒーを口に含むと苦みが先行するがその後に甘みと酸味がちょうどいい加減で伝わって後味に嫌みはなかった。
「美味しいです」
「そうかいそうかい。それはよかった。それじゃあ、どうぞごゆっくりね」
そういうとルリはカウンター席の常連客との会話を再開した。
サーナは二口目のコーヒーに口をつけた。
やっぱり、美味しい。
コーヒーのことなんて詳しくないがそう思った。
リアはしばし、サーナの様子を見てから口を開いた。
「えっと、サーナちゃんって呼んで大丈夫かしら。旅人さんだそうだけども、女の子一人で大変じゃない?」
「え? あ、えっと、私一人じゃなくて一緒に居てくれる人がいまして……」
サーナはなんとなく恥ずかしさを感じてうつむき気味に答えた。
それを聞き、リアは眉をひそめた。
「一緒に居る人が居るのね。男の人?」
「え、あ、はい。そうです。数日前に出会って怪我をしていた私を心配してくれてそれ以来、一緒にいてくれる優しい人なんです」
サーナは踏み込んだ質問に対して動揺しながら答える。
アランのことを思い出して表情を緩ませる。
それをごまかすようにコーヒーを飲んだ。
リアはあごに手をやり、なにやら思案する。
「初対面の人にこういうこと言うのもあれなんだけど、急に出会って一緒に居るって、その男の人って大丈夫なのかしら? もしかしたら、悪い人かもしれないわよ」
リアは率直な疑問を問いかける。
サーナは一瞬で真顔になった。
そのとき、リアはサーナの雰囲気が冷たく変わるのを感じた。
リアは背筋がぞくっとするのを感じて慌てて手を体の前で振り否定の意を表した。
「ごめんなさい。会っても居ない人を悪く言うなんて失礼だったわね。その人はサーナちゃんにとって大切な人なのにごめんなさい」
リアが頭を下げるとサーナの雰囲気は元に戻り、逆にサーナが慌てた。
「た、大切な人って、確かにそうですけど」
そう言いながらサーナは指を組んだりしてそわそわする。
その姿を見て、リアは肩の力を抜いた。
「その人がどういう人なのか気になるし、今度、良かったらその男の人も連れて来てくれると嬉しいわ」
「あ、はい。ここのコーヒー美味しいので紹介したいと思います。あ、ハムサンドも美味しい」
サーナはハムサンドも口にして笑顔を見せた。
リアもつられて笑顔になった。
「ふふ、楽しみにしているわね。それじゃあ、あまり話しをするのも悪いからこの辺で。どうぞ、ごゆっくりお過ごしください」
リアはそう言って厨房に入っていった。
サーナは無意識に緊張していたので張り詰めていた緊張を解くように息を吐いた。
サーナはコーヒーの香ばしい香りに包まれながら穏やかな昼食を楽しんだ。
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