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11、悩み
しおりを挟む「悩みってほどじゃないですけど・・・。私の場合、恋愛に関してですよ。人との出会いやタイミング。」
「ああ、今日、振られたって言ってたね。・・・聞いてもいい?どうして別れたの?ごめんね、デリカシーなくて。」
顔を少し上に上げ、思い出すような仕草をする昊人。
さっきの会話、覚えていてくれたんだ。
そう思ったら、ちゃんと話を聞いてくれる人なんだなあと安心する。
「いいえ。昊人さんとここまでいろいろな話をして歩いてきたからかな、なんだかすっかり忘れていました。ここもステキなところだったし。まあ、それくらい傷が浅いというか付き合い方が浅いというか・・・。」
「浅い?」
ちょっと余計な事を言っちゃった。
そう思ったが、昊人もいろいろ自分の事を話してくれたんだから、と心の紐が緩む。
「・・・はい。」
もう、見ず知らずの人だけど言っちゃおうかな、と少しだけ投げやりの気持ちが顔を出す。
どうせ今夜だけの事。
誰かに聞いてほしいと言う気持ちも無くは無い。
以前、女友達に話した時もあったが、あんまり親身になってくれなかった。
それ以来、どうせ理解してもらえないなら、と人に話す事は辞めた。
異性に話した事は無い。
だったら、どんな反応を見せてくれるのかちょっと興味がある。
「人に触れられる事が・・・どうしても気持ち悪くて。」
「気持ち悪い?」
昊人の目を見て頷く。
「手を繋いだり、肩や腕を組まれたり・・・キスも触れ合うだけで、好きと思っていた気持ちが、その途端に無くなるのを通り越して、嫌悪感って言ったら言い過ぎかな・・・。そんな感じなんです。だから、付き合ってもそれが理由で相手から離れて行っちゃうんですよね。こんな歳でそんな聞き分けの無いことを言って、もっと大人になれ、て言われた事もあるんです。自分でもそう思うし・・・。だから、今日で、もう無理かなって思いました。こんな嫌な思いしかしないなら、一生1人でもいい!て。」
「そんな、一生って・・・。まだ若いんだから、もっと好きな人が表れるんじゃないの?そしたら解決すると思うけど。」
「毎回、毎回、自分が原因だから後味悪いです。・・・ああ、折角美味しいラテを入れてもらったのに、不味くなっちゃいますね。」
「え?ラテ、不味かった?」
後ろからかかるその声に振り向けば柊馬がパンケーキを両手に覗き込んでいた。
慌てて首と手を振って否定する裕。
柊馬は約束通りストロベリーとクリームチーズのパンケーキを2人に持ってきてくれた所だった。
夜にしてはボリュームのあるそれに2人は驚いたが味はとっても美味しかったので残さず食べた。
終電に間に合うように二人は店を後にした。
新作パンケーキの完食に満足した柊馬は機嫌よく、裕にもまた来るように言ってくれた。
その様子に、もう疑いははれたのかな、と思い裕も気分が良くなった。
何を疑われたのかは謎のままだったが・・・。
駅まで歩く間に昊人からカフェでの会話について2人とも話しすぎたね、と言われた。
「夜のせいかな、なんだかお互い素直になるね。」
そう言われて、妙に納得したが、確かに、少々深い内容だった事に裕も反省した。
駅の改札を抜けるとお互いホームが違う事に気付く。
「じゃあ、ピアノ、頑張ってくださいね。」
そう裕が言うと、驚いたように昊人が目を開く。
でも、すぐに笑顔になり、右手を出し握手を求めてきた。
「うん。裕ちゃんもえーと・・・仕事がんばって?でいいのかな?」
自分がどんな仕事をしている事さえ話していない事に気付く。
「はい。頑張りますね。・・・今日はありがとうございました。」
握手に応えて裕は昊人の右手を軽く握る。
昊人の手の温度を感じた瞬間、強く握られそのまま手を引かれた。
驚く暇が無く、昊人の爽やかなでも男性的な香水の香りを感じた時には、腕の中に閉じ込められ、抱きしめられていた。
「え?!」
裕の驚きの声と同時に頬に僅かな温かさを感じた。
そして、その温かさと昊人の香りがすぐに離れていった。
「外国では、挨拶だからね。・・・じゃあ、またね。」
悪戯が成功したと言わんばかりの顔をして昊人が階段を駆け上がって行くのが裕の目に映る。
もしかして、今のって、頬にキスされた?
そうだ、今のは絶対キス!
一気に熱くなった何かが裕の身体を駆け巡る。
えー!こんな、人もたくさんいる所で、なんて事をしてくれたの!
そう思って当たりを見渡したが、終電に近い時間と言う事もあり、そんなに人はいなかった。
少しだけホッとしたが僅かな人の視線が嫌でそそくさと自分の乗りたい車両が止まる場所へと移動する。
もう!と思いながらも、イケメンにキスされるなんて悪い気がしないと思い自然に顔が緩む。
またね、て言ってたけど連絡先など交換していない。
アレは社交辞令ね。
でも、また会えたらいいな、と昊人がキスした頬を撫でながら願った。
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