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襲撃
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夕飯の用意が終わる頃、真実から今日帰ってこれることになったと連絡をもらい、急遽浅川さんと車で駅まで迎えに行くことになった。
「透クン本当にワルイわねっ」
浅川さんはそう言いながら、でもホッとしたような顔をしていた。
……やはり真実がいないのは不安だったのだろう。
少しでも早く真実の顔を見たい浅川さんの気持ちはよくわかった。
もう夕飯の用意も済んでいるし、せっかくだからこのまま四人で今日は夕飯を済ませよう。
泉もあと1時間ほどすれば家に帰ってくるはずだ。
駅のそばの駐車場に車を停めて、浅川さんと歩く。
「でも良かったねえ、やっぱり真実も浅川さんと離れたくなかったんだね」
予定より二日も早く予定を繰り上げて帰ってくる事を考えると……真実も無理をしていなければいいのだが……
「ホントよ、別に大丈夫なのに……」
そう言いながらも浅川さんはニコニコしていた。
……真実……幸せそうだなあ……
思わず嬉しくなる。
長年自分の幸せより俺たちの幸せを考えてくれていた真実にもようやく大事な家族ができた。
これからはオレが真実と、真実の家族の幸せを守ってあげれるようになりたい……そう思った。
★
「唯!透っ!!」
駅の改札口に向かっているとちょうど真実が出てきた。
少し大きめの鞄を持った真実が空いている方の手を振りながら小走りに走ってくるのが見えた。
「おかえりなさいっ」
隣にいた浅川さんが嬉しそうに駆け寄ろうとするのを止めようと思った。
「走ったら危ないよ、ゆっくり……」
そう言いかけた瞬間、腰の辺りに重い衝撃を受けた。
?
誰かにぶつかってしまったのだろう。
「あっ、すみませんっ……」
咄嗟に謝りながら振り返ろうとして、身体の動きが悪いことに気づいた。
……なんだろう?何かに固定されたような……
そう思いながらなんとか振り返る。
……そこにはニヤニヤと笑う男が、不自然なほどに至近距離にいた。
……!?
なんで?!
そう思いながら、この男を初めて見るわけではないと気づく。
コイツは……つい先日絡まれたばかりの浅川さんの……
「おまえ……消えろよ」
浅川さんの元旦那……吉田はそう言いながらオレを見ながら笑う。
吉田がふっとオレから一歩離れる。
オレの身体は自由を取り戻す。
しかし腰の辺りが熱を持ったように熱くなっていく。
……なんだ?!
咄嗟に腰に触れ、手がヌルッとしたことに驚く。
手……何が?
視線を落とそうとして、その時吉田が血塗れのナイフを持っていることに気づく。
……?
まさかアレで?
視線を落とすと手のひらが真っ赤な血で染まっていた。
「っつ!!」
刺されたことに気づいた瞬間から立っていられない程の眩暈と吐気に襲われる。
全ての音が消え去り、視界は暗くなる。
一瞬で気を失いそうになっていた。
「っっつ!!!」
その場に座り込み、なんとか意識を保つ。
そんなオレのそばに吉田が歩み寄ってくる気配がした。
……このままではマズイ。
避けなくては……
「透クンっ!!」
隣にいた浅川さんがオレの肩に触れた。
そうして吉田から守ろうとしてくれたのかオレに覆いかぶさってくる。
「透クンは関係ないっ!!」
浅川さんの声が聞こえた事にハッとする。
……浅川さんを守らなければ!!
