絶海の孤島で生きる者たち

【第一章】家出少女

温かい食事

　賑わいを見せる町中をカイルとライリは歩いて行く。
　ライリは好奇心に満ちた目で辺りをきょろきょろ見回しながら歩く。

「前見て歩かないと危ないぞ」

　少し後ろを歩いていたカイルは苦笑しながらライリに声をかける。
　ライリはその声にはたっと立ち止まり、辺りの様子を確認してカイルの方を振り向く。

「えへへ、嬉しくてつい」

　微笑むライリを見て、カイルはまたどきっとする。
　ライリの微笑みは美しくかわいらしげに見え、カイルにとって魅力的に思えた。
　カイルは自分を落ち着かせるように息を吐いた。
　歩き出したカイルの横にライリはぴったりくっついて一緒に歩いて行く。
　ライリにとっては、それだけで十分楽しい時間のように感じられた。
　二人はまず腹ごしらえをすることを決めて、お店を目指した。

「さあ、ついたぞ」

　二人は小さな喫茶店の前で立ち止まる。
　ライリは建物を眺め、扉の向こうから漂うコーヒーの香ばしい匂いをかぐ。
　その仕草を見てカイルは微笑みながらゆっくり扉を開けた。

「いらっしゃい。おや、カイル君じゃないの。可愛いお嬢さんを連れてどうしたんだい？」
「おばさん、こんにちは。この子は迷子なんですよ。この子の家まで連れて行くがてら食事をしようと思いまして」
「おやおや、そうかいそうかい。お嬢ちゃん、ゆっくりしていってね」
「あ、はい。ありがとうございます」

　二人が店の中に入ると店員のおばさんが声をかけてきた。
　カイルとおばさんが親しげに話す中、ライリは気迫におされて少し身を引いてぺこりと頭を下げた。
　二人はおばさんの案内でテーブル席に座った。
　ライリは少し落ち着いてから店内を興味深げに軽く見回す。
　コーヒーの匂い、食べ物の匂い、木組みの建物自体の匂い、様々な匂いがライリの鼻孔をくすぐり好奇心をかき立てる。
　カイルはしばらくその様子を見た後、ライリにメニュー表を渡した。

「さあ、食べたいもの、食べて良いからな」
「わあ、色々あるんですね……えっと、おすすめとかってありますか？」
「おすすめか。そうだな、俺はここに来たら大体オムライスかハンバーグを食べるかな。どっちもうまいぞ」
「じゃあ、オムライスにします」
「それじゃあ、俺はハンバーグにするかな」

　ライリは目をきらきらさせながら元気よく返事をする。
　カイルはそんなライリの表情を見て、自然と笑みがこぼれる。
　カイルがおばさんに注文をし、出来上がりを待つ。

　10分ほどすると二人の元へ食事が運ばれてきた。

「わあ、とても美味しいです」
「それはよかった」

　ライリは出てきたオムライスに興奮しつつも礼儀正しく綺麗に食べていく。
　カイルはその仕草を見ながら、出会ったときの態度も含めてライリが普通の子ではないという感覚を覚えていたが嬉しそうなライリの笑顔を見ている内に余計なことを考えることを辞めて食事に専念することにした。
　最初の内は緊張していたライリも美味しい食事で気が楽になったのか、年相応の自然体で振る舞えるようになっていった。

　時折、他愛もない話をしながら二人は楽しい食事の時間を過ごした。