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誕生日(高3 4月)

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 部屋の外……廊下が騒がしくて目を覚ます。

 枕元の時計を確認するとまだ6時過ぎだった。

 ……誰だろう……でも透の声が聞こえたような気がしたんだけど……

 ぼんやりとした意識の中、ベッドから出て部屋のドアを開ける。

 
 部屋の前にいたのは透と、海だった。

 ……珍しい組み合わせだ……そう思ったが視線を落とすと海が透の胸元を掴んでいる。

 「……どうしたの?」

 声を掛けると、2人はハッとしたように振り向く。


 「いずみ、誕生日おめでとう。これ……。今日もオレバイトだからもう行くね」

 透は海の手を解くと私に向き直る。
 
 困ったような顔で、笑顔になった透は綺麗な包装紙に包まれた小さな箱をくれた。

 「透……ありがとう。今日も遅いの?」

 透は微笑む。

 「わかんないけど、多分。だから先に渡しておこうと思って」

 透が私を撫でようと手を差し出す。
 透に触られるのはとても好きだ。
 誰かと触れ合えることがこんなにも嬉しいことだなんて、透と会うまでは気づかなかった。
 
 「いずみに触るなよっ!!」

 横から海の怒鳴り声が聞こえ、透がそっと手を下ろす。

 「……」

 透は困ったように私を見つめたが諦めたように視線を落とす。

 「ちょっと海っ!」

 海は透をよく思っていないようで、透もそんな海が苦手なようだった。

 さすがに今のはちょっと……海を注意しようとしたら真実が部屋から出てくる。

 「朝からなんだよ、うるさいなあ」

 真実がイラついたように海の肩を掴んだ。

 「しかもさっきから聞いてれば……邪魔者はお前の方だぞ海!察しろよ!」

 真実の言葉に海はイラついたようだ。
 海は真実を睨みつけるが真実はふっと鼻で笑う。

 そんな海と真実を見て戸惑ったように透は辺りを見渡し、時計を見てハッとしたようだ。

 「あっ!ヤバイ、バイトに遅れるからオレもう行くね!」 

 海の肩を掴んでいる真実の背中にそっと触れて透はそのまま出かけてしまった。

 「……」

 真実は諦めたように海を離し、何も言わずに私が受け取ったプレゼントを見た。

 「……透はなあ……お前にそれをプレゼントするためにバイト増やしてるんだぞ」

 真実はしばらく透に私が貰ったプレゼントを見つめていた。

 「それは正真正銘アイツが自分の力で稼いだ金で買ったんだ……分かってやってくれよ」

 ため息混じりに真実はそういい、再び自分の部屋に戻って行った。

 ……私はそっと透がくれたプレゼントを胸に抱く。

 ……尊いなあ……

 部屋に戻り、透が何をくれたのか確認したかったが海は私の腕を引く。

 「ねえ泉、俺も泉にプレゼントがあるんだっ!そんなのよりきっと泉は喜んでくれるはずだよっ!」

 ……。

 海にそのままつかまってしまい昼前にやっと解放された。

 少し疲れたから休みたい、そう言って海と別れた。

 

 ★


 
 透がくれたのは青い宝石の眼を持つシルバー細工の猫のネックレスだった。

 猫は精巧に作られていて、可愛らしい。

 太陽の光を受けてキラキラと輝く宝石の瞳はとても美しくて、見ていて飽きない。

 透が最近ずっとバイトが遅くなっていたのはこれのためだったのか……

 そう考えるとこのネックレスはすごく尊く、大切にしなくてはと思えた。

 ……もっとちゃんとお礼を言わなきゃ。

 早く透に会いたくなった。

 

 ……今日も多分遅くなるって言ってたな……

 今日も夕飯をバイト先で済ませてきてしまうのだろう。

 ……海が家に来てからというもの、真実は部活帰りに外で済ませてきてしまうし、透はバイト先で食べてくるので海と二人きりな事が多かった。

 海は楽しそうにニコニコしていたが、正直透と夕飯を食べることが少なくなったことは寂しかった。


 
 ★



 夕飯はおじいちゃんに誘われていた。

 海と真実と3人でおじいちゃんの経営するホテルにお呼ばれし、夕飯を食べた。

 海の話とおじいちゃんの話を聞きながら食事をする。

 真実は一つ空いている席を少し淋しそうに眺めながらつまらなそうにしていた。
 
 「なんだ透クンはバイトなのか、残念だなあ」

 おじいちゃんは透の事がお気に入りのようだ。

 