何とか頭を上げ、吉田を見上げる。
ちょうど吉田が悍ましい笑みを浮かべながら血塗れたナイフを振り上げていた。
……コイツまさか浅川さんまで……
まだ若かった浅川さんを、金の力でねじ伏せ自分のものとした。
あの頃の自分達は権力や力に屈し、息を潜めて耐えることしか出来なかった。
生まれた時から世の中は権力や金を持っている人間たちが牛耳り、何も持たない者は抗うことすらできず、ひたすらに耐えるしかない。
それでも何とか生きてきたのに、コイツはこれ以上に奪っていこうとしているのだ。
……吉田が憎くて憎くてたまらなかった。
折角真実と浅川さんは幸せな道を歩もうとしている時に……
真実はオレの大事な親友であり、感謝しても仕切れないほどの恩がある。
……こんなオレに……泉と暮らせる幸せをくれた。
いつも励ましてくれて、守ってくれた真実の……幸せを絶対に守りたい!!
咄嗟に立ち上がりながら振り下ろされるナイフを反射的に掴もうとした。
しかし僅かに間に合わなかった。
左の掌を抉られたような衝撃を受ける。
ググッと腕が痙攣する。
「透クンっ!!」
しゃがみ込んでいる浅川さん……何とかナイフは止められたようだった。
しかし何一つも余裕はない。
必死に吉田を睨みながら手に力を込める。
「浅川さん、早く逃げろ!!」
そう伝えながらナイフを振り下ろそうとする吉田に拮抗する。
絶対……諦めるわけにはいかない。
この手を……死んでも離すわけにはいかなかった。
「透っ!!」
真実の声が近づいてくるのに気づく。
かあっと全身が酷く熱い、燃え上がるような、血液が沸騰していくような感覚があった。
……絶対に2人を守りたい!!
腕はそろそろ限界のようだ。
ブルブルと震え始め、ふと視界にはいった手に意識を向ける。
……左手にナイフの刃が貫通していた。
しかし何も感じなかった。
ただひたすらにナイフをとめることだけを考え続ける。
その時ふっと吉田の視線が浅川さんに注がれたのに気づく。
……これはマズイ!!
標的を変えようとしているのはだろうか?
「透っ!!!」
すぐ背後で真実の声がする。
吉田の視線が今度は背後にいる真実に注がれていくのがわかった。
吉田は標的を真実に変えたのかふっとナイフを持つ手の力が抜ける。
……もう猶予はなかった。
掌からナイフが勢いよく抜かれ、血がぼたぼたと流れ落ちる。
オレは何とか体勢を立て直し、吉田の身体めがけて思い切り体当たりをした。
「うぐわっ!!」
吉田の身体にぶつかった瞬間酷く刺された箇所に熱さと痛みを感じる。
次の瞬間には床が視界に入った。
体当たりは上手くいったのか2人揃って床に転がったようだ。
もう何が何だかわからなかったが吉田の身体に馬乗りになって首を締め上げる。
その瞬間再び脇腹に衝撃を受けた。
運が悪い事に吉田はナイフを持ったままだったようだ。
もう確認するまでもない。
痛みから逃れようとする反射だったのかそのまま何度も吉田の首を絞めながら床に叩きつける。
絶対コイツだけは赦さない!!
ぜったい、絶対にだ!
「おい!透っ!!もういいから手を離せっ!!お前血がっ!!」
不意に背中を抱きしめられ、吉田から引き離される。
「シンジっ!まだっ!!」
吉田は未だナイフを持っている!!
全身の力を込めて吉田の首を……
「もうとっくに気絶してるからっ!!いいから力抜けっ!!」
そう言われて我にかえり手を離して吉田を見る。
床に頭をぶつけて気絶したのか首を絞められたからなのかはわからなかったがぐったりと吉田は床に転がる。
「っ……」
もう大丈夫か?
