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12、劇場前
しおりを挟む大きい・・・。
裕の目の前には、高層ビルをバッグに真新しい劇場が存在感も大きく鎮座していた。
それだけで圧倒されてしまうのに、完璧な正装ではないものの、かなりおしゃれをしたたくさんのご婦人方が吸い込まれるように入っていくのを見ていると、どうしても気後れしてしまう。
自分だって普段よりはおしゃれをしてきたつもりだった。
でも、この服装が当たりなのかどうか自信がない。
それでも、昊人のピアノを弾く姿を見てみたい、音を聞いてみたい、その思いだけでここまで来たのだ。
あの日、昊人と別れて家に帰ってから、聞けるなら昊人のピアノを聞いてみたいと思い、ネットで調べてみた。
来月の公演があるが完売していると言っていたので無理だとは思った。
でも、他にも公演があるかもしれない。
知っているキーワードは「昊人」「ピアノ」「来月」・・・他には思い当たらなかった。
それでも、思いのほかすぐに見つかったのは、「昊人」という漢字を知っていたからかもしれない。
名前は、嘉瀬 昊人(かせ こうと)。
4人組のRUPOSER(ルポゼ)というグループに属していた。
RUPOSERはフランス語で休息させる、気分を爽やかにするという意味らしい。
昊人にピッタリだと裕は思った。
ジャンルはクラシック インストゥルメンタルで、担当はピアノ。
CDも4枚発売されていた。
早速、後で注文しようと頭の片隅にタイトルを書き込む。
他にも、出身大学やコンクールの受賞履歴、どこかの有名な外国のオーケストラと競演したことがいろいろわかった。
やっぱり有名な人で、私とは別世界の人なんだ。
別れ際にキスされた頬を手で撫でる。
性格が良さそうで心穏やかそうなイケメンに対して、少しの憧れが灯っていたホワっとして何かが、途端に弾けて無くなった。
でも、折角知り合えたのだからピアノ聞いてみたいなあ。
来月の公演は再開発の地区にできた劇場のこけら落としで1回きりの公演だった。
しかし、評判が良い事や日本でのRUPOSERの公演が1年ぶりということもあって次の日も追加公演になる事が今日発表されていた。
追加公演のチケット発売は明日から。
クラシックはもちろん、アーティストのライブも行った事がない裕。
調べては見たものの、行くか悩む。
行きたい、でも・・・と気持ちが揺れて決心がつかない。
聞いても理解できるかわからないが、クラシックなんて高尚な趣味を持つ事に憧れも感じるし、これから一生1人ならハマる何かがあることは人生を楽しめるようになる気がする。
それに、人気があるのならチケットが手に入らないかもしれないし、申し込むだけ申し込むかな。
そして、取れたら行こう。
夜中の働かない頭で考えて、決めた。
今、裕のバッグには今日の追加公演のチケットがある。
昊人に会うために来たのではない。
昊人のピアノの聞くためにここに来たのだ。
気後れの気分はいっぱい抱えたままだが、1歩、1歩と劇場へ足を進めた。
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