 食事中、真実はおじいちゃんと何かを話していたが詳しくは聞けなかった。

 しかし帰り際にケーキの入った箱を真実が受け取っていた。

 「透は今日来れなかったけどせめてケーキぐらい食わせたいんだ」

 嬉しそうに真実が微笑む。
 おじいちゃんもそんな真実を見ながら微笑んでいた。

 「あんなヤツ……どうでもいいのに……」

 海の言葉に胸が痛む。
 胸の奥にイヤな気持ちが広がっていく。

 

 「今度は透クンも誘っておいで」

 おじいちゃんに家まで送ってもらった。

 おじいちゃんが別れ際にくれた誕生日のプレゼントは携帯電話の最新機種だった。
 
 おじいちゃんは私だけを呼び止める。

 真実と海が家に入っていくのを眺めながらおじいちゃんは微笑む。

 「泉、透クンとは上手くやってるの?」

 何を言われるのか分からなかったが頷くとおじいちゃんは新しい携帯電話の入った紙袋をもう一つくれた。

 「これ透クンにも渡しておいてくれるかい。渡すタイミングは泉に任せるよ。ほら透クンもう身寄りも保護者ももういないだろ。……透クンだけじゃまだ契約できないだろうしさ。これで透クンと離れてても連絡取れるだろ」

 おじいちゃんは楽しそうに笑う。

 「うん、おじいちゃんありがとうっ、これで透といつでも連絡取れるね。すごく嬉しいっ!」

 透用に預かった携帯電話の入った紙袋を抱きしめる。

 「透クンこれからも大変だろうけど……助けてあげなさい」

 おじいちゃんは微笑み、帰って行った。

 
 本当に良かった。
 これでいつでも透と連絡が取れるようになる。
 本当に嬉しかった。
 ……透早く帰ってこないかな……
 透が帰ってくるのが楽しみだ。

 
 

 ★



 「お前らこれ……先に食えよ」
 真実が持ち帰ったケーキを渡してくる。
 「透が帰ってきてから……」
 透が帰るのを待って一緒に食べたい……そう思ったが……
 「海がまた透になに言い出すか分からないだろ。透に嫌な思いさせたくないんだ。だから先にお前ら食っとけよ」
 真実はそれだけ言うと部屋に戻ってしまった。

 ……私だって透と一緒にケーキ食べたい……
 でも海の事を考えると確かにそうした方が良さそうだった。
 ……疲れて帰ってきた透に嫌な思いをして欲しくなかった。



 海を呼んでケーキを取り分ける。
 「アイツのなんて残さなくていいんじゃない?」
 そんな軽口を叩く海を苦々しく思う。
 やっぱり先に食べてしまうのは正解だったようだ。

  「やっぱりウマイねっ!」
 ニコニコケーキを食べる海を見ながら透の笑顔を思い出す。
 ……透が美味しいって言いながら食べる所見たかったなあ。
 ケーキは美味しかったが透と一緒ならもっと楽しかったはずだ。


 
 
 就寝準備をしながら透の帰りを待つ。
 絶対今日中にお礼を言いたい。
 
 時計を眺めるともう21時を過ぎている。
 ……こんなに遅くまでバイトして……
 なんだか申し訳ない気持ちで一杯だった。

 海に捕まってしまうとまた透と話せなくなってしまう。
 部屋の電気を消して枕元の灯りをつけて本を読む。

 しかしいつの間にか少し眠ってしまっていた様だった。


 ハッとして起きる。
 枕元の目覚まし時計は23時を過ぎていた。
 さすがにもう透帰って来たかな?
 そっと部屋を出て透の部屋を覗く。
 
 部屋の電気は消え、透はいなかった。
 しかし透のいつも使っている鞄が机の上に置かれていた。
 透が朝着ていた上着が畳まれてベッドに置かれているところを見るとお風呂にでも入っているのだろう。

 このままここで待ってようかな。
 透のベッドに腰掛けて、そっと横たわる。
 透のいつも使っている枕に顔を埋めると透の匂いがした。
 ……いい匂いっ

 ものすごく安心して、胸が熱くなる。
 透早く戻ってこないかな。
 そう思いながら透の匂いに包まれて幸せを感じていた。


 
 
 
 
 
 

 
 

 
 

 
 


 

 

 
 

 
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