身体から力が抜ける。
力強い真実の腕に抱き止められ、何とか起きあがろうと思ったが身体がいうことをきかなくなっていることに気づいた。
不思議な事にさっきまでの痛みは全く感じなくなっていた。
と同時に酷い寒気を感じる。
ブルブルと身体は勝手に震え始め、視界は暗くなっていく。
「透っ!!透っ!!」
真実がオレを見下ろしながら声を荒げる。
しかしその声すらだんだん聞こえなくなっていき、視界は真っ暗になった。
最後に思い浮かんだのは今朝の不安そうな顔をした泉のことだった。
「シンジ……いずみのこと……」
ちゃんと言えたのかはわからなかった。
ぽたぽたと熱い何かがオレの頬に当たっては流れ落ちていった。
「透クン本当にワルイわねっ」
浅川さんはそう言いながら、でもホッとしたような顔をしていた。
……やはり真実がいないのは不安だったのだろう。
少しでも早く真実の顔を見たい浅川さんの気持ちはよくわかった。
もう夕飯の用意も済んでいるし、せっかくだからこのまま四人で今日は夕飯を済ませよう。
泉もあと1時間ほどすれば家に帰ってくるはずだ。
駅のそばの駐車場に車を停めて、浅川さんと歩く。
「でも良かったねえ、やっぱり真実も浅川さんと離れたくなかったんだね」
予定より二日も早く予定を繰り上げて帰ってくる事を考えると……真実も無理をしていなければいいのだが……
「ホントよ、別に大丈夫なのに……」
そう言いながらも浅川さんはニコニコしていた。
……真実……幸せそうだなあ……
思わず嬉しくなる。
長年自分の幸せより俺たちの幸せを考えてくれていた真実にもようやく大事な家族ができた。
これからはオレが真実と、真実の家族の幸せを守ってあげれるようになりたい……そう思った。
★
「唯!透っ!!」
駅の改札口に向かっているとちょうど真実が出てきた。
少し大きめの鞄を持った真実が空いている方の手を振りながら小走りに走ってくるのが見えた。
「おかえりなさいっ」
隣にいた浅川さんが嬉しそうに駆け寄ろうとするのを止めようと思った。
「走ったら危ないよ、ゆっくり……」
そう言いかけた瞬間、腰の辺りに重い衝撃を受けた。
?
誰かにぶつかってしまったのだろう。
「あっ、すみませんっ……」
咄嗟に謝りながら振り返ろうとして、身体の動きが悪いことに気づいた。
……なんだろう?何かに固定されたような……
そう思いながらなんとか振り返る。
……そこにはニヤニヤと笑う男が、不自然なほどに至近距離にいた。
……!?
なんで?!
そう思いながら、この男を初めて見るわけではないと気づく。
コイツは……つい先日絡まれたばかりの浅川さんの……
「おまえ……消えろよ」
浅川さんの元旦那……吉田はそう言いながらオレを見ながら笑う。
吉田がふっとオレから一歩離れる。
オレの身体は自由を取り戻す。
しかし腰の辺りが熱を持ったように熱くなっていく。
……なんだ?!
咄嗟に腰に触れ、手がヌルッとしたことに驚く。
手……何が?
視線を落とそうとして、その時吉田が血塗れのナイフを持っていることに気づく。
……?
まさかアレで?
視線を落とすと手のひらが真っ赤な血で染まっていた。
「っつ!!」
刺されたことに気づいた瞬間から立っていられない程の眩暈と吐気に襲われる。
全ての音が消え去り、視界は暗くなる。
一瞬で気を失いそうになっていた。
「っっつ!!!」
その場に座り込み、なんとか意識を保つ。
そんなオレのそばに吉田が歩み寄ってくる気配がした。
……このままではマズイ。
避けなくては……
「透クンっ!!」
隣にいた浅川さんがオレの肩に触れた。
そうして吉田から守ろうとしてくれたのかオレに覆いかぶさってくる。
「透クンは関係ないっ!!」
浅川さんの声が聞こえた事にハッとする。
……浅川さんを守らなければ!!
何とか頭を上げ、吉田を見上げる。
ちょうど吉田が悍ましい笑みを浮かべながら血塗れたナイフを振り上げていた。
……コイツまさか浅川さんまで……
まだ若かった浅川さんを、金の力でねじ伏せ自分のものとした。
あの頃の自分達は権力や力に屈し、息を潜めて耐えることしか出来なかった。
生まれた時から世の中は権力や金を持っている人間たちが牛耳り、何も持たない者は抗うことすらできず、ひたすらに耐えるしかない。
それでも何とか生きてきたのに、コイツはこれ以上に奪っていこうとしているのだ。
……吉田が憎くて憎くてたまらなかった。
折角真実と浅川さんは幸せな道を歩もうとしている時に……
真実はオレの大事な親友であり、感謝しても仕切れないほどの恩がある。
……こんなオレに……泉と暮らせる幸せをくれた。
いつも励ましてくれて、守ってくれた真実の……幸せを絶対に守りたい!!
