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しまなみ海道を越えて

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 「ああ、泉に会いたいなあ……」

 そう言うと真実は呆れたようにオレを見つめた。

 「お前なあ、今朝泉と別れたばかりだろ?」

 「そうだけど……泉と離れるのなんて久しぶりすぎて……そろそろ夕飯かなあ。泉ちゃんとご飯食べてるかしら?ちょっと電話して来ていい?」

 「……後にしろよ、泉だって今メシ食ってる頃だろ?邪魔になるぞ?」

 そう言われてしまい、今は電話するのを諦める。
 
 真実に腕を引かれて今夜の宿泊先のホテルの部屋に向かう。

 
 今夜の宿泊先は檸檬で有名な島である。

 あちこちには檸檬の木が植えられていて、気のせいか島全体が檸檬の香りに包まれているような気がした。

 部屋に荷物を置いてから部屋付きの露天風呂に入る。

 「うわあ!すごいっ!檸檬風呂っ!!」

 思わず声を上げると真実が笑う。
 
 「肌がすべすべになって、良いらしいぞ。女はこう言うのが好きみたいだな」

 「たくさん檸檬が入ってて、良い匂いっ」

 確かここは泉が入りたがっていたお風呂だ。

 旅行雑誌を見ながら泉が付箋を貼り付けていたはずである。

 「まあ、次は泉と来いよ。良い部屋予約しておくから」

 真実は身体を洗い終えると檸檬風呂に入り始めた。

 「熱いな……」

 そう呟く真実の隣に入り、檸檬の香りの湯に身体を沈める。

 「本当だ。でも気持ちいいっ…!」

 檸檬風呂に浸かりながら瀬戸内の海を眺める。

 海は穏やかで、静かな波の音が辺りに響いていた。

 暗くなった水平線に船の灯りらしきものがチラチラと光っている。

 「お前が女だったら、俺が一生大事に守ってやれたのにな」

 真実がぼそりとそんな事を言う。

 「えっ?」

 なんと言っていいか分からず戸惑っていると真実は更に続ける。

 「お前が女だったら無理矢理にでも俺の女にして、離さなかっただろう」

 真実はそう言いながらふっと笑ったのでオレのことを揶揄っているのかなと思った。

 「まあでもオレ男だしさ。あ、でも逆に真実が女の子だったらすっごい美人さんなんだろうね。泉が2人いるような感じかな。そんなの幸せ過ぎるんだけど」

 2人になった泉……

 想像するとドキドキが止まらない。

 毎日一緒に寝起きして、エッチだって3人で……

 「……いいねえ」

 勝手に妄想してしまう。

 「そしたら多分お前の取り合いだろうな。性格から言ってまずお前を共有とか無理だな。俺も泉もお前を自分だけのものにしようって争うぞ、多分」

 ゾッとするような事を言う真実。

 泉と真実に両手を引っ張られる想像をする。
 
 最終的にオレ……真ん中から裂かれちゃうかも……

 そんな妄想を抱き、恐怖に囚われる。

 真実は揶揄うようにオレに言った。

 「そしたら透はオレと泉どっちを選ぶんだろうな?」

 





 
 「少し呑むか……」

 真実と二人で呑む。
 夕飯は海鮮で溢れていた。
 
 それから檸檬鍋をつつきながら檸檬酒を呑む。

 「この檸檬酒呑みやすいし美味しいっ」

 そう言うと真実がグラスに檸檬酒を注いでくれた。

 「今日は好きなだけ呑めよ。海のお祝いだしな」

 海くんはここにはいなかったけど、まあ勝手にお祝いをする。

 「檸檬の鍋ってさっぱりしてて美味しいんだね、今度家でもやってみよう」

 輪切りのレモンが入ったお鍋は目にもとても鮮やかで、匂いも良い。

 「それに広島はやっぱり牡蠣が美味しいねえっ」

 焼き牡蠣も生牡蠣も、牡蠣フライも美味しいし魚のお刺身も最高だった。

 何だか今まで以上に幸せな気分で一杯になり、美味しいお酒をついつい呑んでしまう。

 つい口も軽くなってしまい、普段なら聞きづらい事も聞いてしまう。

 「ねえシンジ達は結婚式しないの?」

 真実は檸檬酒を自分でグラスに注ぎながら苦笑する。

 「ああ、俺はどっちでも良かったんだ。ただ浅川にドレスは着せたかったから写真撮影だけはするけど。式って言っても浅川の方は呼ぶ親族もいないし、辛い思いさせるだけだろ。浅川がやりたく無いって言ってるしいいんだ」

 「オレの時と一緒か。まあ親族席誰もいないのはね……。なんか泉のお父さんとお母さんには悪い事したと思ってるよ。大事な娘さんの結婚式もしてあげれなかったしさ。本当……」

 真実が微笑んでグラスに檸檬酒を注いでくれる。

 「親達はそんな事気にしてなかったぞ?むしろ泉と俺が結婚できたことを喜んでくれてたし。まあ後は孫でも見せてやればいいだろ」

 真実の一言に不安を隠せなくなりつい言ってしまう。

 「オレ……子供ができない身体なのかもしれない。泉と結婚してもう4年だよ?エッチの時は毎回泉の中に……。でもなかなか……やっぱり一度検査して貰わなきゃな……」

 ずっと悩んできたことを何とか真実に話す。

 「そんなのたまたまだろ。それにもし出来ない身体だったとしても泉は気にしないと思うぞ?」

 真実はそう言いながらオレの背中を撫でてくれた。

 
 


 
 
 
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