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台風の日

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 「んっ…透っ…」

 泉の声で目が覚めた。

 いつの間に部屋に来て一緒に寝たのか、泉が腕の中で眠っていた。

 相変わらずお気に入りのタオルケットを被っている…。

 泉家から持ってきたのか?

 「…透っ…。」

 夢でも見ているのか透の名前を呼びながら眠っている泉。

 「大丈夫だよ。そばにいるから。」

 そう言って泉を抱きしめる。

 「…んっ…大好き。」

 泉は安心したように微笑みながら眠り続ける。

 …。

 …可愛すぎてたまらなかった。

 なんて試練…。

 こんなにかわいい子が近くにいて手を出せないなんて…。  

 胸が熱くなるが同時にすごい幸せだった。

 やっと…自分にも大事だと思える子ができて、その子が好きだと言ってくれる…。

 嬉しくて仕方なくなり、泉の背中に顔を押し当てる。

 「好きだよ。泉…。」



 窓の外からは雨が降る音が聞こえてくる。

 天気…悪くなってきたな…。

 今日は少し遅くまでこのまま寝てよう…。

 

 泉の匂いを胸に吸い込みながら目を閉じる。

 泉の規則正しい寝息を聞いていると再び眠くなってくる。

 泉…あったかいなあ…。



 ★



 頭を撫でられる感触で起きる。

 泉の胸に顔を埋めて眠っていた。

 …。

 泉の胸で撫でられているのはとても幸せすぎて…。

 しばらく寝たフリをする。

 あったかくて柔らかくって…。

 思わずニヤけてしまった。

 「…透…起きてたの?」

 泉が微笑む。

 「…ごめん。幸せ過ぎて…。」

 起きようとしたら泉に止められる。

 「透…いいよ。もう少しこのままで。私も幸せだから。」

 泉が再び頭を撫でてくれ始めたので甘えて泉の胸に顔を埋める。

 「泉…好きだよ。」

 「うん。私も。」

 

 外では激しい雨音が響き始めていたが、ここは安心できる場所だ。
 
 泉の優しさと暖かさに満ちたこの場所からもう離れたくなかった。





 ★



 「おじさん達一度家に戻るって、メシ用意して行ってくれたから食べようぜ?」

 昼前まで寝てしまった透達を真実が見て微笑む。

 真実はすっかり起きて勉強していたようだ。

 「今日はちゃんと休めたか?」

 真実が気にかけてくれる。

 「うん。大丈夫だよ。雨が強くなったね。」

 TVのニュース番組を見る。

 「透…コーヒー牛乳飲む?」
 
 「ありがとう。」

 泉からマグカップを受け取る。

  「…。」

 泉は微笑み隣に座った。




 「台風…直撃しそうだな…。」

 台風の進路予測を見ていたら真実がボソリと呟いた。

 「…そうだね。せっかく旅行中だったのに…。」

 少し残念だった。

 「明日の早朝に来るのかな…。」

 泉が不安そうにしている。

 なんとなく暗い雰囲気での食事になってしまった。

 

 
 家の外は雨足が強くなりつつあった。

 窓に当たる雨粒が大きくなっている気がした。

 「まあ、台風が来ようと来なかろうと課題は終わらせないとな!」

 真実が課題集を取り出した。

 「まあそうだね!せっかくだからさっさと終わらせて残りの期間遊ぼう?」

 泉に笑いかけると嬉しそうに笑い返してくれた。

 3人でテーブルを囲んで課題に取り組む。



 

 3人寄ればなんとやら、夕方には三分の一程終わってしまった。

 「…こんなに進むの速いんなら後二日で終わらせて残りは遊んで過ごそうか?」

 冗談を言ったら真実が笑いながら注意してきた。

 「そんな事したら休み明けのテストまでに全部忘れて酷いことになるぞっ!」

 
 台風への不安を打ち消すように無理矢理笑った。

 







 夕方、管理人のおじさんとおばさんが
カッパを着て戻ってきた。

 カッパを着ていたとはいえずぶ濡れだ。

 「大丈夫ですか?!」

 泉とタオルを二人に渡す。

 「ああ、ありがとう。いや、外はエラい事になっとるっ!」

 

 二人が風邪をひきそうだったのでお風呂に入って着替えてもらう。

 「…本当…雨がすごいし、風が少し出てきた…。」



 今日は早めのお風呂に早めの夕飯。

 一応各部屋に懐中電灯も用意してくれてあった。

 「…真実も…今日は一緒に寝よう?」

 そう言うと真実が面倒くさそうな顔をする。

 「んなもん寝て起きれば通り過ぎてるだろ。いやだぜ暑苦しい。泉と抱き合って寝てろよ。」

 …拒否されてしまった。

 「…泉…今晩もいい?」

 泉を見つめる。

 「うん。私も一人じゃ怖いから…お願い…。」

 泉が赤い顔で服の袖を掴む。

 「…お前ら夜中あんまり大きい声出すなよ?」

 「…??」

 真実がニヤッと笑った。

 「…。」

 こんな不安な状況でそんな事できないよ…。

 そう言いたかったが面倒になり黙った。

 …真実ってば…。

 
 
 
 

 
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