咄嗟に立ち上がりながら振り下ろされるナイフを反射的に掴もうとした。
しかし僅かに間に合わなかった。
左の掌を抉られたような衝撃を受ける。
ググッと腕が痙攣する。
「透クンっ!!」
しゃがみ込んでいる浅川さん……何とかナイフは止められたようだった。
しかし何一つも余裕はない。
必死に吉田を睨みながら手に力を込める。
「浅川さん、早く逃げろ!!」
そう伝えながらナイフを振り下ろそうとする吉田に拮抗する。
絶対……諦めるわけにはいかない。
この手を……死んでも離すわけにはいかなかった。
「透っ!!」
真実の声が近づいてくるのに気づく。
かあっと全身が酷く熱い、燃え上がるような、血液が沸騰していくような感覚があった。
……絶対に2人を守りたい!!
腕はそろそろ限界のようだ。
ブルブルと震え始め、ふと視界にはいった手に意識を向ける。
……左手にナイフの刃が貫通していた。
しかし何も感じなかった。
ただひたすらにナイフをとめることだけを考え続ける。
その時ふっと吉田の視線が浅川さんに注がれたのに気づく。
……これはマズイ!!
標的を変えようとしているのはだろうか?
「透っ!!!」
すぐ背後で真実の声がする。
吉田の視線が今度は背後にいる真実に注がれていくのがわかった。
吉田は標的を真実に変えたのかふっとナイフを持つ手の力が抜ける。
……もう猶予はなかった。
掌からナイフが勢いよく抜かれ、血がぼたぼたと流れ落ちる。
オレは何とか体勢を立て直し、吉田の身体めがけて思い切り体当たりをした。
「うぐわっ!!」
吉田の身体にぶつかった瞬間酷く刺された箇所に熱さと痛みを感じる。
次の瞬間には床が視界に入った。
体当たりは上手くいったのか2人揃って床に転がったようだ。
もう何が何だかわからなかったが吉田の身体に馬乗りになって首を締め上げる。
その瞬間再び脇腹に衝撃を受けた。
運が悪い事に吉田はナイフを持ったままだったようだ。
もう確認するまでもない。
痛みから逃れようとする反射だったのかそのまま何度も吉田の首を絞めながら床に叩きつける。
絶対コイツだけは赦さない!!
ぜったい、絶対にだ!
「おい!透っ!!もういいから手を離せっ!!お前血がっ!!」
不意に背中を抱きしめられ、吉田から引き離される。
「シンジっ!まだっ!!」
吉田は未だナイフを持っている!!
全身の力を込めて吉田の首を……
「もうとっくに気絶してるからっ!!いいから力抜けっ!!」
そう言われて我にかえり手を離して吉田を見る。
床に頭をぶつけて気絶したのか首を絞められたからなのかはわからなかったがぐったりと吉田は床に転がる。
「っ……」
もう大丈夫か?
身体から力が抜ける。
力強い真実の腕に抱き止められ、何とか起きあがろうと思ったが身体がいうことをきかなくなっていることに気づいた。
不思議な事にさっきまでの痛みは全く感じなくなっていた。
と同時に酷い寒気を感じる。
ブルブルと身体は勝手に震え始め、視界は暗くなっていく。
「透っ!!透っ!!」
真実がオレを見下ろしながら声を荒げる。
しかしその声すらだんだん聞こえなくなっていき、視界は真っ暗になった。
最後に思い浮かんだのは今朝の不安そうな顔をした泉のことだった。
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